第4話猿と鳥

「お前が私の主人で間違いないか?」


 銀髪がなびいていた。だんだんと月の光で周囲が明るくなる。女騎士の姿が現れた。全身に羽の装飾がある。彼女は問いを繰り返す。


「今一度問う。お前が私の主人で間違いないか?」


 何のことだろうか?主人?俺が?

 とにかく目の前のあの老人をどうにかしないといけない。

 

 「質問を変える。何か命令は」

 「じゃあ、あいつを追い払ってくれ」

 「御意」

 

彼女は前を向くと相手に向かって話し始める。老人は気色の悪い笑みを浮かべ答える」


 「久しぶりよ猿田彦。元気だったか?」

 「久しいの。主はもう死んでおると思っていた。あの坊主を見た時びっくりしたぞ。だが殺すことには変わらんからのー」



 すると彼女の手の先に青い光が集まり弓の形を作っていく。

老人はこの空気に一瞬呑まれるがすぐに冷静になる。


刹那、二人が消える……かと思いきやものすごい爆音。

建物が崩れていく。ここももう危ない。俺が脱出してしばらくすると音とともに崩れていく。


衝撃的な現実。

言葉を忘れる瞬間。

何かを考えるなんて、この時に限ってはあり得ない。

どうしてって、


「離れろ、十二干支様の戦いだぞ近寄りすぎたらあぶねぇぞ?」

「彼女の戦いを近くでみたいんです」


気づいたら、彼女は俺のすぐ前に現れた。息を切らしながら、俺を守ろうとしてくれていた。いつの間にか60センチほどの剣を出していた。

老人も姿を現し、どういうわけか触れてもいない大岩をこちらに吹き飛ばしてきた。彼女はいとも簡単にその岩を切り裂いた。その事実が、固まっていた俺の躊躇を打ち砕いてくれた。

 突如何かが頭の中に流れ込んできた。自分が何のためにここへきたか。俺はどうするべきか。主人としての行動・自覚……。

若干の不思議な緊張感。左手が光りだす。


 「契約をします。俺、空葵は化身とともに戦うことをこの世の盟約に則り誓う。」

 「そうか。では、我は十二干支が一匹、鳥の化身、鳳凰なり。この世の盟約によりこれより主を主人と認めともに戦うことを誓う」

 自らを鳳凰と名乗る彼女に言葉を掛けた。彼女も嬉しそうだった。

 

 俺にも彼女とは色違いの鎧が身にまとわれていた。

 戦術、動作、呼吸……どれも今までの世界にはなく初めてのことだ。初めてと察したのであろう彼女は


「主人は命に代えても守る。心配せずとも突っ込め」

「感謝します。ここからがスタートです」


俺は剣を構え突っ込む。契約したからか、ものすごい力だ。飛んでくるものが遅く見える。俺はそれを避けながら老人の方へ歩みを止めない。

 

 走っていくうちに老人とはもう目の前、近接戦闘が始まった。縦、横、斜め。あらゆる方向から剣を振りかざす。だがそれを簡単に避ける老人。大きく弾かれ脇が開いてしまった。しまった、老人の刃物が当たる……その時、矢が飛んできて刃物が弾かれる。鳳凰さんの援護射撃、そのままつずけ様に腕、肩に矢が刺さった。鳳凰さんの弓は、はやぶさを盾にしたような形をしている。その弓で射る矢の威力はすざましい。惜しくも外した矢が岩にめり込むほどだ。

 俺は体に斬撃を入れる。血が溢れ出ている。

 鳳凰さんが声をかけてくる。

 

 「あいつはもう消える」


十二干支には死という概念はない。当たり前だ。神のもとにいた獣たちは死ぬのではなく、いつかまた戻ってくることから消えるという表現を使うらしい。これがこの十二戦記が何年持つずいている理由とも言える。

猿田彦と呼ばれる老人。名前の通り猿なのだろう。当の本人持ち得るのを覚悟か巻き添えにしようと呪文を唱えている。


「わしは十二干支が1匹猿の猿田彦。今宵この世から消えていくもの。だが十二干支第九席にして世界の意見者にして知恵の王である。我の威厳と尊厳のため、世界のことわりを今一度読み解き彼の者に制裁を」


 猿田彦のもとに膨大な魔力が集められ完全に殺しにかかってきてる。このままだとやばいと素人でも感じるほどだ。


 「鳳凰さんはこれなんとかできますか?」

 「無理だな」


そうだよなぁもうダメなのかな……


 「あるとしたら一つ。二人で力を使うことだ。」


 今わ助かること優先


 「わかりました。どうすればいいですか?」

 「なぁに簡単よ私だ主の体に入れば良いのだ」


 え?

 

 「だからこうすればいいのだ」

 「うぅ……」


唇を奪われる。それは短くてとても長い時間……。初めてをこんな雰囲気で奪われることは癪だが、美人の女の人とキスできたことは嬉しい。

 頭の中に声が響く


 「二人で魔力を溜め、あれ以上の矢を放てば良い。いいな?いくぞ」

 

自分でも驚くように詠唱が出てくる


ーー 我は一人の人間と一鳥の精霊である。我は十二干支第10席であり、空の王であり、世界の監視者であり、不死の王でもある。故に我に敗北の文字はないと知る、我が命ずる。鳳凰の名において彼の者に鉄槌を。そして、彼の者にも幸あれ ーー


俺の手にはあのはやぶさのような弓が握られ、赤く燃えている。それがだんだん赤みを増していく。周りの土が溶けていく。俺は弓を引く。


そして双方技が繰り出される

 

 「全てを破壊する散弾銃バレットデストロイ

 「全てを懸けた一本のエンチャントアロー


猿田彦の無数の魔力と一本の二人の矢がぶつかる。


ピカッ ドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


物凄い轟音と煙りを巻き上げすごい衝撃がぶつかり合った。煙が収まり目を開くと大きく変わった地形と倒れている猿田彦がいる。近くに民家がなくて幸いだ。


鳳凰は猿田彦のところへ


「オォ、悔しいなぁまた天下取れなかった。だがこの戦い楽しかったぞ。鳥よ、我を倒したのだ。天下をっとてもらわないとな。天界で我は神に真っ先におろられるのだろう。順番を独り占めしようとしたのだからな。しかしそれはそちとて同じこと。気張れよ」

「あぁ、同胞よ」


そういって十二干支・第九席・知恵の王猿の猿田彦は消えた。

 

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