第4話
玄関に鍵を差し捻ると、スカッと手応えなく回転する。鍵は空いているようだ。
時刻は21時過ぎ。流石にまだ起きてたか。
「ただいまー」
リビングの方からテレビの音声が漏れ聞こえる。
返事はなかったがそのままリビングの扉を開けるとソファーで牧野千歳(マキノ チトセ)がテレビを見ていた。
「あ、お帰りー。遅かったね? ご飯食べてきたの?」
テーブルには美味しそうな夕食が並んでいた。今日はハンバーグだったか。
「ごめん、会社の人と食べてきちゃった。ハンバーグ、明日の朝食べるよ」
何となく、嘘をついた。別にまだ浮気をしているわけではない。こんなことがあったんだと笑い話にしてもよかったはずだ。だけどそうはしなかった……
「そっかー。今日のはなかなかの出来だよ。ちょっと食べてみる? あーんしてあげよっか?」
楽しそうに彼女は笑う。
「じゃあいただこうかな」
折角の申し出だ。それに普通に美味そうだったこともあり彼女の機嫌を取ることにした。
「りょーかーい♪」
千歳は上機嫌でハンバーグをレンジで温め始めた。
熱々に湯気の立ち上るハンバーグが食卓に並ぶ。
「はい、あーん」
千歳がお箸で口元まで運んでくれたそれは、艶々のデミグラスソースが食欲をそそる肉厚のハンバーグだ。俺はそれを王様のように食べさせてもらう。
噛む度にあふれでる肉汁と濃厚なソースが脳に働きかける。白飯を! 早く白飯を!
その伝令よりも早く脊髄が先に反応を示した。
俺は無言で千歳から箸を奪い白米をかき込む。
「そんなに美味いか! そんなにか!」
千歳が驚き問いかける。
「千歳、お前は天才だ。美味すぎて死ぬ。あとのことは任せた」
千歳は酒でも飲んでいたのか俺のしょうもない返しにもゲラゲラと笑い、更に上機嫌になる。
立ち上がり俺のとなりの椅子に座り、黙って俺の食べる姿を眺め始めた。
こんな生活が始まったのも一月前のことだった。
先輩に誘われて行った街コンで出会ったのが、この牧野千歳だった。
こいつが、こんな面白い人間だと俺はあの日思いもしなかった。
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