❤︎EX 真・流湖の想い その1

 

 私の名前は折原流湖おりはらるこ16歳。県立巻果高校けんりつまぎか、通称マギ高に通う一年生。部活は美術部。


 成績はそんなに悪くない方だし、自分で言うと嫌味に聞こえるかもだけど、ルックスやスタイルも悪くないと思う。

 また、好きな人ができてからは、ちょっとしたお化粧にも気を付けて、少しでもいい自分を作ろうと努力している、花の女子高生だ。


 人間関係も良好だし、最近は新しい友達と出掛けたりするようにもなった。

 また、高校になってできた親友と呼べる女の子にも彼氏ができて、私としても嬉しい気持ちで一杯だ。


 そんな私の人生で唯一、順調じゃないと言えるのは、今頃になって生まれて初めてできた好きな人が色々な事情で中々振り向いてくれないこと。その好きな人というのは………………同じ高校に通う、隣のクラスの伊勢川伊導いせかわいどうくんだ。


 夏の一件を経て、秋からは一緒に遊んだりする仲にもなり。

 彼と過ごすうちに、私の気持ちはどんどんと大きくなっていく----







 彼には妹さんがいる。

 伊勢川真奈ちゃん14歳。私と同じく芸術の才がある子で、見た目も美人。お兄ちゃんっ子であり、そんな真奈ちゃんを伊導くんも可愛がっている。


 だが、その妹さんは、『伊導お兄ちゃんのことが好き好きすぎて脳がアヘアヘしちゃうのおおおおお病』という一種の依存症を患っている。一見ふざけているのかと思うが、病院から診断を下されたれっきとした病気だ。


 伊導くんのフェロモンを浴びると、脳内物質が異常に放出され幸せな気持ちになると同時に、その物質の効果が切れると反動で体調を崩してしまうというものだ。


 そんな大変な状況にある真奈ちゃんだが、そうなった原因というのが、お兄さんのことが"異性として好き"だからだという。

 つまり、伊導くんのことを幼い頃から好きで、さらに家族である故に殆ど毎日長い時間を一緒に暮らすうちに、伊導くんのフェロモンを異常に摂取しやすくなってしまったというのだ。




 そう、一言で言えば恋のライバルなのだ。




 私も、最初ウチの所有するアパートで打ち明けられた時はびっくりしたし、少し嫌悪感を抱いてしまった。だって、血の繋がった兄妹なのに、異性として付き合いたいだなんて。

 少なくともこの国では、社会的にそのような近親相姦的状況というのは受け入れられない場合が多い。ライトノベルなどの創作物ですら、そのような描写は多いのだから、感情があるリアルの人間からすれば尚更だ。


 実際、真奈ちゃんと二人で"お話"をした時は、言い合いになった…………







「でもそれって、いわゆる近親相姦になるんじゃないの?」


 アパート前の廊下で、私は正論をぶつける。


「そうですね。でも、聞いてください。私、あなたと喧嘩するつもりはありません」


「どう言うこと?」


 その物言いに眉を潜めてしまう。が、彼女は話を続ける。


「お互い好敵手ライバルでいましょうって話です。勿論、美術部の先輩として敬っているのは本当ですし、高校に入っても仲良くしていただけると嬉しいです。見学も、喜んで行かせていただきます」


