第6話・期末テスト

「えーみなさん、今日から期末テストの発表です。それによって今日から部活動はお休みとなります」


 担任の教師から告げられるその言葉。だが俺や、帰宅部の生徒にとっては何も変わらなかった。


「それではみなさん、さようなら」


 その声により、クラスの大半の奴らが帰宅を始めだす。そして、いつもなら声をかけてくる天音が声をかけてこない、その理由は単純明快。


「おい、待てよ天音、逃げたら2日間口聞かないからな?」

「ひぃっ!?ごめんって修斗ぉ!謝るから!それだけはやめて!!」


 教室から出ようとした天音をそんな脅し文句で止めると、面白いくらい涙目で俺に抱きついてくる。


「お前、おばさんから聞いてるからな?前回の中間、赤点2つもあったんだろ?」

「ひぐっ…!」


 天音はなんというか、予想通りというか、かなりのアホの子であった。しかも期末は保険のテストなども加わってくるという事で、おばさんから

『お願い!!天音を助けてあげて!!』と言われて居た。


「俺んちで勉強会すんぞ。俺が教えるんだから全部80以上は取ってもらうからな」


 天音は絶望に満ちた表情を浮かべるが、そんなのお構いなしに教室から引きずり出すのであった。


………

……


「……」

「なんだよ…文句あるのか?」

「いや…え?マジ?」


 天音は俺がかけているメガネに驚いた様だ。伊達眼鏡だが、これをやると集中力が上がる。


「その…なんというか…エロい」

「バーカ、ほら、とっとと始めるぞ」


 天音の横に座り、天音と同じテキストの答えを開く。まずは社会からやっていこう。


「ちちちちち、近くないですか!?」

「近くねぇとお前の答えが見れないからな。ほら、そんなの気にせずに分かるとこからやってみろ」


………

……


できるわけないでしょうがぁあああああああ!!!


と私は内心で叫びまくった。ずっと好きで好きで壊れそうだった幼馴染みが、ギャップを見せながら密着する形で勉強を教えてくれているのだ。

鼻血が出そう。


「社会は暗記だからな。1日1時間もやりゃ全部の範囲覚えられる。理科も同じこと繰り返す」


 確かに社会と理科は暗記系だと思う。ということは…最低でも1日2時間は絶対勉強するんだね…。


「それが終われば次は英語と数学だ。ノー勉で80は取れるんだろ?」

「う、うん…国語はまぁ」


 幼い頃から国語は得意だった。とは言っても、修斗には敵わない。普通に100点だったし。


「凄いな。その調子で他の教科もがんばるぞ」

「っ…」


 本当にずるい。時々こんな言葉をかけてくるのが、どれほど心臓に悪いのか。ちゃんと理解してほしい。

 修斗は私に振り回されるというけれど、私は修斗に何度も心を振り回されてる。


「ふぅ…がんばろっか」


 そうやって自分を鼓舞して、私は勉強に取り掛かるのだった。


………

……


「もう遅いから天音ちゃんはウチに泊まってったら良いよ!あ!でも私と空はちょっと仕事があるから家を開けるけどね!バイバイ!」

「はっ!?ちょっ!聞いてないぞアリス!な、何すんだ!?修斗!!助け」


 バタン!!と玄関のドアが閉められた。時刻は午後7時。もう遅い、という時刻では無いはずだが、ウチに泊まって行けという両親。

 そして今日は金曜日。


「え、えぇっと…ど、どうしよっか?」

「どうもこうも…ねぇよ…」


 修斗は唖然とした顔で玄関を眺めている。私も何かの冗談かと思っていると、ポケットの中に入れて居たスマホがバイブ音を鳴らす。

 このタイミングで?と思った私はスマホを眺めると、そこには新着メッセージ。


『今日はお二人で楽しんで!冷蔵庫の食材好きに使って!PS、私の鞄の中にとあるものが入って居ます。それを使うのも良いでしょう』


 アリスさん…ホント…尊敬できる師匠です。

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