4話 お前は、最悪は免れた o(≧▽≦)o

「なずなさん?」


由良穂香は、ワゴン車の後部座席で、電源ロスでも使える携帯電話で、家政婦に電話を掛けた。


「うん・・うん、大丈夫。うん・・・ちょっと、友達がフラれちゃって、慰めていたの・・・」


どうやら嘘の言い訳を告げているらしい。


「そう・・・うん解った。ありがとう。」

由良穂香は、電話をきると、ため息を着いた。


「どうでした?」

「私が誘拐された事を知らなかった。

でも、お父様が号泣しながら、非番の部下の皆さんと私を探し回ってたって、部下の皆さんももらい泣きして、大変だったって」


僕は、憲兵隊本部長が部下と号泣しながら、娘を探す光景を思い浮かべた。


「じゃあ誘拐犯グループが、私を誘拐した目的は何?」


由良穂香は、唐突にじっと僕を見つめた。

そして、買ってきたダブルチーズバーガーを開き、それにタルタルソースをタップリつけた。



・.。*☆彡・.。*☆彡・.。*☆彡・.。*☆彡・.。*☆彡



暖かな日差しから遠ざかり、冷たい冷気に満ちた洞窟に入ったかのような気配に、由良穂香は鳥肌が立った。

そして、家臣くんから、パシリ感が消え、空気が冷たく重くなった。


「私も侮られた者だな。

チーズバーガーに、タルタルソースを付けたくらいで、『誘き出せる♪』と思われているとは・・・」


彼は言った。


「誘き出せたじゃん♪」

「今回は前回の分の初回特典で特別だ」

「あんたみたいな変な存在にも、初回特典なんてあるんだ」

「初めての相手には優しくするもんだ。」

「質問なんだけど、誘拐犯グループが、私を誘拐した目的は何?」


彼は「チーズバーガーを寄越せ!」と手を差し出した。


「欲しんじゃん」

「乙女が私の為に、わざわざタルタルソースをぬってくれたものを断る訳にはいかない。それだけだ」

「ごめん、これは私用にぬったの」


彼は失望した。

たかがタルタルソースを付けたダブルチーズバーガーを食べれないだけで、これほどの失望感を顔に出すとは、想定外だった。


そして、彼の失望の結果、暖かな日差しからさらに遠ざかり、地の底に引きづりこまれたかの様な寒さが訪れた。

あくまで精神的な意味での寒さだが、いや現実の寒さより、精神的な寒さの方が堪えた。


「ごめん、これあげるから機嫌なおして」


彼は、タルタルソースを付けた、ダブルチーズバーガーを受け取ると、その表情から失望感を消した。

ワゴン車内は、少しだけ暖かさを取り戻した。

彼は、満面の笑みで、チーズバーガーを頬張った。

そして、一息つくと、


「おもらし女は、まだ誘拐犯たちが怖いのか?」

「おもらし女言うな!」

「人は事実を言われるのが一番つらい、でまだ怖いのか?」

「怖いよ」

「怖いからこそ誘拐犯たちの正体を掴みたい?」

「そう」

「そんなの警察やパパの憲兵隊に任せておけばいい。それが常識的な判断だよ」


「怖いけど、私は誘拐犯たちの正体を暴く手段を持っている。

この件は自分でカタを付けたいの」


「残念だが私は、誘拐犯グループが何者なのかは解らない。

ただバックにいる連中も含めて、当面あんたに危害を加えない。

加えられないと言った方が良いか・・」


「・・・じゃあやっぱり、あなたが誘拐犯たちを」

「理解が早いな、そう言うとこ好きだよ」

「ありがと」

「奴らの身体は今頃、ゾンビの様に街を彷徨っているはずだ。

すでに奴らは奴らであって奴らではない。ただの抜け殻さ」

「ゾンビ?抜け殻?」

「それ以上は、自分で調べろ。手段があるんだろ」


由良穂香は、食べ終えた彼に、ミックスジュースを差し出した。

彼は、一気に飲み干した。


「ありがとう、うん満足。ところで牛肉と豚肉とではどちらが好きか?」

「どちらかと言うと牛肉かな」

「それは良かった。奴らの魂は今頃、豚に転生の準備をしている頃だ。

また会いたくはないだろう?」

「え?」


「お前を恥辱しようとした結果、奴らは、人間の資格を失った。自業自得だ。」

「わたしを恥辱しようとした・・・」

「しかし、このパシリ人形に僅かだが良心が在ったのは、お前にとって、不幸中の幸いだった」

「えっ家臣くんが・・・」


「お前は、最悪は免れた・・・」



・.。*☆彡・.。*☆彡・.。*☆彡・.。*☆彡・.。*☆彡



重く冷たい雰囲気は消え、軽く柔らかい家臣くんに、静かに変わって行った。


「家臣くんの良心が私を救った?」


由良穂香は、パシリ感いっぱいの、家臣の頭を、撫でてみた。


「なんです?」

「なんとなくだよ、私の家臣くん♪」



つづく

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