 なるほど、そうきたか。私は先手を打ってきた強かな彼女をみ、内心舌打ちをした。そう言われると、こちらが何を言っても悪いようになってしまうではないか。


「ふーん、じゃあ、そこまで言うんなら、伊導くんのどこが好きか言ってみてよ」


「そんなの簡単です」




 と、伊勢川さんは伊導くんの好きなところを延々と挙げていく。私も負けじと対抗し、数分が経つと。




「ぐっ、はあ、はあ。やるわねあなた」


「せ、せんぱいこそ、さすがです」


 私たちはいつしか互いに不敵な笑みを浮かべ、好きなところなどの議論はとうに通り過ぎ、ひたすら己の持つ伊導のマニアックな情報を自慢し合う闘いを繰り広げていた。


「それにしても、知り合って数ヶ月でそこまで好きになるだなんて、相当・・ですね」


「そっちこそ、そんなに昔から好きだったなんて筋金入りのブラコンね」


 互いに無言で睨み合う時間が続く。


「……」


「………」


「…………」


「……………ぷっ、あははは!」


 と、耐えきれなくなった私は思わず吹き出してしまった。


「わかったわかった、真奈ちゃんの想いはもう充分伝わったよ〜」


 普段の口調に戻し、片手を差し出す。


「じゃあ、これからは伊導くんのことに関してはライバルで、美術部としては先輩後輩で、そして一人の女同士としては良き友達で、ってことでどうかな〜?」


「賛成です。よろしくお願いしますね、折原先輩」


「呼び捨て、でいいよ」


 ここまで言い合った仲なのだ。今更改まって遠慮することもないだろう。


「え? いや、流石に急にそれは変に思われるかもしれませんので、じゃあ、流湖先輩でどうですか?」


「うんうん、それでもいいよ〜。じゃ、戻ろっか」


 と、こうして私と彼女の間には、半日にして奇妙な関係が出来上がった。








 ――――思えば、すでにこの時から、私は彼女に潜在的な劣等感を抱いていたのかもしれない。

 私よりも付き合いが長く、伊導くんのこともよく知っており、積極さも明らかに向こうの方が上だ。

 私は、最近ようやく教室などで普通に話せるようになったばかり。今までは登校時だけだったことも鑑みると、向こうとのハンディキャップが大きすぎるのだ。


 だがそれでも、恋に待ったはない。特にこの年頃の男女というのはいつの間にか付き合っていつの間にか別れていたなど当たり前。私や真奈ちゃんだけじゃなく、他の女子が猛烈なアタックを仕掛けて来ないとも限らないのだ――――




 だがそんなこんなで時間が過ぎていき、定期テストも終わり。

 ウチのアパートへの二人の引っ越しも終わった次の日、みんなで出掛けることとなった。


 まあそれまでに、三住理瑠ちゃんという真奈ちゃんのお友達が伊導くんに一目惚れしたと告白したり。

 実は中学の頃から両想いだった、伊導くんの友達の阿玉泰斗くんと、私の友達の増田霞が付き合うことになったり。

 と色々とハプニングがあったのだが。


 私はお気に入りのピアスをつけ、髪の毛をこれでもかとセットし。化粧もいつもより気合を入れる。

 今回は『ターンスリー』に行くということで、運動するかもしれないから崩れないようにも心がける。


 でも伊導くん、私の自分でも表に出し過ぎかなと思うくらいのあからさまな気持ちに気付かないだけじゃなく、女の子のちょっとした違いにも余り関心がないようなんだよね……妹さんがいるというのに、そういうところは学んでこなかったのだろうか?




 ともかく、目的地に着き。皆で色々と楽しんだ後、お昼時。


 私達は席を確保しておくという彼と三住さんに留守番をまかせ、四人それぞれで思い思いの料理を注文しにいく。


 私は案内板を見て、少し奥の方にある中華料理屋が食べたいと思い、向かった先で。どうやら目的の店舗は休みだったようで、そこら辺は他の店も含めて店員もいなく、客もいない。もしかすると工事か何かで一時閉店している区画なのかも?


 私は仕方なしに、他の店に向かおうとすると。


「おうおう姉ちゃん、一人か?」


 え、何この人たち……


「ちょっち、俺たちといいことしようよ〜いいだろう〜?」


「や、やめてください!」


 見るからに悪そうな三人組に絡まれてしまった。


「いいじゃねえか、一人なんだろ? そのさみしいお身体慰めてあげたちゅよ〜」


「いい加減にしてください!」


 と力を込めて腕を振り払うと。


「っつ! 何しやがんだこのメスガキゃ!」


「ひっ」


 男は、怒った様子で私に迫ってくる。そして笑顔になり、ふたたび。


「悪い子にはお仕置きしなきゃですね〜?」


「ぎゃはは、違いねえ!」


「先輩やっちまってくだせえ!」


「だからやめてください!」


「なんでだよ〜いいじゃねえか〜、いいことしようぜえ〜?」


「い、いやっ」


 私の腕を掴み、奥の暗いところへ連れて行こうとする。


 と。


「おい、何してんだお前ら!!」




 い、伊導くん!!!


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