布団際の攻防
「かなくん起きて、もうお昼だよ」
「名詩さん、おはようございます」
布団から出て熱を測ると平熱に戻っていた。よかったこれで明日からまた頑張れる。
リビングに降りると透の姿は無く、優恵だけがいた。
「透は?」
「友達と遊ぶって」
「そっか」
気を使わせたかもしれないな。後で甘いものでも買ってこよう。
「お昼は冷蔵庫の残り物でチャーハンにしてみたよ」
テーブルに置かれた、チャーハンはお店で出しているものとあまり変わっていなかった。
照明を反射してキラリと光っていて。
家で作るとくっついてしまう米はパラパラしているのが見ただけでわかる。
「名詩さん、料理上手なんだな」
「大学入ってから一人暮らしだからね。料理は上手になったよ。さっさっ、冷めないうちに食べよ」
他人の作った料理を食べるのはいつぶりだろうか。
もう長いこと誰かの手料理というものを食べていない気がする。
そもそもこの家に人を招くこと自体が久しぶりだ。
透が友達を家に呼ぶことはないし、俺も誰かを呼ぶことはない。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「洗い物はやるよ。代わりに優恵を寝かしつけてくれないか」
「わかったよ。優恵ちゃん、お昼寝しようね」
「にーにもいっしょがいい……」
「洗い物終わったら行くから、式に行って寝てな」
「うん……」
「かなく待ってるね」
名詩さんは優恵を連れて二階に上がっていった。それにしても待ってるってどういうことだ?いや深く考える必要ないか。
洗い物を終えて、優恵の部屋に行く。
扉を開けると、名詩さんと優恵が横になっていた。
「まだ寝てないよ。にーにと一緒に寝るんだって。ほら私の横きて」
「横って言ったって名詩さんの隣開いてないでしょ」
「じゃあ、優恵ちゃん挟んで川の字。ね?」
「最初からそのつもりだったよ」
三人で寝ても、この布団からはみ出ることはない。もともと、俺、透、優恵の三人で寝ていたものだから。
まさか名詩さんと、この布団に寝ることになるとは、思わなかったけどな。
「ねえねえかな君」
「なんですか」
優恵を起こさないように、小声で話をする。
「これ、なんだか夫婦みたいじゃない?」
「名詩さんとは恋人でもないんだから。変なこと言うなよ」
「もう、連れないんだから。そうだ、じゃあ恋人になっちゃえばいいんだよ」
「なにを」
ちゅっ
「キスしたら恋人だよね」
優恵の反対側にいた名詩さんは、少し身を乗り出して俺の唇にキスをしてきた。
不意打ちのようなキスは、触れるだけのキスだったけど。
名詩さんのしっとりとした唇の感触が、まだ唇に残っているみたいだった。
「合意の上でのキスなら、恋人かもしれませんが。今のは事故みたいなものだ」
「いけず。じゃあ、これなら文句ないでしょ」
昨日の夜のように、俺の上に載ってきた名詩さんはそのまま顔を近づけてきて。
俺は名詩さんの肩をつかんで、止めた。
「キスしていいでしょ?」
「ダメです」
「どうして、私はかなくんのこと好きなのに。こんなにも愛してるのに」
名詩さんの瞳は潤んで、早くなった呼吸が聞こえる。
「俺は誰かを好きになることも、愛することもしません。名詩さんから告白されたところでそれは変わらない」
「いいじゃない、好きになっても。私が守ってあげる」
「誰かから守られるつもりはないです。ほら退いてください」
総意って名詩さんを押すと。名詩さんは後ろの倒れこんでしまった。
少し強く押しすぎたか。
「すいません、強く押しすぎ」
名詩さんに手を貸して引っ張ると、その勢いをのままに名詩さんは俺を押し倒して。
反応できないうちに、口をふさがれた。名詩さんの唇で。
今度のキスは、触れるだけのキスではなかった。
名詩さんは、舌を口にねじ込んできて。
時間の長い、舌を絡ませたキスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます