第44話 カラオケとデュエット

 

 カラオケ広場につき、通されたのは十人ほどが座れる少し広めのルームだった。


 凹の字型のソファの左端から泰斗、霞、理瑠。反対側の右端から真奈、俺、流湖だ。出入口は左上にあるため、泰斗が入り口に陣取り、流湖を一番奥にして守る形となっている。流石に襲ってくるやつはいないと思うが、安心させるための配慮だ。


「じゃあ誰から歌う?」


「私は、まだ歌えるくらいまでにはなってないから、みんなの歌声を聞いて楽しむよ、いいかな?」


 未だに俺の腕をがっしりと掴み離さない流湖が申し訳なさそうに言う。


「おう、そうか、なら歌う気になったら言ってくれ。もう今日はここに入れるだけいて、終わったら帰ろうと思ってるし。皆もどうかな?」


 と提案すると。


「賛成っ」


「だな。今更他のところに行ってもだし」


「流湖先輩第一です!」


「お兄ちゃんの言う通り、カラオケで締めていいと思う」


「じゃ、そゆことで」


 今の時間は大体午後2時だ。フードコートに着いたのが12時半頃で、それから午後1時過ぎには事情聴取が始まり。40分ほど簡潔に話をした後、ここにきた。


 フリープランのパスの有効時間は、一応無制限ということになっているがそんなわけはなく、内部的にはその日の(翌)朝5時までとなっている。なので居ようと思えばあと13時間ほどはいられるわけだが、いくらなんでもそんなに歌い続けられないし。

