第167話 俺、最後の六欲天と遭遇する
「ところでタカフミは帝国から出てきちゃっても良かったのか?」
ここは海の上。
舳先に近いところで、俺の隣で腕組みして潮風をいっぱいにあびる、陰キャ軍師八王子タカフミ。
「いいんだよ。大陸にでかい国は王国と帝国だけ。みたところしばらく、皇帝もやる気にならないだろ。だけどメイオーを放っておいたら必ずまたやる気になって大戦争を起こす。ならばお前、オクノ氏に協力してできるだけ迅速にメイオーを叩くのが筋ってもんだ」
「合理的なー。よく帝国がタカフミを外に出すの許したよなあ」
「わっはっは、僕のやってきた成果はかなりのものだからね。帝国でも僕の上となると皇帝と宰相しかいないし、宰相は僕のシンパだし」
「陰キャなのによくそこまで人間関係を作ったなあ……」
「陰キャはさ、対等な関係で相手が陽キャだと詰むんだよ。だけど上下があって、こっちが上で実力をひけらかせる場なら、一方的な関係なら作れるんだ。まあ、その実力ってのがない場合が多いんだけどね」
ふひゃふひゃ、と笑うタカフミ。
この男は間違いなく、修羅場を何度もくぐり抜けてきているのだろう。
なんかこう、泰然自若としたものを感じる。
「オクノ氏も人間として大きくなった感じがするよね。明らかにクラスの異端者だったのが、だからこそこの世界の異端者をまとめ上げて世界最強の勢力を作り上げたな」
「まあな。結構大変だった」
「お互い様だ。あと、君に足らんものは一つだけだな」
「おう、頭脳だろ?」
「オクノ氏~! そこは僕のいいところなんだから持ってかないでくれよー」
タカフミが俺の肩をポコポコ叩いた。
「わっはっは、でもこうやってると俺達がまるでいちゃついているようだ」
「おっと! オクノ氏の奥方達に刺されますかな!」
俺達二人で、ゲラゲラ馬鹿笑いする。
うーん……。
今までにないタイプの気の合い方。
ともにアウトローな俺と陰キャのタカフミ。
なんでウマが合うんだろうな。
そんなわけで、タカフミとシュウスケ、マナミが仲間に加わっている。
これで、こっちに飛ばされてきたクラスメイトのうち、生き残り全員が集まったわけだ。
早速実力を確認。
「よーし、かかってこい! うちが試してやるよ!」
ミッタクvsシュウスケ。
シュウスケは二刀流で、手数で押すタイプだ。
ミッタクは序盤こそ押されていたものの、途中からシュウスケの動きを見切り、パワーと体格を生かして押し返し始める。
結局、ミッタクがシュウスケを床に押し倒して勝利した。
「くっそー! ミッタクさんは強いなあ……!」
「わっはっは! なんか久々に身内戦で勝った気がする!」
「そりゃ、ミッタクは普段から俺かイクサとしかやってないからな。なにげにお前、変身後のフロントと互角でうちのナンバースリー双璧なんだからな」
シュウスケの強さは、個人ではミッタク未満、と。
マナミはどうだろう。
「うっしゃー! ダーリンの仇はとるよー! マナミにおまかせ!」
「じゃあマナミさんの相手はわたしがします」
「えー! こんなちっちゃい子がするのー?」
「ちっちゃいとは失礼なー!」
マナミvsカリナ。
そもそも、カリナは弓がメイン。
最近は短剣にも磨きをかけてきているのだが、果たしてどうかな?
双剣使いのマナミは、手数でカリナを圧倒するかと思われた。
ところが、短剣一本しか持っていないカリナのほうが速度が速い。
つまり、短剣一本でマナミの手数を圧倒してくる。
「ちょ、ちょ、ちょちょちょちょちょ!! 待った待った待った!! こ、この娘つよーい!! すごくつよいんですけどぉー!!」
速攻で懐まで入り込み、マナミの間合いを殺したカリナが短剣を相手の首筋に押し当てた。
カリナの勝利である。
ただ、これはマナミがカリナを舐めていたというのもある。
だから一瞬でやられた。
マナミが本気だったらまだ分からなかったかもな。
「オクノ。こいつらの真価はひとりひとりの強さじゃない」
イクサが前に出てくる。
「二人が同時に攻撃をしてくると化けるぞ。おい、ミッタク、カリナ」
珍しく、イクサが指示を出す。
「二人で、あの二人とやり合ってみろ」
「おお? いいぜいいぜ」
「望むところです」
ミッタク、カリナ組vsシュウスケ、マナミ組。
「やっぱりダーリンと一緒じゃなきゃ調子出ないよー」
「俺もそうだよ。マナミ、俺と君は最高の相性なんだな!」
「もちのロン!」
もちのロン!!!
