第3話 蜘蛛のmoney money
天馬法子は勝ち組である。
証券会社で働き、毎日のように他人の人生の天国と地獄を見ている。
恩を売り弱みを握り、すべてを己の思う通りに操っている。
インサイダー取引を平然と行い、他人の名義で稼いだ金を使い情報を買い、同じ手口を繰り返し、際限なく資産を伸ばしていく。絵にかいたような拝金主義者だ。
そして気に入った男を食い散らかし、まるで酒やタバコ、嗜好品であるかの如く飽きればあっさりと捨てる、冷淡な女である。
しかしそんな女にも、やさぐれてしまった原因がある。
春道「げっ。法子じゃねえか。こんな所でなにしてんだ。柚理ならさっき国をでたところだぞ。」
法子「ちっ。知ってるわよ、そんなこと。あいつ電話にも出ないから、こうしてわざわざ愛知県のド田舎まで来てんじゃない。薫くんは居るんでしょ?」
春道「伝言なら俺が聞くが。」
法子「しごとの話よ。何警戒してんの。いくらなんでもお子様に手を出す趣味はないし、わたしの目的ははっきりしてるでしょ。あんたにも前に説明したと思うけど。」
春道「『一晩でもともにすれば、それは一生を添い遂げるのと同等のこと』だっけ?お前って時々とんでもなく青臭いこと言うよな。感心するわ。」
法子「うっさいだまれ。そうじゃなくて、ああもういいわ。時間押してるから、これ、渡しといて。」
ブリーフケースをひとつ、春道の胸に叩きつけた。
春道「わかった。ところで、ひとつ訊いていいか?」
法子「何よ。」
春道「今回の件、お前はどこまで関わっている?」
法子「言うわけないでしょ。馬鹿じゃないの。」
背中を向けて足早に立ち去っていく法子。
その背に向けて、春道はため息をついた。
春道「お前は甘いな、いつもいつも。お前ほどの悪党が、口に出せないってだけで、白状してるようなもんなんだが。」
塩野家の敷居を跨ぎながら、春道は苦笑する。
春道「日銀総裁の家の家督争いか。柚理はほんとついてねえな。」
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