020

カバンからICカードを取り出して駅の自動改札機に触れようとした瞬間、奈々は後ろから腕を引っ張られてバランスを崩した。

が、一瞬のうちに優しく支えられる。


恐る恐る振り向くと、そこには今一番会いたくなかった倉瀬が立っていた。

走ってきたのか、若干息が乱れている。

掴まれた腕、支えられた腰から倉瀬を嫌というほど感じで、じんじんと脈打つ。


「…放してください。」


早く放してくれないと胸の鼓動が伝わってドキドキしているのがバレてしまいそうで、奈々はもう片方の手で胸のあたりを押さえた。

ドキドキするなんておかしい。

そう思いつつも、感情とは裏腹に鼓動は早くなるばかりだ。


「何で逃げるんだ?」


「別に…逃げてなんか…。」


責めるように言われて、奈々は口ごもった。

違う、逃げたんじゃない。

倉瀬が追いかけて来ただけだ。


「…何で追いかけてくるんですか。」


キッと睨むように言うと、倉瀬は奈々を見つめた。

吸い込まれそうな綺麗な瞳。

思ったよりも長い睫毛。

通った鼻筋に綺麗な形の口。


近くで見ると本当に端正な顔立ちをしている倉瀬に、奈々の胸は高鳴る。

そんなことをチェックしてしまった自分に自己嫌悪になり、奈々は急いで目を逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る