 何より未成年なので条例に引っかかってしまう。16歳〜18歳が同伴でも22時までが限度となっている。


 因みに15歳以下のみだと20時まで。19歳以上の同伴では24時までとなっている。それ以降は19歳以上のみの構成でしか居られない。


 実質的にいられる時間は、16歳の人間がいるので午後10時までの8時間ほどだな。


「じゃあ歌う順番はどうする?」


「泰斗から、流湖を抜かした反時計回りでいいんじゃないか?」


「そうだな、それで良いか」


「ですねー、早速先輩、一番乗りお願いします!」


「おうよ、俺の美声で痺れても知らないぜ?」


「昨日はあんなにだらしない声上げてたくせにっ……」


 泰斗がドヤ顔でカッコつけたところ、霞がとんでもないことをボソリと言う。


「!!」


「霞先輩!?」


「えっ」


「うそ!」


「な、なな……!」


 全員がその一言でギョッとする。真奈に至っては顔が真っ赤だ。


「そりゃないだろ、今ここで言うことかよ……」


 泰斗も流石に引いて、霞に怒る。


「あまりにもドヤ顔にムカついて……ごめんなさい、流湖もいるのにっ」


「あ、あはは、いいよいいよ。それだけ二人の愛が深いってことでしょ?」


 と大人の対応だ。


「本当にごめんなさい、そんなつもりなかったのっ」


「じゃあ後で詳しく聞かせてよ、泰斗くんのことも霞のことも」


「うん、わかった、そうするっ」


 爆弾発言にも関わらずなんとかその場は収まり。


「じゃあいくぜ! 『マシンガンY』!!」


 昔製作されたロボットアニメの主題歌だ。


「<ましーんがーんわいわいわーい! 敵をダダダと撃ち抜くぞ〜〜>」


 泰斗がノリノリで歌う。


「阿玉先輩ってこういうの好きなんですねー」


「泰斗は私が教育したおかげ? で、アニメの曲を色々知ってっ。中でもロボットアニメが気に入ったみたい」


「へえ、そうだったのか。それは初めて知ったな」


「ふふ、見た目通りの熱さだね〜」


 流湖も少しずつ調子を取り戻してきたのか、いつもの通りにふんわりとした喋り方をする。

 だが俺の腕を掴む力は強いままなので、引き続き注視する必要があるだろう。


「ふう。では点数のほうは!」


 歌い終わった泰斗がセルフドラムロールをする。そして。


<80点! 可もなく不可もなく! 普通でしょう!>


「ええっ」


「ふふふっ、先輩あれだけ熱唱してたのにー!」


「あはは、面白いね、この機能」


「だな」


「でも楽しそうだったのでいいじゃないですか。ね、先輩」


「そ、そうだぞ! 大事なのは点数じゃなく、歌い心地の方だからな!」


 真奈のフォローに泰斗が乗っかる。


 ちなみにこの採点機能は、100点満点までの点数だけじゃなく、曲全体の平均点も考慮して評価をしてくれる。

 なので、平均点が高い曲で同じくらいをとっても思ったより辛辣な評価を下される事があるのだ。


「じゃあ、次行きまーすっ」


 霞がマイクを持ち、歌い始める。

 曲は何かのアニメのラブソング風主題歌だ。


「<ああ〜〜あなたがいちばん〜〜いちばんすてきよ〜〜。わたしのなかを〜〜みたしてよ〜〜みたされたいのよ〜〜>」


 な、なかなか過激な歌詞だな。


「ふうっ。やはりこの曲はいい。いつか泰斗の前で歌いたいと思っていたっ」


「霞……」


「泰斗……」


「はーい点数いきまーす」


 理瑠がすかさずインターセプト。助かったぜ……こんな密室でピンクな空間を作ろうとしてないで欲しいものだ。


<88点! 好きな人に対する気持ちがこもってましたね! 爆発しろ!>


「あはっ、機械にまで言われるなんて相当だね〜、ふふふっ」


「おっと」


 流湖が笑い、俺に寄りかかってくる。


「あ、ごめん!」


「いや、いいぞ。今日くらいは好きにしたらいい」


「ありがとう〜」


 とその肩くらいまであるセミロングの髪の毛をグリグリと擦り付けてくる。

 横にいる真奈から若干負のオーラを感じるが、近くに座っているため俺のフェロモンを微量に摂取できているはずだから我慢してくれ。


「じゃあ次はいよいよ私の登場ですねー! ふっふっふ、皆の衆よ恐れ入れ、この理瑠様の素晴らしき歌声に!」


 と、マイク片手に仁王立ちをする。


「なんでそんな偉そうなんだ……」


「すごい自信だねっ」


「なんかむかつくぜ……」


「<あ〜あ〜〜〜、たきのながれのな〜かに〜〜、こ〜い〜の〜ぼる〜〜、くまさんそ〜れみて〜おどる〜>」


 と往年の歌謡曲を歌う。


「理瑠ちゃん、言うだけはあるね〜」


「そうだな」


 流湖はついに俺の膝の上に座り出してしまう。まあそれでも俺の方が座高は高いので邪魔にならないしいいのだが。


「ふふん、どうでしたか?」


「くっ、今回ばかりは負けを認めてやる……!」


 と少年漫画のライバルのようなことをいう泰斗。


<92点! 歌は上手いですが鼻につく歌い方ですね! うざい!>


「ええーー!!」


「あはははは、理瑠、機械にうざいって! あはは!」


「むむむー! 真奈、覚えてやがれー! だよ!」


 と二人は親友同士特有のじゃれつくような掛け合いをする。うむ、兄としても人間関係が良好なのはいいことだ。


「じゃあ次は俺か。流湖、すまないがちょっとどいてくれるか?」


「いや」


「え? でも、歌いにくいんだが……」


「私も一緒に歌う〜」


「おい、いいのか?」


「うん。わがまま、かな?」


 と、俺の顔を見上げて眉を下げ苦笑いする。


「いいや、そんなことないぞ。皆もいいか?」


「いいじゃん、デュエットしちゃえよ」


「うんうんっ」


「今日のところは流湖先輩にお兄さんのことお譲りします」


「むうう、私も後でしてね?」


「はいはい、真奈も後でな。じゃあ何歌う?」


「ん〜、じゃあこれ、かな」


「おお、これなら俺も知ってるからいいぞ」


「ほい、マイク」


 と泰斗が霞伝いに流湖へ渡す。


「ありがと! じゃあこのまま歌おうよ」


「え? 座ったままでいいのか?」


「うん、むしろここがいいの」


「そう言うなら、別にいいが」


 そうして曲が始まり。


「<ふたりの〜あいは〜はじまりました〜>」


「<わたしとあなた〜だけの〜せかいです〜>」


「<いつか〜ゆめみたこうけいに〜>」


「<いつか〜ゆめみたかんけいに〜>」


『<わたしたち〜なることできました〜〜〜>』


 と、有名なCMで使われているフォークソングを歌う。


「……ふう、伊導くんありがとう」


「いや、流湖も意外と歌上手いんだな」


「<なにそれ〜〜ひどくないですか〜〜?>」


「ああいや、別に悪気はなかったんだ、すまん」


 マイクを通して流湖が抗議してきた。俺は慌てて弁明する。


 そして点数は。


<100点!!! すごいでーす! 特に女性側の男性にたいするアツいアツーーい気持ちが伝わってきましたよ! よっ、このモテ男っ>


「なんだこの採点は……でもよかったな、流湖。褒められてるぞ」


「あ、う、うん。そうだね、えへへ〜」


 と、彼女は照れながら頬を掻いた。



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