第165話 俺、和睦パーティに出る

 ホリデー号を、王国から帝国まで持ってくる事になった。

 戦争が止まり、王国と帝国は歴史的和解をすることになったようだ。


 なんか、立役者として俺が祭り上げられて、一時期は船を持ってくるどころじゃなくて大変だった。

 なので俺が表舞台の、二国和睦パーティとかに出席している間に、仲間達がホリデー号を運んでくれるそうである。


『久ブリニおくのサンノあいてむぼっくすニ入レルト思ッタノニ!!』


 ダミアン、俺のアイテムボックスをそんなに気に入っていたのか……。


 とりあえず、軍師タカフミもアイテムボックスを持っていることが判明した。

 彼もダミアンを収納して、魔力を供給できるらしい。


「やれやれ、僕は肉体労働が向いてないんだけどね」


『ウルサイデスゾ! たかふみサンハ黙ッテワタシヲ運ベバイイノデスゾ!』


「生意気なドラム缶め! 風呂にして入るぞ!」


『既ニ経験済ミデス!!』


 二人はわいわい言い合いながら、フタマタに乗って出掛けていった。

 ちなみに、バギーに乗ってイクサも同行している。

 二人の護衛という意味もあるが、船に残してきたアリシアが心配らしい。


 アリシアが来てから、イクサがすっかり丸くなったなあ。

 戦闘が始まるといつものイクサに戻るけど。


 ということで船が来るまでの間、俺は毎日のパーティに参加しなくてはならず、大忙しなのだった。





「まさか俺を追放した帝国のパーティに出ることになるとはなあ」


 しみじみ言いながら料理を食う。 

 ちょこちょこ挨拶に来る、帝国や王国の偉い人に挨拶返しをする。


 俺の横には、綺麗なドレス姿のラムハとアミラとカリナがいる。

 ルリアは船でお留守番なので、この話を聞いて今頃めちゃくちゃに悔しがっているだろう。


 ちなみにミッタクはドレスを身にまとったものの、


「なんかヒラヒラしてて防御力なさそうな」


 なんて言いつつ、あちこちを練り歩いて料理を食べまくっている。

 自由だ。


「ふふふ、オクノさんどうです? 私のドレスも大したものでしょう」


「おお、かなり可愛い」


 カリナが得意げである。

 黄色ベースの彼女のドレスは、フリフリがたくさんついてて可愛い。

 三人とも肩が出るタイプのドレスだけど、案外バリエーションがあるんだなあ。


 ラムハのは、胸を強調するタイプの黒いドレス。

 ただでさえ大きいのに……!!

 会場の紳士の目は釘付けだぞ。


 アミラは、全体的に繊細な意匠が施された青いドレス。

 ご婦人受けがとてもよろしい。


 ミッタクは、特注で誂えたドレスなのだが、男物のよりによって甲冑を改造したので、アーマードレスといった見た目になっている。

 これがまたよく似合う。

 これでも、彼女に言わせると防御力が低いのだとか。


「オクノ、このお酒おいしい。口移しで飲む?」


「オクノくん、お姉さんがお料理取り分けてきてあげる。何が好き?」


「オクノ、オクノ、ほら、胸元にお酒がこぼれちゃった」


「オクノくん、あーん」


 奥様方やめてくださいませんかねえ……!!

 周囲の視線が痛いんですが!!!


 特にラムハさん、あなた酔ってるでしょー!


 真っ白な肌を真っ赤に染めて、ラムハがフラフラしている。


「俺に腕にくっついているように」


「はぁい」


 ラムハがぴったりとくっついてきた。


「ラムハったら、すっかりオクノくんに甘えてるわねえ」


 仕方ないわねーと言った感じのアミラ。


「私、ラムハを向こうの席まで連れて行くね。風に当たれば少しも酔いは醒めるでしょ」


「頼むー」


 さすがはアミラ、女性陣の中でも一番の(精神的に)お姉さんだ。

 冥府では、彼女の過去も明らかになったしな。

 なかなかの苦労人だ。


 さあ、一人になったし、また大いに食うか。

 俺がマイ取皿を構えて、会場を歩きまわろうとしたところである。


 どやどやと帝国や王国の御婦人方が寄ってきた。


「オクノ様!」


「まあ、あなたが戦争を終わらせた英雄のオクノ様なのですか!」


「オクノ様奥様いらっしゃるの?」


「私、奥さんそのニとかその三でもいいですー!」


「うわー、とんでもないことになってきちゃったぞ」


 俺は戦慄した。

 これはなんだ。

 モテ期か?


