第58話 青い桜
『
其ノ一
其ノ二
其ノ三
其ノ四
其ノ五
其ノ六
其ノ七
其ノ八
其ノ九
そして今俺の瞳に映っているその光景は、其の一から其の八までの集合体のようなものだった。
(何が……?)
言葉を失っていると、急に身体が硬直。そして自由が利かなくなる。直ぐに俺は、身体の支配権がアスタロトになったと気付いたが、
「おい、アスタロト。どういう事――!?」
するとアスタロト急に猛スピードで、その集落の上空を飛ぶ。下を見れば見るほど悍ましい光景だ。それが人と認識するのにも少し時間がかかるほど、殆どの死体は原型を留めていない。おまけにこの臭いだ。恐怖すら忘れるほどに……。
しかしそんな事よりも、今はアスタロトだ。アスタロトは異常に焦りの表情で、死の集落の中心に、凄い速度で向かっている。
俺が「おいッ!」ともう一度呼びかけると、
『もしかしたら、元の時間に帰れるかも知れないッ!』
「……なっ」
唐突な答えで脳の整理に時間がかかるが――直ぐに切り替えて、
「帰れる!?」
『うん、多分ッ! でも確実なのはさっきからのこの感覚、この流れ。元の時間と全く同じっ。それに仮説だけど、ここがあの神域の中だとしたら……。つまり今繋がったんだよッ! 元の時間とここ、古事記がッ!』
すると――それが視界に現れた。
辺り一帯が紅黒色に染まり、屍と骸と乾いた血のみが永遠と続くと思っていたこの集落。そんな集落のほぼ中心にそれは静かに、そして圧倒的存在感を放ちながら立っていた。
青色。ただ青色。その集落に似合わない美しい青色。それが風に吹かれて、少しずつ落ちていっている。
――――青い桜。
見たこともない、聞いた事もない種類だ。しかしその見た目はあの日本で有名な木、桜そのものだった。
と、次の瞬間に気付いた。その花の下、幹の部分。そこに黒と認識しようとすれば黒。白と認識しようとすれば白と言う、不思議な裂け目が出来ている事に……。
『あの裂け目の先が元のッ! もう閉まりそう、間に合えッ!!』
俺もアスタロトと同じで間に合えと願う。この裂け目に飛び込めば、元の時間に帰れる。そしてこの古事記の世界とはお別れ――。
刹那、背筋が凍る。
(この……感覚ッ!)
まるで顔に水滴が一粒落ちて来たような感覚だった。記憶が自分に問いかけて来た。さっき感じたあの残酷な感覚が、再び広がり始めたのだ。それも集落全体……いや、もっと。恐らく
(――
瞬間、俺はアスタロトから無理無理身体の支配権を奪おうとする。考えるよりも先に身体が動いた。
『な、ちょッ!? 何してるのクロムッ!?』
「
俺の身体が空中で硬直。俺は身体の支配権を乗っ取ろうとするが、アスタロトも支配権を譲ろうとしない。アスタロトは焦りながら、
『クロムッ、私達は元の時間に帰る事が目的なんだよ!? それにこの時間でどうなったて、あの子達がどうなったって、全部元の時間に繋がるの知ってるでしょッ!!』
その言葉を聞いた瞬間、全身にあった張り詰めた糸がプツンと切れた。同時にアスタロトに身体の支配権を戻す。
そうだ、確かにそうだ。俺達の元々の目的は元の時間に帰る事。ここで何が起ころうが、
ただ底知れぬ罪の――嫌な感じがする。
『よし、閉じるまで後少し……行くよ、クロムっ!』
懐かしい感覚だ。姉ちゃんの声で、まるで手を引っ張りなら言われるような台詞は、俺の罪悪感をも打消し納得してしまう気分になれた。
「うん、そう――」
瞬間、そんな気分をソイツは一瞬で打ち消した。
赤黒い人型の何かが真下から飛んで、
『【
その手に持っていた長い石の棍棒のようなものを、こちらに物凄い速さで振り下ろして来る。アスタロトは直ぐにかわせないと判断したのか、
『【
その人型と俺達との間に三重の【
ゴイィン――瞬間、俺がアスタロトから支配権を奪い、【
(鈍い……重ぅいッ)
次の瞬間には、
「落ちっ!?」
身体は下方向へと吹き飛んでいた。しかし【
しかし、
(翼が使えないッ!?)