実際にそんなセリフを聞く時が来るとは……。
そして俺の背後で、ラムハが、「オクノとのコンビネーション……。愛の証明的にそういうのも頑張るべきよね」とか対抗心を燃やしている。
愛が重いが、そういうのは大好きだぞ……!
始まった、2vs2の戦い。
一人ひとりの実力を考えると、ミッタク、カリナ組に軍配が上がりそうなものだ。
だが、結果はそうはならなかった。
二人一組になったシュウスケとマナミの動きが早くなり、攻撃の精度が上がる。
さらに……。
「な、なんだこいつら!? 攻撃の隙がない!!」
シュウスケの攻撃の引き戻しに合せて、マナミの剣が来る。
マナミを捌いても、その隙間にシュウスケの攻撃がやって来る。
カリナが横からマナミを攻撃しようとすると、思わぬ角度からシュウスケの剣が飛び、それを弾く。
弾かれたと思った瞬間、マナミの剣が飛んだ。
二人一組というか、まるで、二人で一つの生き物のようだ。
なるほど、これは強い!
ミッタクとカリナは一気に押し込まれてしまった。
ミッタクは辛うじて凌ぐものの、カリナが耐えきれない。
あっという間に彼女が倒され、上にマナミが乗っていた。
「借りは返したかんね」
「く、くやしいですー!!」
「ほいほい、勝負あり!!」
俺は宣言した。
二人一組なら、ミッタク以上、イクサに並ぶ可能性すらある、か。
癖があるけど、強力な二人だ。
「しかもこれだけじゃないよ、オクノ氏」
「これ以外にもあるのか」
「前にも言ったじゃないか。武器の交換だよ。二人は合計四本の魔剣を持っていて、これを交換しあうことで違った効果を発揮するんだ。あのコンビネーションをしながら、さらに魔剣による呪法技みたいなのが十数パターンも混ぜ込まれて襲ってくるんだぜ? かなり強力な相手だって叩き潰せる。むしろそこの剣士、イクサがそれを一人で拮抗できるのが異常なんだ」
「イクサだからなー。あと、あの二人は多分俺に対しては相性が悪いと思う。攻撃の種類があってもブロッキングで一律受け止めるんで」
「オクノ氏は大抵のやつが相性悪いのでは?」
さあ、新メンバーの戦力把握も終わった。
そうこうしているうちに昼になったので、みんなで飯を食うことにする。
「おまたせー! あたしとシーマ特製のホットドッグだよー!」
明良川とシーマがリザードマン達を引き連れ、大量のお盆を持ってきた。
山盛りのホットドッグだ。
これをみんなでガツガツ食べる。
「オクノくんにはー、あ・た・し・の・愛がたあーっぷり詰まった特製ホットドッグを……」
「こらぁそこぉ!! ルリアは多摩川用の一個しか作ってないだろうー! この食器全部洗ってね!!」
「ひ、ひぃえー!」
船の中の雑用組にもヒエラルキーが……!?
俺が女達のやり取りを楽しく見守っていると、その脇腹をタカフミがつっついてきた。
「どうした?」
「オクノ氏、そろそろだぞ。僕のタクティカルアイが目標を捉えた。なんと言うか、海流がそいつのところに流れ込むようにコントロールされてる。すぐに出現するぞ!」
「おう、昼飯の最中なのに」
慌てて飯を口の中に押し込み、立ち上がった。
「あれ、オクノくんどうしたの? もっとゆっくり食べてよーう」
くっついてくるルリアをひょいっと片手で抱き上げて「きゃっ、積極的!」、遠くを見る。
ああ、いるな。
大きな丸いものが浮かんでいる。
大きさはホリデー号以上。
真っ青な海に溶け込む色彩の、海の怪物。
最後の六欲天だ。
『ここより先に行くは罷りならぬ』
「先には何があるんだい?」
俺が尋ねると、球体が応じる。
『外なる世界。ワシカータの目が及ばぬ世界』
「安心してくれ。俺達はそっちに用はない」
『ならばなぜここに来たのか』
「あんたが目的だ。俺達がこれ以上に強くなるため、邪神メイオーをぶっ倒すために手伝ってほしくてな」
『その言葉、お前がそうか。英雄オクノ。認識した』
球体がふわりと浮かび上がる。
それはなんというか……蛇?
いや、あの大量の吸盤は違う。
あいつは……触手の一本だ……!
ホリデー号よりも大きな一本の触手。
『我が触腕の一つにて失礼仕る。我が名は、世界を結界に封じる六欲天、イー・ズグラック。メイオーを倒すは我ら六欲天が悲願なり。手を貸そう、英雄よ!』
待て待て待て。
クジラじゃなかったのか最後の六欲天!?
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