第34話 アパート初日の夜、妹と…… その1
夜。晩ご飯を折原家でご馳走になり。両親と皆は帰宅する。
そして流湖は準備があるからと、今日ではなく明日から下の管理人室に大家見習いとして住み込むことになった。
「じゃあ、伊導、頼んだぞ。しっかりしろよ」
「私たちもたちもまた様子見に来るからね!」
「ああ。頑張ってみるよ」
両親が言い、俺は二人を送り出す。
「明日、よろしくな! 9時くらいにあっちの駅で集合ってことで」
「楽しみですね〜」
「は、初デート」
「あっ……そうだな」
と、泰斗と霞は顔を赤くし、それを流湖が弄る。
「先輩先輩。私、諦めませんからね? 今は真奈のことがあるから、ちょっとは大人しくして差し上げますが。もし状態が良くなってきたら、遠慮なしに行きますので!」
「いやいや、そこは遠慮してくれよな……」
理瑠はポニーテールをフサフサと揺らしながら宣言する。
「むうううっ! 理瑠と三角関係になるなんて……!」
真奈が頬を膨らませいじける。
「友達でも、恋のライバルには慣れるでしょ? それとも、真奈はこの勝負から逃げるわけ?」
「に、逃げないもん! いつかきっと、ブーケトスをしてあげるわ」
妹は既に結婚する時のことまで考えているようだ。気が早すぎるし、そうならないように俺は逆の努力させてもらおうか。
「…………」
だが流湖が、そんな二人の様子を見、寂しそうな顔をする。
「どうしたんだ、折原……いや、流湖?」
「ううん。ただ、私も覚悟を決めなきゃな〜って思って」
覚悟? 好きな人に告白するためのだろうか。
「俺、恋愛のこととか余り分からないし、増してや女子の気持ちなんて尚更だけど。それでも友達として、応援させてもらうよ。実るといいな、その想い」
「あ、ありがとう」
照れ臭い台詞を聞いたからか、流湖は頬を赤らめて俯く。
そうして理瑠や泰斗たちに別れを告げると。
「おう、今日はお疲れさん。二人きりの生活、何かと都合が悪いことも出てくるかもしれねえ、友人の子供だ、遠慮なく頼ってくれよ」
と、未だ酒臭い勇二さんがやってきて言う。
「はい、ありがとうございます。お世話になります」
「お世話になりますっ!」
「……明日からは、私も一緒に生活するから、よろしくね二人とも〜」
流湖はパッと顔を上げ、そう言って笑顔で手を振り勇二さんと家へと帰って行った。
「よし、行くか」
「うん」
二階へ上がり、部屋の扉を開ける。
ただいま、1年間よろしくな--
というわけでこの建物には、今は俺たち二人(勿論他の住人はいるが)だけだ。
まあ、何かあれば隣から流湖がすっ飛んで来るとは思うが。
「お兄ちゃん、これからよろしくお願いします」
「ああ……もう引っ越してしまった以上、後戻りはできないぞ。わかっていると思うが、目的はあくまで真奈の依存症をどうやったら軽減できるか、そして効率的な治療法があるのかという実験の意味合いが強い。お前と恋仲になるとかはごめんだぞ」
「むぅ、わかってるよ……でもお兄ちゃんから私のことを好きになるのは私のせいじゃないよね?」
「は?」
と、真奈は洋室の床をすり寄ってくる。
「だから、私からアプローチしたら、お兄ちゃんは怒るでしょ?」
「まあそうだ。それに母さんたちも言ってただろう、近親恋愛は駄目なんだって」
「じゃあ私のことを好きになるようにさせたらいいじゃないってね? お兄ちゃんがもし私と付き合ってくれる気になったら、駆け落ちでもなんでもすればいいし。それくらいの覚悟、あるよ? 両想いになれば、そんなこと言ってるお兄ちゃんも一緒に身を隠すしかなくなるし……」
「何を言ってるんだ。頭を冷やせ」
今日の真奈はおかしい。特に理瑠が告白してからずっと不機嫌だ。
今も、口は笑っているけれど目は笑っていない。相当本気なようだ。
「だって、理瑠がお兄ちゃんのこと好きになるなんて考えもしなかったもん! わかってたら呼んでないよ。それに、あの人も……」
あの人? いったい誰のことだろうか?
