第33話 引っ越し終わり!

 

 とんでもないイベントがありながらも。

 一先ず早急に片付けておきたい荷物の分は何とかなった。後は俺と真奈で少しずつ片付けていけばいいだろう。


「みんな、今日はどうもありがとう」


「ありがとうございました!」


 二人して、頭を下げる。


「いいってことよ、二人暮らしで困ったことがあれば言ってくれよな」


「そうですねっ、出来ることであればいつでも力になりますよっ」


「私はすぐそこにいるから、気軽に呼んでくれていいからね〜」


「私も、先輩のためならたとえ火の中水の中!」


 と、四人それぞれが、意思を表明してくれる。

 だが理瑠よ、水の中ならまだしも火の中は危ないからやめような?


「じゃあ、そろそろ隣の家に……」


「あ、そうだ。真奈、あの話したの?」


 と、理瑠がいう。


「え? カラオケのこと? そういえば途中で止まってしまっていたわ……」


 確か、理瑠と俺たちの三人で云々という話まではしていたはずだ。


「カラオケ? いいじゃん、カラオケ行こうよ!」


 と、流湖がはしゃぎ出す。


「カラオケかあ、俺も久しぶりに行きてえな」


「わ、わたしもっ、泰斗が行くなら行くっ……!」


 どうやら他の二人も賛同するようだ。


「じゃあ、決まりですねー! 先輩、六人カラオケ、行きましょうよ!」


「あれ? じゃあ打ち上げもそれで良くない?」


「そうだな、せっかくだしカラオケだけじゃなくて色々遊びに行こうぜ?」


「ほうほう、それも楽しそうですな〜」


 と、本来ならば明後日行うはずだったテストの打ち上げも一緒にしてしまおうと言う。


「先輩方の打ち上げですか? ねえねえ真奈、折角だし参加させてもらおうよ」


「え? でも、そこまでは」


 真奈は俺の顔を見、眉を下げ判断を仰ぐ。


「いや、いいんじゃねえか? せっかく頑張ったんだし、それに流湖たちもいるから美術部の話なんかもできるんじゃないか?」


「そうよ、真奈ちゃん。それに他にもお話し・・・したいことあるしね〜」


 と、流湖が笑顔でいう。


 お? 流湖と真奈は、思ったよりもとっくに仲がいいようだ。うむ、兄として、将来の先輩として安心したぞ。


「……そうですね!」


 真奈も同じく笑顔だ。だが何か火花が飛び立っている気がするのだが……君たち本当に仲良いんだよね? ね?


「私もじゃあ先輩の将来のお嫁さん枠で!」


 理瑠は先ほどの一件を懲りていないのか、平気で告白めいたことを言ってくる。


「いや、だからお嫁さん枠とかねえから! まあ、一緒についてくる分にはなんも問題ないだろう」


「そうよ! せっかくだしこの6人で朝から晩まで遊び通そうぜ! とくれば、日付はどうする?」


 泰斗がスマホを取り出しながらいう。


「明日……はみんな予定あるのか?」


「わたしは特に〜」


「わたしもっ」


「俺も大丈夫だぜ」


「私も、お兄ちゃんとここの整理をする予定だけだよ」


「理瑠ちゃんもバッチこいですよ!」


 お、皆空いているのか。


「じゃあもう決まりだな。1日早いが、打ち上げと行こうか」


「いぇ〜い」


「おっしゃ、テスト疲れが吹っ飛ぶくらいパーっとやろうぜ!」


 とはしゃぎ出す。


「お、おい、あんまり煩くするとお隣さんから怒られるぞ?」


 初日から壁ドントラブルとかごめんだぜ。


「あ、そこは大丈夫。うち、防音だけはしっかりしてるから。なので夜の営みも大丈夫だよ〜、ま、そんなことしたら問答無用で追い出すけどね〜」


 と流湖がいう。


「よ、よよよよるの営みっ」


 すると霞が顔を赤くしあたふたする。

 あれ、創作物好きって割にはそういうのには弱いのか? まあ偏見かもしれないから黙っておこう。


「流石にそんなことしないだろう、な?」


 と、泰斗は俺の肩を強く掴む。


「あ、当たり前だろ、何怒ってんだよ」


「俺より先に卒業したら……許さん」


「えぇ…………」


 どんな理由やねん。


「私は、先輩とならいいけどな〜」


 と、胸元をチラチラさせながらいう。その手には乗らんぞ、あと泰斗も居るんだからそんな端ない真似は止めなさい!


