9話 我があるじ、逆に凄い(⁎˃ᴗ˂⁎)
「しっかり掴まっててね」
女武者にそう言われ、僕は甲冑越しにしがみ着いていた。
女武者の背中は、甲冑越しだけど、良い香りがした。
何かの香水の様なものを付けているのかも知れない。
甲冑の騎馬武者は、全員で五騎。
黒と赤の騎馬武者の前に二騎、後ろの一騎で、
僕らを護衛するように獣道を進んだ。
僕の斜め前には、黒い武者と穂香が乗る馬が進んでいた。
穂香もしっかりしがみ着いていた。
そして、何気に楽しげだった。
僕と言う家臣がいながら、何ですかその嬉しそうな笑顔は!
まあ、僕もちょっと頬が緩んではいたが・・・
早朝の獣道を馬に乗って進むって、もしかしてタイムスリップてしまったのかと、ちょっと錯覚しそうだ。
しかし、ワゴン車が見えてくると、現代に引き戻された。
穂香が「ここで」と言って、馬の背から華麗に飛び降りた。
そして、華麗に着地すると思われたが、獣道のすぐ横に偶然?空いていた穴に、
ズポッと、落ちてしまった。
「大丈夫?」
黒い甲冑の武者が、急いで穂香を抱えて助け出した。
「ごめんなさい・・・。」
ちょっと泣きそうな声で、我があるじは言った。
「これは狸の巣穴だね。時々ある」
あるじめ!華麗な少女を装ったりするから・・・
しかし、馬から降りてちょうど着地地点に、狸の巣穴がある確率って・・・
人生において誘拐される確率、さらに誘拐犯に放置されて、おしっこを漏らしてしまう確率。
統計学を無視し過ぎ、しかし我があるじ、逆に凄い。
「君はカッコつけなくてもいいよ」
女武者の忠告に僕は従った。
「それでは我々は、このまま通りすがる。見ず知らずの君たちの健闘を祈ってる」
黒い甲冑の武者は言った。
「ありがとうございます」
由良穂香は、満面の笑顔で言った。
僕も、つられて
「ありがとうございます」
と女武者に向かっていった。
女武者は軽く手を振って、馬を走らせた。
五騎の騎馬武者は、早朝の獣道に姿を消した。
「ちょっと・・・私の家臣さん」
「ん?」
「君は、私と言う主がいながら、何ですか?
あんな顔も解らない女にデレデレして!
私の家臣としての自覚はないんですか?」
「あるじだって・・・」
「あれは社交辞令の範疇です。あなたは家臣として、私のお尻だけを追っていれば良いのです」
あるじのお尻だけを追う家臣って何だろう?
なんか抽象的な意味でもあるんだろうか?
「解った?」
「解りました。あるじのお尻だけを追います」
僕が答えると、由良穂香は、
「はい」
と手を差し出した。握手かな?
と思って手を握ろうとすると
「違う。誓いの口づけ」
と手の甲にキスを要求してきた。
僕は言われるまま、穂香の手に口を付け、彼女の香りと肌の感触を知った。
再び彼女の顔を見ると、おもらし事件以来失っていた、
美少女オーラを取り戻していた。
つづく
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