「とにかく、疲れているだろう? ゆっくり寝て、明日になればきっと落ち着いているさ。今の真奈は冷静じゃない、確かに理瑠があれだけ攻めてくる子だとは思ったなかったが……」
真奈が俺のことを昔から好きだというのを今更どうこう言っても仕方がない。俺が付き合おうとしなければいいんだし、第一妹なんだから彼氏彼女になんてなる気はさらさらない。
理瑠ちゃんも、俺の言い分を理解して一旦は身を引いてくれたので、直ぐに
そもそもあの子のことを知らなすぎるし、急に告白されても答えようなんてない。俺は徐々に仲を深めていく派なのだ。
「うん、そうだね。私も明日、もう一度きちんとあの子の気持ちを聞いてみるよ。泥棒猫は許さないんだからっ」
何で既にあなたのもの扱いになってるんですかねえ、妹様よ……
「ほら横になって、カーテン閉めるけどいいか?」
「えぇ〜」
「えぇ〜、じゃない。一応年頃の男女なんだ、エチケットは必要だろ」
「むむむむむ。あ、その前に『お兄ちゃん成分』補充させてよ!」
「ああ、そうだったな」
こればかりは仕方がない。倒れられても困るからな。今日のところは普通に摂取をさせて、明日から時間を短くしたり色々と試して行こう。もちろん、真奈の身体に悪影響を及ぼさない程度にではあるが。
俺も甘いかな、やはり急に絶対に近づくな、などとは言えない。蛇の生殺しとはいうが、妹にしてみればまさにその状態だろう。好きな人なのだというから尚更だ。
それにしても、俺が妹にとっては薬物と同じようなものになってしまうとは。先生曰く脳内物質が過剰に分泌された結果後戻りできなくなりつつあるせいだ、とのことだが。
思えば禁断症状で体調が悪くなり、中学校の授業中に倒れたのが始まりだったな。超えちゃいけないラインを超えて脳が俺のフェロモンを求めるようになったからって話だ。
つまりこれからの生活では、俺のフェロモンをあまり浴びさせないようにしつつ、しかし真奈が倒れない程度には摂取させないといけない。
また、俺を異性としてみるのも諦めさせて、別の好きな人を作るようにも促していかなければならない。こちらは両親が求めているミッションだが。
世間体があるからとはいうが、自分の子供たちが付き合うというのは単純に親としても認められないところがあるのだろう。
だがそもそも、何故これほどまでに二人暮らしに拘るのだろうか?
『二人暮らしをしてみて、兄妹とは何かっていうのを考えて欲しい、多少無理にでも、徐々に伊導離れをするべきだ』
とは言っていたが。
俺たちも以前話し合って納得した上でのこの状態なので、文句があるわけではない。
それとは別に、両親は俺たちが"兄妹であること"に異常に拘っているように見えるのだ。
例えば、一時の過ちだからと見逃す親もいるだろう。
例えば、本当に好き合っているなら許す、という親もいるだろう。
勿論、その家庭ずつの考え方があるし、一概におかしいとは言えないのだが。それでも、ここまでして両親曰く『荒治療』をさせているのには、何か他の思惑がある気がするのだ。
機会があれば、一度聞いてみるべきだろう。俺の思い過ごしで他の意図など何もないというのでば、別にそれでいいのだから。
「はい、お兄ちゃん……」
と、真奈は両手を広げる。
「ん? なんだそれは?」
「お姫様抱っこ」
「はあ?」
「ほら、早くっ早くっ」
妹はキラキラした目で見てくる。し、仕方ないなあ……
「ほらよっ」
「わー、しゅごい、お兄ちゃんの顔がこんなに近くに……」
「はいはい、わかったから」
こいつの顔、こう改めて間近でみると結構整った方なんだよな。
こっちとあっちは数メートルしか離れていないので、すぐに俺のベッドにゆっくりとおろしてやった。
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