5話 愛するが故に殺す。

午前5時過ぎの森の中で、銃声が響いた。

僕の放った銃弾は、空き缶を吹き飛ばした。


「本物だ」


その殺傷力に、身体の芯が震えた。

しかし、僕のあるじに、驚いた様子はなかった。


いくら憲兵本部長の娘とは言え、まだあどけない少女が平然としている事に、

僕は驚いた。


「めいちゅ~、家臣くんすごいです~」

「本物ですよ、これ!」

「そうだね」




・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚




「あっ出た!タルタルソース野郎」


家臣くんから、パシリ感が消え、由良穂香の身体に寒気が走った。

こんどは銃声に反応したのかも知れない。


「出たって、私をお化けみたいな呼び方、やめ給え!」

「お化けみたいな者でしょう、あなたは・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・お前に関する予知夢を見た。」

「私が夢に出てきたって・・・あなた・・・もしかして無意識に私の事・・・。」


「私はそもそも無意識な存在だ。

そうその広大な無意識の領域内の予知夢で、お前は流れ弾に当たって死んだ。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もな」


「ちょっと待って、何度もは解ったから・・・」


「それくらい、お前は流れ弾に当たり続ける運命だって事だ」


「大体、誰かが転ぶと必ずその巻沿いを食らう・・・そんな人生。

思い当たる過去が多すぎて、なんか凹むね。その予知夢。」


「知能も高く、運動神経も抜群、にもかかわらず、運命に見放されている。」


「ねえ、人の魂を転生させられんだから、私の運命も好転させてよ」


「それは無理。」


「マジですか」


「絶望的に無理。ただ方法がない訳ではない!」



タルタルソース野郎は、穂香に拳銃を向けた。


「えっ!ちょっと待って!」

「距離にして、2メートルと言ったところか?」


奴は言うと、穂香に向けられた拳銃を数発発砲した。

早朝の森林に銃声が響いた。


銃弾が風を斬る音が耳元でした。


「何するんですか!」


「弾丸に取って、標的に当たることは、標的に対する愛情表現と言っても良い。

愛するが故に殺す。これが弾丸の生き様だ。

私は弾丸の意識に、お前がどれほど嫌悪する対象かを吹き込んだ。

結果、この世の弾丸はすべて、お前を嫌悪し、愛さないし、出来る限り避けようとする」


「愛されないのは、なんかちょっと嫌な感じがするけど、弾丸が私を避けるって事?」


「そう、ただこの距離より近づくと、弾丸は避けたくても、避けられない。

避けるだけの距離が足りないのだ。

お前に当たりたくないのに、お前なんか愛してないのに、当たってしまう。それは悲劇だ」


「わたしにとって良い事なのに、なんか泣けるよ」


「泣け!泣きたい時は泣け。

ホンのひと時でも、悪運をお前から遠ざける方法だ。

お前は、それを覚えて置けば良い」

「そんな簡単には泣けないよ・・私なりにプライドもあるし・・」

「知らん!それは、私の関与する処ではない。

私は、この人形をより良く操りたいだけだ。

はあ、私は忙しいのだ。これ以上、

幸の薄いお前と付き合ってる暇はないのだ。

これから惰眠を貪らなくては行けないと言うのに・・・」


「暇じゃねーか!」



由良穂香から、寒気は消え、身体が暖かくなっていくのを感じた。


由良穂香の目の前では、家臣くんが「あれっ?」って顔していた。

そのちょっとアホな表情に、穂香はほっとした。



・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚゚・*:..。o○☆*゚¨゚




「それより早くコインランドリーでパンツを洗いたいです。

やっぱ短パンの下にパンツを履かないと、いつもよりすーすーして落ち着かないのです」


由良穂香に言われて、僕は車を街に出した。

誘拐犯たちを警戒しながら、ワゴン車を走らせた。


午前5時すぎの街は、まだ目覚めていはいなかった。


コインランドリーの駐車場にワゴン車を停めた。


そして、ポケットの拳銃を確認した。

誘拐犯がいつ現れるかも知れないし、奴らにしてみれば、僕は裏切り者。

何されるか解らないし、


この娘も守らなければならなくなったし・・・


コインランドリーの店内は、誰もいなかったし、どの洗濯機の中にも洗濯物はなかった。


「えっ?ちょっとあるじ何してるんですか!」


コインランドリーの大きな洗濯機に入ろうとしている、由良穂香に僕は慌てた。


僕は、大きな洗濯機に乗り込もうとしている由良穂香の身体を抱えて、引き留めた。


「何してるんですか!」

「だってこれ、こう言う物でしょう。どこかで見たことがある」

「どこでですか!」


もしかしたら、あるじの方が正解?

と記憶喪失中の僕の脳裏によぎった。


もしかしたら、洗濯機とは中に入る物だったのか?

数秒考えたが・・・・うん、違う!

僕はすぐにそう判断し、とりあえずあるじを制止した。


「あの~家臣くん?」


由良穂香が照れながら、僕を見つめた。


「なんです?」

「これは・・お姫様だっこと言うものですか・・・」

「すいません」


僕は、由良穂香を放した。


「家臣くんに取って私はお姫様・・・なのですか?」


お姫様って・・・


由良穂香のそのテンションに着いていけない自分を、僕は感じた。

でも、僕は気力を振り絞って、由良穂香のテンションに合わせた。


「そうです、あなたは私のお姫様です」


と。記憶喪失中なので、正確とは言えないが、

自分が女子を『姫』と呼ぶキャラではない事は、理解していた。


女子を「お姫様」と呼ぶ自分。

それは心の奥に書かれたキャラ設定を、書き換えらえれてしまった様な感じがした。


「人は、誰かにキャラ設定を書き換えられながら生きて行くものだよ。」


姫は僕に言った。

僕の腕には彼女の柔らかく優しい身体の感触が、まだ残っていた。

この人に書き換えられるなら、悪くはない。





つづく

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