そもそも肉体の共有と言うものは、俺とアスタロトの意識50%:50%が、お互いの力を最も出せるとアスタロトは言っていた。ならば身体の支配時100%の時はどのような状態だろうか? 答えは簡単で、俺が身体の支配権を握っている時は、俺だけの力しか出せない。アスタロトが身体の支配権を握っている時は、アスタロトの力しか出せない。
そして現在リンクが乱れまくっている俺は、そのまま紅黒く人皮がへばり付いている竪穴式住居に落下。だが見た目は禍々しいが、落ちた場所が竪穴式住居の藁と土の屋根。落下のダメージを最低まで抑えられる。
「クソ、何だアイツ!?」
一瞬過ぎてその姿をほぼ確認出来なかったが、あの棍棒のような石の棍棒。始めは魔道具だと思ったが、少し何かが違う感じがした。どちらかと言えば奴の一部のような……そんな感覚。
すると、
『クロムっ、裂けぇ……。に……?』
アスタロトの細い声。俺はアスタロトの意識の方へと意識を向ける。
するとそこには――ハエが集り蛆が湧くものもある。しかしその大半はミイラ化しており、それが音もなく揺れる。大量の大小関係ない人間の足が、壁から吊るされていた。
流石の悪魔であるアスタロトも、この異様過ぎる光景を見て、混乱している様子だ。俺もあの時ならば……混乱していたのかも知れない。俺は妙にあの老人に感謝した。
それを認識した間もなく、上から、
『ザァ……【
俺はそれを間一髪でかわす。だが今の鈍く重い一撃は相当な威力で、俺達が落下した竪穴式住居を、瞬く間に粉々。地面が抉れ、辺りに地響きが起こる程の……。
そしてその大きな人影の全貌を確認した。三メートル程の巨体に赤黒い鎧兜。石の棍棒と思われていた武器は、右腕と一体化しており、よく見ると人皮や血肉がへばり付いているのが分かる。そして何よりも俺が息を吞んだのはその中身だ。鎧と鎧の隙間から、黒いドロドロとした粘液がドロドロと流れており――あの紫色の未だ瞬きを見た事がない、大きな虚無の瞳。
そしてコイツは直ぐ違和感を覚える。なんせコイツは――俺の霊感が反応しない。
俺はとにかくコイツを倒すため、直ぐに作戦を考えるが、
『クロム、コイツ……そこらの奴とは違うッ。未知で危険過ぎるっ、だからとにかく今は桜に――』
――――デゥグンッ。
アスタロトの言葉が止まる。同時に俺も感じ取った。あの無意識に懐かしいと感じ取っていた感覚が……薄くなって……。
俺は急いで青い桜の方に向かうが、
『ギィ……【
赤黒い鎧兜が、石の棍棒の腕を振り下し、地面が揺れ、そして波を打つ。俺はそれに足を捕われて、
(クソッ!)
『クロムっ!』
その場でバランスを崩して転んでしまった。赤黒い鎧兜は見逃さない。その図体とは想像できないほどの速さで、こちらに飛び上がり、
『ァグ……【
(ダメだ、かわせないッ!)
俺は即座にそう判断して、直ぐにアスタロトと思考を共有。リンクも回復して来たところで、
「【
『【
赤黒い鎧兜の一撃を、災禍の瘴気を帯びた四重の防壁が、正面から受け止める――がその内の三枚は一瞬で割れてしまった。
(俺とアスタロトとの連携でコレか……っ)
本気の俺達でこれだ。油断した瞬間、一瞬で持ってかれる。
青い桜まであと三十メートルほど。足元には誰のかは分からない紅黒い髑髏が、二個転がっており、半分は潰れていた。……髑髏らもコイツの餌食になったのか? それを考えた時、直ぐに思った。
――絶対にコレになりたくない。
俺とアスタロトはニヤリと笑い……。
『【
今までのは俺達の幻影。
本物の俺達は鎧兜の懐に潜り込み、
「『【
俺の右手の毒を帯びた手刀が、鎧兜の腹部分に突き刺さり――しかしその一撃は思っていた感覚とは違った。
『ズズゥッ』
(なん……!?)
手がその腹に吸い込まれていく。俺は直ぐに攻撃を止めて引き抜こうと――その一瞬、
『【
(不味……ッ!!)
「【
かわせないと判断し、その一撃を【
「ガゥぁあッ!!」
その瞬間、
――――シュゥ。
『ぁ、裂け目が……』
青い桜の裂け目は、静かに消えていく。残ったのは、この残酷な現実と、死体の集落と、
『終ワリ、ダ……』
青い桜は静かに散っていく。
残酷な気は広がって行く。
――――前書き――――
新・第三楽章ぉお‼️
遂に完成致しました。
『第21話〜』
↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893542879/episodes/1177354054894010550
内容は変わってないけど……。
しかし!!
(前)クロム〉狂気。
(新)クロム〉覚醒+残酷+☆主人公★
みんな大好きなあのシーンが、本当にカッコよくなっております。それにキャラに感情移入しやすいかも……。
シリアス度、残酷度、造形度、描写度UP‼️
見てね!!
最後に愚痴です。
宿題多すぎ……。
次は第四楽章。
ガンバル!!
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