第2話

 本当は駅前のラーメンでも食べて帰ろうと思っていたが、流石に初対面の女の子をラーメン屋に連れていくのはおかしい気がする。


「あのさぁ、女子高生って普段なに食べてるの?」

 真面目に聞いたつもりだったのだが、彼女は笑いを堪えきれず吹き出してしまったようだ。

「なんですかその質問? たぶん似たようなもの食べてますよ。あれですか? 女子高生に変な幻想抱いちゃってます?」

 ニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる。

 何となく視線をそらしてしまった。別にそれほど痛い幻想を抱いてはいないと思うんだけどな……

「単純な疑問だったんだけどな……何か食べたいものある?」

 彼女は唸りながら晩御飯のメニューを考え始めた。

「んーじゃあファミレスにします? なんでもあるし」

 逆に気を使わせちゃったかな……

「んじゃ駅前のファミレスにしよう」

「はーい」

 こうやって話してみるとわかったけど女子高生って子供じゃないんだな……

 そんなことを隣を歩く彼女の大人びた横顔を盗み見て思った。



 夕食時だったこともあり、ファミレスはかなり混んでいた。

 名前を記入して入り口のソファーで待たなければいけないようだ。

「どうする? 別のとこにする?」

 彼女に聞いてみると、

「私は大丈夫ですけど……」

 この子、こんな気ばっか使って疲れないのかな?

「それやめたら?」

 考えていたことが、無意識に言葉となってしまった。

「え?」

 彼女は少し驚いていた。

「あぁごめん。君のことを聞いたのに俺のことを気にしてるからさ。気を使いすぎじゃないかと思って。まだそんなに回りに気を使う歳じゃないと思うよ。んじゃとりあえず名前書いてくるわ。ソファーに座ってて」

 ちょっと変な空気になってしまったのでわざとらしいくらいの笑顔を向ける。

 きっとそうした部分も彼女には見透かされているような気がした。


 ソファーに戻ると彼女が暇そうに足をパタパタさせて待っていた。

「こらー足をパタパタさせなーい」

 注意しながら隣に座る。

「はーい」

 拗ねたように口を尖らせて返事をする彼女は、女子高生というより小学生のような幼なさを感じる。

 さて、何を話そうかな……そう思ったとき、横腹をツンツンとつつかれ変な声が漏れてしまう。

「うっ! え? なに?」

 彼女はクスクス笑っている。

「うっ! だって! 変なのー」

 ガキか! と思ったが女子高生は案外こんなもんなのかも知れない。

 大人っぽかったり子供っぽかったり忙しい子だな。

 きっと大人っぽい部分は家庭環境に起因するものなんじゃないだろうか。

 もっと幼い方の君を見てみたいな。そんなことを思った。


「2名でお待ちの倉垣さーん。席の準備が出来ましたのでご案内します」

 店員から声がかかる。

「席の準備出来たってさ。行こうか」

 彼女に声をかけるとなぜか驚いていた。

「え、倉垣さん?」

「そうだけど? え、悪いの?」

なんだこの会話は……

「えー偶然! 私、倉垣亜美(アミ)って言います。なんか嬉しいなー」

 同じ名前だったか。しかも倉垣って珍しい名前なのにこんな偶然あるんだな。

 一応俺も自己紹介した方がいいのかな?

「倉垣尚輝(ナオキ)です。よろしくお願いします」

「小学生か!」

 水平チョップを横腹にくらい謎のツッコミをいただいた。

「あの、席まで案内させてもらってもよろしいでしょうか?」

 わいわい騒ぐ俺たちに店員さんが申し訳なさそうに諭す。

「「すみません、お願いします」」

 2人で謝り席まで案内してもらう。


 こうして、同じ倉垣の名を持つ奇妙な2人の関係が少しだけ進展しようとしていた。

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