去り際の言葉

「んーー!」


 な、なにされて。いやわからないわじゃないけどでも!

 くそ! 

 意外に名詩さんの力強いぞ、起き上がれない!


「んーま! かなくんのファーストキスもらちゃった」

「いや昨日の夜されましたけど、ってそいうことじゃなくて!」

「あ、そっかじゃあ。大人のキスの初めてゲット。ごちそうさまでした」

「名詩さん!」

「静かにしないと優恵ちゃん起きちゃうよ?」

「っ!」


 そうだった、隣に優恵寝てるんだった。

 急いで優恵の寝ているほうを見ると、まだ優恵はすやすや寝ていた。

 ほっと胸をなでおろした。


「よかったね、起きてなくて」

「誰のせいだと思ってるんですか」

「わ・た・し」

「わかりながら」

「わかってないとこんなことしないよ。ねえかなくん、私と付き合わない?」


 何言ってるんですか名詩さん。


「何言ってんだよ、そんなこと無理に決まってるだろ」


 あっ、思ってることということ逆になっちゃった。


「いつものかな君も好きだけど、乱暴なかな君も好き。ねえ、ほんとにならないの? 彼氏になれば、私のこと好きに出来るんだよ?」

「なりません。なる余裕ないのくらい知ってるでしょ。今そんなことしてる余裕ないんです」

「別に私にかまってくれなくてもいいんだよ。私は、かな君を助けたいだけ。家事のお手伝いだっってするし。お金だって持ってるよ?」

「誰かの手を借りることは、極力したくありません。助けてもらう必要はないんです。今日はもういいですから帰ってください」

「わかった、今日の所はおとなしく帰るね。かな君の迷惑になりたいわけじゃないから」


 名詩さんは思ったよりもすんなり帰る気になってくれた。

 もっと、ごねるなり。こうひと悶着あるものだと思って身構えていた俺は、なんだか拍子抜けた気分だった。


「駅まで送ります」

「大丈夫、一人で帰れるから。優恵ちゃん家に一人にしちゃだめだよ。途中で起きてきてお兄ちゃんいないとだめでしょ?」

「それはそうですけど」

「まだ明るいんだから、心配しないでよ。でもありがと、心配してくれて」

「バイト仲間ですし、昨日お世話になりましたから……」


 そうだ、出かける約束名詩さんとしたけど。それ以外に何かお礼考えとかないとな。甘いもののほうがいいよな女性だし。

 喜瀬里さんは、お酒当たりでいいか?といってもお金出すくらいしかできないから、聞かないといけないが。喜瀬里さんと出かけるときに聞こう。


「それじゃね、かなくん。好きだよ」

「はい、また」


 名詩さんがまた好きだと言って帰って行った。昨日の夜から、今までになかったくらい色々起きすぎだ。

 名詩さんと喜瀬里さんが俺のことを好きだって言ったり。

 名詩さんには、二回もキスされるし。二人と出かける約束までして。

 俺の、日常と呼べる生活が一気に壊された気がする。これから俺は二人とどうやって接していけばいいんだ。

 バイトの時には否が応でも顔を合わせることになるし。

 バイトを変えるつもりも無い。

 二人との関係が、これ以上変わらないといいけど……



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