第5話
その日、牧野千歳は自分を落とそうとする男どもを次から次にさばいていた。
数分の会話で1ミリも手応えを感じない男達はしょげた顔で何処かへ去っていく。その繰り返しを見ているのが面白くて目の前の女性との会話もそこそこに、俺は彼女の観察を始めた。
彼女をものにしようと挑む人間がいなくなると彼女は少し寂しそうに目の前のグラスに手を伸ばす。
半分ほど入っていたサワーか何かを一気にあおり店員におかわりを頼むと彼女はため息をひとつついた。
なんか、哀愁漂ってんな……
ずっと観察していたせいで彼女と目があってしまった。
やっべーと思っていると自分の携帯がなった。
チャンスとばかりに彼女の前を通過して外へと一時撤退した。電話はすぐに終わったが少し時間をおきたかったのでトイレを済ませてゆっくりと席へ向かった。
元の部屋に入ると彼女と目があった。と言うか彼女は俺を待っていたのではないだろうか……
手招きされている。すると今度は彼女の隣の席を手で叩いている。ここに来いと言うことだろう。
なに言われるんだろう……
隣に座ると彼女が話しかけてきた。
「お兄さんいくつ?」
一言目がそれなの?
嘘をつこうかとも思ったが、どう転ぶかわからないので本当のことを話した。
「27歳です。君は?」
彼女は不敵に笑った。
「いくつだと思う?」
うわーめんどくせー。と思ったが同い年くらいだろうと思ったので3才くらい低く答えることにした。
「24とか?」
彼女の表情からはそこそこの満足がうかがえる。けっこう酔ってるなこの人。実際はいくつなんだろうか? 整った綺麗な顔をしている。
「気を使ったなお兄さん。まぁやっと歳の近い人と話せて嬉しいよ。私のことずっと見てたでしょ?」
やっぱばれてたか。
「君が次々に男をさばいていくのが面白くてさ。かと思ったら急に寂しそうに1人でお酒を飲み始めたからこの人やっぱおもしろいなと思って見てました」
なるほど、歳が離れてる人は恋愛の対象外だったんだな。
俺はセーフなんだ。
そんなことを考えてるとぐっと顔を近付けられ問われる。
「ねえ、私に興味ある?」
ドキッとした。
「あ、あります」
なぜか敬語になってしまった。
「じゃあ、出よっか?」
「は?」
予想外の展開にアホみたいな声が漏れる。
「君は私に興味ある。私も君に興味が沸いた。じゃあもうここにいる必要ないでしょ? あれ? 私よりも気になる子いるの?」
答えはもうわかりきっていた。
数年ぶりの恋の予感に胸がざわつく。
幸い、入店時に係りの人にお金は払ってある。この場に縛られる必要は皆無だ。
俺は彼女の手を取り、立ち上がった。
「じゃあ行こう!」
まさかこの時、自分の方が年下だとは毛ほども考えていない俺は、なかなかに上手くリードできていたのではないだろうか。
2軒目で、彼女の手のひらの上でコロコロと転がされ、遊ばれたことは容易に想像できるだろう。
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