第三章 鳥人

第十四話 会議

 人間の頭に鳥の身体……。一体どのような進化を辿ればそのようなおぞましい姿になるのだろうか。

 ハーピィの決して少なくない数が、巨大な頭を支える首の負荷が限界を迎えたことにより死ぬ、などという生物では考えられない理由で命を落としている。


 また身体の大きさ重さに対して翼が羽根があまりにも小さいが為に、少しでも翼を傷つけられたり羽根が大量に抜け落ちたりするだけでバランスを崩して飛べなくなってしまう。


 この忌まわしい人面鳥が生物の進化の果てに生まれたものではないことは明らかである。


 ――『怪物図鑑 第六判』メレ・メレス著/ゴブリン




*




 あそこまで益にならない生物も珍しい。

 

 ――冒険家レキ/エルフ




*




 あまり大勢が居ても話がまとまらないということで、作戦会議に参加したのはフォズ、ゲヌ、ボルミン、ニルヤナ、ダリルマイ、それから貿易団護衛などの腕っぷしに自信のあるものたちが数名。

 会議場所に選ばれたのはニルヤナの家だった。この村で一番大きいから、との事である。村長のゲヌに対する態度といい、彼は豪農の一家なのかもしれない。


「放っておけばいつかハーピィは去っていくでしょう。だけれどそれは、明日かも知れないし、来年かも知れない。そしてそれはこの村が滅ぼされた後かも知れません」


「でも、撃退し続けるのは無理があるんじゃないのか?」と言ったのはボルミン。「おれたちは弓が扱えないから、空を飛ぶあいつらには不利だ」


「はい、もちろんです。それではきりがありませんし、いつ襲撃するか分からない恐怖におびえ続けるだけです。だから根本から原因を断つ――つまりハーピィを殲滅するか山から追い出さなければいけません」


「……山に潜って直接ハーピィたちを叩くってことですかね?」ダリルマイは不安気に、せわしなく髪の毛を撫でつけていた。

 それに対して、「結構危ないんじゃないか、それ?」と難色を示したのはニルヤナだった。


「はい、その通り、かなり危険です。私たちは山に慣れていなく、対してハーピィはそこを住処にしています。向こうの領分で戦うのはあまりにも危険です」


 木々の生えていて傾斜のある山では、弓の射線は樹に遮られ、剣を満足に振るうこともままならない。ハーピィもその飛行能力を十分に生かすことはできないが、互いに不利となればやはりその地形の慣れが如実に出る。

 それに加え山ではハーピィを追いやった“外敵”も入り混じっての三つ巴となってしまうかもしれない。ならば、こちらに理のあるところで戦わなければいけない。


「直接ハーピィを叩くのはその通りですが、こちらからわざわざ赴く必要はありません」


「おびき出す……ということですかな?」


 ゲヌの言葉に、フォズは「その通りです」と頷いた。


「平原にハーピィをおびきだして一網打尽にします。全滅させる必要はありません。恐怖を植え付ければ、もうこの場所に居場所がないことを察して逃げていくでしょう」


 ただ、ほどほどでは駄目だ。それではむしろ怒りを増長させてしまうことになる。

 復讐しようという気概すら与えてはいけない。群れに大打撃を与え志気を奪うか、敵わないと思わせなければいけない。


「そうおっしゃるということは、ハーピィをおびき出す方法があるということですね?」


「はい。……」


 と、ここでフォズは視線を斜め下に泳がせた。ハーピィの好物は牛、それも腐敗してすぐの肉を好む。ハーピィをおびき出す一番の方法は、牛の死体を高所に吊るしておくことだ。牛が腐り始めるとどこからともなくハーピィが現れるのだ。しかし――。


「ん、どうしたの、フォズ?」


 ボルミンが首を捻ってフォズを見る。まさか、畜産家に向けて牛の死体を使いたいとは言えないだろう。


「……いえ、何でもないです。ハーピィをおびき出すにはウサギノナキガラ兎の亡骸を使います」


「う、兎の亡骸?」ボルミンが眉をひそめながら、その言葉を反復した。


「はい。……え、知らないですか?」


「知らないっていうか、……兎の死体? じゃないの? ……何かの名前?」


 他のトロルたちも同じ表情をしていた。怪訝な表情。


「植物の名前です。樹の根に寄生する、真っ赤で兎くらいの大きさの…………本当に知らないですか?」


 しかしトロルたちは首を振るだけだった。


「……ウサギノナキガラは食虫植物で、強い腐敗臭を発します。乾燥させて燃やせばその臭いは隣の村に届くほどだと言われます。腐肉を好むハーピィはこの臭いに惹きつけられます」


「その植物はどこにあるんです?」今まで静観に徹していた護衛のトロルの一人が、もっともな質問を口にする。「この村の近くで見たことはありませんが……」


「アーフェンの森で採取できます。ですから、私はこれからウサギノナキガラを取りに行きます」


「……わざわざ森まで?」


「それが一番効果的です。今すぐ行けば、……明日の日中には帰って来れるはずです。ですからそれまでに皆さんにはお願いしたいことがあります。ハーピィをおびき出すのに適当な場所を考えておいてほしいんです。山に近く、しかし村から離れ過ぎず、開けた見通しのいい、そして隠れられるようなところがある場所です。それと牛の避難と……ああ、それからこれが大事なことなんですが、集めておいてほしいものがあるんです――――」

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