 だが、俺のモテ期はラムハ達に出会えたあの時なので、これは正しくは違うものだと分かるのだ。

 この人ら、俺の経歴と肩書しか見ておらんな。


 追放されたばかりのただの高校生を信じてくれた今の嫁達とは違うのだ。


「残念ながら、大型モンスターを一人で狩れない女性は対象外なのだ」


 俺が条件を告げると、彼女達は首を傾げた。


「何を仰ってるの。そんな女がいるわけないじゃないですか」


「?」


 今度は俺が首を傾げた。


「おーい、オクノ! この肉美味しいぜー」


 そこへミッタクがやって来た。

 隣では、カリナが口いっぱいに料理を頬張ってもぐもぐしている。


「うちの妻二人だが、二人とも丘巨人レベルなら軽く討伐するんだが?」


「丘巨人か? あんなん素手で十分だろ」


 妻という言葉はあまり聞こえてなかったらしいミッタク。

 当たり前のように言った。


 ちなみに丘巨人だが、訓練された兵士十人の部隊と互角かそれ以上の強さを持っていると言われている。

 これが山巨人だと、訓練された小国の全戦力と互角かそれ以上くらい。


 斧を持ったミッタクは、山巨人クラスだ。

 俺を狙っているこの女達だと、一万人くらい束になってもかなわないかも知れない。


 ミッタクの圧倒的説得力に、女性陣は黙ってしまった。


「ま……まさか戦闘力で選ぶなんて」


「普通、家柄とか血筋とか外見で選びません?」


「外見では圧勝だと俺は見てるし、血筋や家柄よりも、背負っている宿命とかだとやっぱりこっちが圧勝だが。ルリアは除く。あと、メイオーが世界をぶっ壊したら、血筋も家柄も無いだろ。実力主義の世の中になる。なら、俺が選ぶ基準の嫁の方が生き残れる」


「お、オクノ様は騙されているわ!」


「そうよそうよー!」


 口プロレスでは俺に勝てぬと分かって感情論に出たな。


 よし、では感情論には感情論だ。


「行け、ミッタク」


「お? じゃあ、お前ら、うちと手合わせしようぜー。え? 野蛮? 戦うのは男の役目? いや、だって女だって男に危ないことばかり任せるとか恥知らずなこと普通できねえだろ? ほらほらー」


 ミッタクが強烈なプレッシャーを掛けながら女性陣に迫る!

 女性陣、総崩れである。

 強い!


 女性には女性をぶつけるのがいいな。

 特にうちの嫁達は、強力無比な個人経験があるので感情論に走らせたらとても強い。

 土台になっているものの強度が違うからな。


 結局、彼女達はミッタク一人に敗れ去った。


「なーんら。口ほどにもないれふねえ」


 カリナがもぐもぐしながら呟くのだった。


「おう、オクノ。モテモテじゃな」


 シーマ、この光景をじっと見ていたらしい。

 彼女も、西府アオイだとばかり思われて、会場の男達に言い寄られたりしていた。 

 だが、洗脳魔法などを使って適当に切り抜けていたようだ。


「して、いつまでこんな茶番に付き合っている気じゃ? ああ、まあホリデー号が来ないことには動けぬか。それでは、まだまだお前の妻達はピリピリせんといかんわけじゃな」


 シーマがけらけら笑う。

 妙に上機嫌だが、ほんのり頬が赤い。 

 西府アオイのボディは未成年だったはずだが、まさか飲酒を……?


「ふふふ、秘密じゃ」


 それだけ言って、シーマはまたふらふらと歩いていった。

 自由である。


「俺もさっさとパーティから抜けたいのは確かなんだけどなあ。だけどなあ」


 俺はスペアリブを食べながら唸る。


「おおっ、貴殿が英雄オクノ殿ですか!! わたくし、帝国の伯爵をしておりますマジオンと申しまして……」


「拙者はジョルジーノ男爵です!」


 今度は男にモテ始めたぞ!!


「オクノ殿はその立派な体格、さぞや腕が立つのでしょうなあ。ではどうです、我らの護衛と余興で手合わせなど……」


「いいけど、メンツ潰れるよ? 大丈夫?」


 俺は彼らの事を心配した。

 それがリップサービスだと思ったらしい。

 帝国の貴族たちはわっはっはと笑う。


「大丈夫ですよ! 我らの護衛は帝国でもよりすぐりの戦士ばかり!! 召喚された勇者にだって負けませんよ!」


 そうは言うが、シュウスケとマナミレベルの戦士がホイホイいたら王国は戦争に負けているからな。


 さて、余興だ。

 俺の目の前に、ムキムキのお兄ちゃんたちがずらりと並ぶ。


「へっへっへ、英雄様の実力とやらを見せてもらうとするかね!」


「お前ら、俺に挑む方なのになんで余裕なの。そういうの良くないよ」


 俺は彼らの方向に歩いていった。


「もう余興始まってるからね」


「へっへっへ、いつでもどうぞ英雄殿! 俺らは生半可な鍛え方はしてねえんでウグワーッ!!」


 一人をいきなり掴んで喉輪落としで失神させた。


「い、いきなりとは卑怯な!」


「いつでもどうぞって言ったじゃないか。ほれ、ドロップキック!」


「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」


 ムキムキの護衛達が、俺が技を繰り出すたびにポンポン宙を舞う。

 あっという間に、全員が突っ伏して動かなくなった。


「余興終わり。よろしいかしら」


 俺が問うと、帝国貴族たちがコクコクうなずいた。


「に……20レベルを超える戦士たちが簡単に……」


「そりゃ当たり前だろ」


 貴族たちの呟きを聞いてミッタクが呆れる。


「うちだって70レベルはあるんだから、オクノがそれより弱いわけねえだろ」


「な、70!?」


 彼らはしおしおと腰を抜かしたのだった。

 そして、ぶっ倒れた護衛達はアミラの呪法で治しておいたのだ。


 うむ……これが帝国で腕利きの戦士の実力なら、メイオーや奴の神官とは勝負にもならないな。

 やはり俺達が頑張らねば。


 俺は思いを新たにするのだった。


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