第166話 俺、帝国の海に漕ぎ出す
ホリデー号が空を飛んでやって来た。
帝国の人々が空を見上げて呆然としている。
それはそうだろう。
でかい帆船が頭上を通過していくのだ。
軍師タカフミが魔力を供給しているはずだが、それでも大陸を横断できるとはやるものだ。
あいつの魔力量は俺に匹敵するな。
帝国の港まで行くと、ちょうどホリデー号が着水したところだった。
他の連中が驚く顔にはもう慣れたなー。
「よう、タカフミお疲れー」
「疲れたぞ!!」
目にクマを作ったタカフミが降りてきた。
その後を、ダミアンがトコトコ歩いてくる。
『ナカナカノ居心地デシタヨ、たかふみサンノあいてむぼっくす!』
「アイテムボックス評論家みたいになってるな」
「こいつは注文もうるさいし、本当に大変だった……。あと、船に明良川がいるじゃないか。あの性悪、なんで生き残ってるんだ話が違うぞ」
「おいこら多摩川ぁ! なんかダミアン戻ってきたと思ったら、キモ男が来てるんじゃん!! なに? 話聞いたらみんな消滅してんの!? は? でなんでこのキモが無事なのよ。おかしいでしょー」
「キモキモ言うない」
俺は駆け寄って、明良川にデコピンした。
「ウグワーッ!!」
額を押さえて甲板でのたうち回る明良川。
こいつはウグワーッて叫んでも基本的に死なないな。
「タカフミだろー。つうか、こいつをキモキモ陰キャ言ってた奴らがお前以外全員死んだんだぞ。日頃の行いじゃね?」
「うぐうっ、は、反論できねー」
明良川がぎりぎり歯ぎしりする。
自分がひどいこと言ってる自覚があったか。
自覚があってもあえてひどい事をいう辺り、筋が通ったダメ子なのだこいつは。
「まあまあオクノ氏。こらえてやれ。こいつ口ではこう言っているが頑張ってる僕になんかサンドイッチとか三食差し入れてくれたんだから」
「は? あれは団員としての仕事だし? 飯でつられるとかチョロいんですけど」
「ツンデレだあ」
タカフミが嬉しそうにふひゃふひゃ笑った。
「キモい笑い方すんなぁ!!」
明良川に蹴られるタカフミ。
「痛い!!」
「あれっ!? お前ら何気に、こう……ふーん。へえー」
「は? おま、多摩川、いくらあんたでもその想像は許さん。許さんからなー!! あたしは! もっと! イケメンで! お喋りが面白い人で! お金があってコミュ強の陽キャが好みなのよ! ……まあ、全員とダメになったけど」
「無残wwwww」
「クソ陰キャ! お前草生やすな! もうなんなのよこの世界! なんでこいつが草生やしてるって分かるの!!」
「仲いいなあ」
「僕とこいつ、小学校から同じだからね」
「えっ、幼馴染というやつ……? 昔は清純だった明良川が変わっていくのをずっと見てた的な?」
俺が問うと、タカフミはニヤリと笑った。
「こいつ昔からこう」
「あー」
「おら多摩川! キモ! 分かった風な顔すんなー!! あたしの風評がーっ!!」
もとから七勇者に与して悪行をやってきてるんだから、お前の名声は地に落ちてるだろう。
あ、地に潜るのか!!
