プロローグ 再現部:契約
そして契約の時間。
契約は午後二十三時から午前零時の間に、屋敷の隣のドーム状の施設、『
大天上は俺が人生で正式に入ったのが一回。小さい頃、かくれんぼでコッソリと入ったのが数回。そして入ろうとしたところをミザリーさんに見つかって、メッチャ怒られた事が一回……。
普段は温厚なミザリーさんが、あんな鬼の形相で怒ったのは、あれが最初で最後。姉ちゃんと俺が、本気で恐怖に震えて泣いたのもそれが初めてだった。
(かくれんぼしたなぁ~。でも何でココ、何も感じないのに入っちゃいけないんだろ?)
と――――夜、俺は大天上を見上げながら思う。
突然だが俺は昔から
それは例え画面越しにでもだ。よくオカルト番組で呪いの人形やら、呪われた館やら……。あれらからは物凄く力を感じる。禍々しい螺旋曲がったような……。ミザリーによれば、それは霊力と相反する力。
要は霊力や魔力の感知。それが霊感だ。
ちなみに姉ちゃんは、その霊力や魔力の性質まで理解出来るのだとか。要するに姉ちゃんは見ただけで、ミザリーさんが身に付けていたブレスレットの効果まで理解する事が出来るらしい。俺は感じる事しか出来ないんだけど……。
それでも俺は『大天上』を見上げて思った。俺はどちらかと言えば、遠くの力を感知するのが得意。つまり遠くの霊力を感じることが出来る。
つまりこの神聖な大天上の中には――しかし何も感じない。あそこまで入っては行けない理由があるのならば、何かしら感じ取れるものがあっても良いと思うんだが……。
(まぁ良いや。早くあそこに向うか……)
俺は目的地に向かう。
◈ ◈ ◈
知っての通り、契約の儀を見る事は御法度。してはならない事だろう。しかし俺は諦めきれなかった。
(どうしても姉ちゃんの……)
それは俺の興味本位。姉ちゃんにもその事は言っていないので、自己満足なのかも知れない。しかし自分でも良く分からないが、それだけではない気がする……。何かもっと大事な使命が――?
そしてふと思い出したのだ。昔かくれんぼで入った事のある、大天上の天井裏。そこからなら……。
で、今俺は自室の二階から、布団やシーツを縛って作ったロープを予め作っておき、皆に見つからないように地下に下りて。大天上まで来た訳だ。
ここからは当時の記憶を頼りにする。
(確かこの馬鹿デカい杉の木をよじ登って……)
現在俺は大天上の裏。そこには一本の、俺の背丈の何十倍もの杉の木が生えていた。俺は少し罪の感覚……しかしそれを上回る好奇心で口元が緩む。
そこで少し賢者タイム。
(これ覗きじゃね……?)
まぁそんな下らない事を考えながら、俺は杉の木に手を掛ける。当時のようにスルスルとは登れなかったが、まだ身体は覚えていた。
(ここを掴んで……ここを……)
そして大天上の方に向っている太い枝まで辿り着く。俺はそのままゆっくりと進んで――斜め上に窓枠が見えた。そこに手をかけて、身体を引き上げ――鍵のかかっていない窓を開け……。
そして俺は大天上の天井裏に辿り着いた。
◈ ◈ ◈
(やっぱなんも感じないなぁ。昔よりも霊感上がったから、何か感じるかなぁとも思ったんだけど……。特に何もなしか……)
そこはとても暗い場所。光は後ろから差し込む月明かりだけだ。
俺はしばらくそこに停止して、目が慣れるのを待つ。そして少しずつ世界が見てきた。とても広い場所。昔と全く同じ。そこは天井裏らしく、色々な物が置かれている。
ただそのどれもが、
(ただの花瓶にボロイだけの古い絵……。こんな大きな机どうやって運んだんだ?)
特に目に止まる物もなく、俺は忍び足で天井裏を進む。二十三時になってから部屋を出たので、もう契約が始まっていないか心配だった。それにもし見つかったら……。俺はニヤニヤが止まらない。
それは懐かしさと、やってはいけない事と言うドキドキ感。そしてこれから始まるという大きな興味。一種の冒険のようなものだ。
すると、
(よっしゃ、見つけたッ!)
俺はある事も賭けていた。それは天井裏の隙間、または穴だ。
俺がこのまま下に降りていけば、明らかに直ぐに見つかってしまう事は目に見えている。だから一か八か。下を覗ける場所がある事を賭けたのだが……地面から光が差し込んでいる場所を見つけた。
俺はそこに飛びつくような忍び足で向かい、穴に目を近づける。
(……もう終わっちゃったか? あ、アレは
天使には大きく分けて二種類。上位天使と下位天使だ。その名の通り、下位天使より上位天使の方が格が高い。
上位天使。
それは主に
下位天使。
基本無名の天使たちだ。俺も良く分からないが、主に上位天使の雑用。しかしこれでも神の使いとして、一つの天使。侮ってはいけない。
ちなみに天使には階級がある。
上から、
上位三隊 ――
中位三隊 ――
下位三隊――
下位天使は全て
すると、
(あ、いた! 姉ちゃんだ!)
俺の鼓動は跳ね上がる。姉ちゃんは先ほどのドレス姿ではなく、白いケープを着て髪を下ろし、魔法陣の中心へと……。
そして手を合わせて――契約が……。
(どうなる……どうなるんだ!!)
俺の鼓動は更に上がる。興味が目の前を埋め尽くす。
意識しなければ、変な息が漏れ出してしまう。俺は口に手を当てて見守る。
刹那ッ――。
――――グシュゥッ。
「……ぇ」
姉ちゃんの胸に――光輝く。貫通。
それは酷く神々しい。
「ギャアアァアアアァァアアアアァアアアアアア!!」
それが音だと認識する事が出来ない。
それが声だと認識する事が出来ない。
それが大きな声だと認識する事が出来ない。
それが悲鳴だと認識する事が出来ない。
それが絶叫だと認識する事が出来ない。
それがダレの絶叫か認識する事が出来ない。
ただ目の前で
一本の神々しい槍が姉ちゃんの胸の中心を貫き、
そして、
――――グシュッジュッグジャシュッジュッッ。
四方八方から、更に槍が姉ちゃんを貫き、
頭に一本。
胸に一本。
右肩に一本。
腹に二本。
左足に一本。
首に一本。
七本の槍が姉ちゃんの身体を突き刺して――――。
顔面は一本の槍で潰れ、身体と頭は首の皮一枚で繋がっていた。右腕は肩の部分から落ちて、そこから紅い骨が見える。胸からはどこかの内臓が飛び出しており、腹からは小腸が地面まで伸びていた。左足も膝から落ちており……。
俺は思考が停止する。
そして、『
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