「理瑠、あんまり言うと怒るよ」


「ひょ、ごめんっ」


 真奈がシュバババっと理瑠のもとに寄っていき、先ほどの霞よりも迫力のある黒い目で脅す。理瑠は反省したのかそれとも怯えたのか一瞬でシュンとなる。


「まあ、それはともかく。一旦家、行きましょう〜」


「おっけー」


「はーい」


「お邪魔しますっ」


 そして隣の折原家は皆で揃って向かう。


「お、帰ったか。どうだ、なんとかなりそうか?」


「大丈夫だろぉ、高校生がこんなにいるんだから、そこまで判断できねえことねぇって。お前、一見頑固そうに見えて子供には甘いよなぁほんと」


 父さんと勇二さんは、また酒を飲んでいる。この二人を合わせたらこうなる運命なのだろうか。どちらにせよ、昼間からあまり呑みすぎないで欲しいものだ。


「まあ順調です。あの、今回は本当にありがとうございます。俺や真奈のために色々と融通利かせてくださって、助かります」


「気にすんな。これも人の縁がおりなすことよ。お前さんも、友達は大切にな」


「はい、そうします」


「そうそう、友達は大切にね〜〜」


 と、流湖ウェーブのかかった髪をふわりとさせ、俺の腕に抱きついてきた。


「お、おい」


「いいじゃんいいじゃん、友達っぽいでしょ?」


「「むう」」


 彼女の蛮行(?)を見た真奈と理瑠が腹を膨らませる。


「おいおい、こりゃまいったなあ……前来た時も俺の娘をどうだと言う話をしたが、やはり考えてみないか?」


「すみませんが、今もまだ彼女を作る気にはなりません。とにかく今は妹のことが第一ですので」


「かぁ〜っ、たく、妹想いなお兄さんだねぇ、まいったなこりゃ」


 と自分の額を掌で叩く。やけに芝居が勝っているが酔っているせいだろうか?


「仕方ねえ、流湖。お前あっちで生活しろ」


「「「え?」」」


 勇二さん以外の皆が一同に声をそろえる。


「大家の部屋、空いてるだろ。あそこ住めるようになってるじゃねえか。この二人を助けると思って、どうだ? それにそのうち、お前にも経営を手伝って貰わなきゃいけねえ。少しずつでいいから仕事を覚えて欲しいんだ」


 といい、一杯酒を煽る。


「勿論、その分小遣いを渡す。それで好きなものでも買え。あ、わかってると思うが、他の住人にもちゃんと応対するんだぞ? あくまで大家の仕事を学ぶんだからな。俺は俺でまだまだ大工の仕事を続けたい。手前が手伝ってくれると、打ち込めるってもんだ」


 勇二さんのべらんめえ口調が強くなってくる。


「うーん、そうだねえ〜……わかった、やってみようかな」


「え、いいのか?」


「うん、どうせ高校卒業したら美術大学に行きたいと思ってたんだ。家でパパと暮らすだけじゃなく、自分一人の環境を持つのもいいかもしれないし。実質一人暮らしになるしね」


「一人暮らしの人が聞いたら怒りそうだな、まあそうさみしいこと言うなって。別にうちを出て行けって言ってるわけじゃねえんだからな? 行き来しても何の問題もないぞ」


「それでも、やってみるよ。伊導くんや真奈ちゃんとも協力して、真奈ちゃんの病気が治るよう私も頑張るから」


 と、俺たちの方を向いてガッツポーズをする。


「ありがとう、折原」


「ありがとうございます、先輩!」


「さっきも言ったけど、俺たちも手伝えることがあれば何でも言ってくれよな」


 すると、泰斗はそんなことを言ってくれる。


「ですですっ、私もたまには顔を出すよっ」


「私もー! 真奈のことが友達の中で一番大切です!」


「あらあら、伊導ったら。勿論私たちも来るからね? 監視の意味も込めただけど。子供達だけで1年間放置しておくわけにはいきませんから」


「そうだな。まだ心配事も多いし、親として気は抜けん」


「兄さん、よかったですね」


「ああ、共同生活、頑張ろうな」


 俺は、真奈に対する不安俺を好きなことを自分のうちに秘めたままに押し殺しながら、笑顔を作ってみせる。

 後回しにしてしまった感があるが、それは共同生活の間に徐々に認識を変えさせていかなければならない。

 それに毎日、流湖というある意味での監視者がいるわけだし。


 こうして、引っ越し第一日目の残りは過ぎていった。







「あ、そうだ。私のことは流湖って呼び捨てでいいから」


「え?」


「じゃ、じゃあ私も理瑠で!」


「わたしは、泰斗だけに呼ばせたいので、ごめんなさい」


「むうううう〜〜、皆どさくさ紛れにっ!」


 何とも締まらない終わり方だ…………




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