そんな事を考えていたらだ。
甲板をどたどた走ってくる音がした。
何やら、ワンピース姿にみつあみの素朴な感じのお嬢さんが手を振っているじゃないか。
「オクノくーん!! おかえりー! ってあたしが来たのかー! オクノくーん! 愛してるー!!」
「このどストレートな愛情表現!! 分かってはいるがルリアだな!」
「そうだよ! いやっふー!」
甲板から宙に身を躍らせるルリア。
「スライディングキック!」
落下地点に技を使って超高速で滑り込みルリアを余裕を持ってキャッチする俺。
「うわーい! オクノくんだー!! 好き好き!!」
ルリアが俺の顔にキスの雨を降らせる。
そして、体を起こすとお腹をさする。
「残念ながらまだまだ実感がないんだよねー」
「逆算してもようやく三ヶ月目とかだもんなあ。つわりとかあるんでしょ? ない?」
「全然」
「それに関しては私が説明するわね!!」
「そ、その声はお袋!!」
甲板から縄梯子がスルスルと下ろされる。
リザードマンが、「どうぞ」とその人を案内する。
うちの母がにゅっと顔を出した。
そして、父とともに降りてくる。
「ルリアちゃん、つわりがすごく軽いみたい。私も軽かったけど、ルリアちゃんの場合は凄いね。奥野の遺伝子とルリアちゃんの遺伝子の相性が最高にいいのかもねえ。楽しみだわー!」
「はあ、そうですか……!」
全てルリアの運の良さが関係している気がしてくる。
最強の能力か、運の良さ。
さて、再会を喜び合う中、うちの団員たちも続々と港に到着する。
船を担当していたのは、グルムルがほぼ一人。
彼はオルカが戻ってくると、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振った。
「おう、相棒、無事だったか!」
「ええ。守りきりました」
この海賊コンビは本当に仲良しなのだ。
あとは先に帰っていたイクサ。
アリシアを伴って出てくる。
「この軍師を名乗る男、俺にはよく真価が分からないが弱くはないな」
「おっ、イクサセンサーに反応したか」
「呪法はあまり使えないようだが、妙な力を行使できる。ホリデー号の飛行を最短ルートで飛ばしたようだな。風向きすら計算し尽くしていたようだ」
「なるほどなあ。イクサ、こいつが帝国にいたから、オクタマ戦団の半分をもっても帝国を押しきれなかったんだぜ。あと、シュウスケとマナミがいるからな」
「まあ、僕は軍師ですからなフヒヒ」
タカフミがニヤニヤした。
正真正銘、軍師に特化したスキルと頭の回転、そしておそらく積み重ねてきたであろう経験。
頭脳系のトップだなこいつ。
やって来ていたシュウスケとマナミは、イクサを見るとちょっと緊張したようだ。
イクサもまた、やや剣呑な気配を帯びる。
イクサをもって意識させるこの二人、間違いなく強いな。
二人合わせるとイクサと互角。
これはかなりとんでもない話だ。
スキル、ユニゾン。
バカにできん。
「げえっ、陽キャコンビ!! あ、あんた達が無事だったなんて……」
明良川がガクガク震えた。
「詳しいのか、明良川」
「こ、こいつら本物の陽キャなんだもん。いい、多摩川? あんたはタカフミとおんなじボッチだったからわかんないだろうけど、普通、五花が決めた事とかに逆らうとハブられるの。だけど、こいつらだけは別格なのよ。なんか、持ってる空気がガチ陽キャなの!! 五花と、日野と高尾! コイツラ三人の力関係が拮抗してたのあのクラスは!」
「ほー」
今初めて知る事実である。
つまり、今生き残っているあのクラスの人間は……。
ボッチ、俺。
陰キャ、タカフミ。
性悪、明良川。
空手、日向。
真の陽キャ、シュウスケ。
真の陽キャ、マナミ。
この六名だ。
ああ、あと一人。
肉体のみ、西府アオイ。
いやあー、減ったなあ!
二十人近く死んだか消滅するかしたな。
生き残ったメンツを見ると、なるほど、どこか尖った四人と、ひたすら運が良かった二人だな。
キョーダリアス、地獄か!
だが、生き残った連中が全員かなりの強さになっている辺り、シーマが呼び出したうちのクラスは間違いなかったんだな。
消滅した七勇者も、混沌の裁定者に魂を売り渡したとは言え強かったもんな。
そしてこの場に、生き残った六人+一人が揃ったわけだな。
揃った……?
日向がいねえ。
あっ、ホリデー号の見張り台の上でフロントといちゃいちゃしてやがる!!
だが……妻帯者になった俺は心が広くなったのだ。
ここは許してやるとしよう。
「よしダミアン、速攻で出発するぞ! オルカ、風を思い切り吹かせろ! 出港だ! え? 見張り台にまだ人がいる? ハハッ知らん」
ということで!
ホリデー号は久々に、海を走り始めるのだ。
いきなり吹いた強風に煽られ、頭上から日向の悲鳴が聞こえてきたのだった。
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