第164話 俺、軍師と相談する
「やあ多摩川くん。僕が八王子だ。はじめまして」
「クラスメイトなんだからはじめましてじゃなくね?」
「君はクラスの鼻つまみ者。僕は陰キャ。お互いに触れ合うことが絶対ないダークサイドの住人だろう」
「なるほどおー」
俺はとても納得した。
八王子タカフミは、古風な感じのメガネを掛けた背の低い男だった。
俺とだと、頭二つ分くらい違うのでは? ルリアやカリナくらいの背丈だぞ。
それが、でかい俺に全く動じるでもなく、平然と対応している。
肝が据わっている。
陰キャの肝ではない。
「僕も色々と揉まれたからね。それに、僕の武器は力じゃない。知略だ。全体戦力では王国に勝っても、個人戦力では劣る我が帝国。この状況で、個人の力を発揮させずに王国を破るため、色々考えたものだよ」
タカフミはトコトコと俺の周りを歩き回った。
「まあ、一番強力なイクサを抑えて、あとは数の力で押し込めばいいんだけどね。正道に勝る道はなし」
そう言うと、タカフミが手にしていた扇みたいなのをビシッと俺に突きつけた。
「それ、孔明とか司馬懿みたいなやつ?」
「そう。かっこいいだろ。特注で作ってもらった。一応防御魔法が掛かってて僕の身を守ってくれる」
「いいなー。やっぱ、形から入るよな」
「分かる? 形から入るとさ、なんかビシーッと身が引き締まるっていうか。コスプレって正義だったんだなーって僕は思うんだよね」
「うんうん。俺もマスク被ったら、なんか気持ちが切り替わったもんな」
俺とタカフミは分かりあった。
なんだこいつ、俺に魂が近いんじゃないか?
「オクノが生き生きしてる……」
なんか羨ましそうにラムハが見てくる。
これは仕方ないのだ。
好きなものの方向性が似通っている男子が二人であってしまえば、そこには何者も入り込めないフィールドが生まれたりする。
俺とタカフミは、もっと早く出会っておけばよかったのだ……。
この一瞬の邂逅でそれを悟ってしまった。
「でもさ、無理だよねぶっちゃけ。あの教室って陽キャモドキの巣だったじゃないか」
「分かる」
「ちなみに帝国に真の陽キャ二人が生き残っているわけだけど」
「シュウスケとマナミな。あいつら全然嫌味とかなくて、心の底から陽キャなんだと俺も思った」
「真の陰キャと真の陽キャが同時に存在すると対消滅が起きる……」
「な、なんだってー!」
二人でそんな話をして、ゲラゲラ笑った。
タカフミは引き笑いをする。
「オクノが楽しそう……」
「ラムハ、男ってああいうものよ。ずっと子どもな部分があるんだから、そこはそれとして流してあげるのが大人ってものよ。……もしかしてラムハ、混ざりたかったりするの?」
「いや、あの、私って趣味みたいなのが無いなーって思って……」
「ふんふん……。じゃあ、お姉さんがラムハに趣味のなんたるかを教えてあげる」
ラムハとアミラがいちゃいちゃしている。
いいぞいいぞ。
嫁同士が仲がイイことは素晴らしいのだ。
「ところでオクノ氏」
「フレンドリーな呼び方に変わった! なんだタカフミ氏」
「君はまさか……ハーレムの主なのかね……」
「そうだぞ」
「おっ、もげて死ね」
「なにぃーっ」
俺が小突くと、タカフミはふひゃふひゃ笑った。
こいつ、キモくて大好きだなあ。
イクサとかダミアンとかとは全然別のベクトルで、最高に仲良くなれそうな気がする。
「ああ、そうだ。オクノ氏、君は技を閃いて技の数だけ強くなっていくスキルを持っていると聞いている。それで間違いない?」
「おう。もう把握してるのかあ」
「僕は物を覚えるのだけは得意だからね。シュウスケとマナミの能力も把握してる。あの二人はユニゾン。二人揃うと強さが累乗で強くなる。だからイクサと渡り合えた」
「ほほー。しかもカップルとか、強いな」
「そういうこと。で、僕のスキルは、タクティクス。これは三つの能力の複合でね。まず、戦場を上空から俯瞰で一望でき、自在にズームイン、ズームアウトできるタクティカルアイ。次に、戦場に存在する部隊をユニットとして扱い、彼らの能力に則った正確な行動を取らせることができる、タクティカルコマンド。最後に、全体の戦力を把握し、部隊配分を瞬間移動させることで自在に操作できる、タクティカルコントロール。この三つを総じて、タクティクスと呼ぶんだ」
「あ、それ強いなあ。戦争になったら無敵のスキルじゃないか。相手に俺らがいなければだけど」
「だろ? 僕のこの力があったから、シュウスケとマナミは十全に活かせる最強の手駒として、残してもらったんだ。幸い、あの二人は真の陽キャだったから、帝国の国民にもひどいことしてなかったしね」
ということは、冥府にいたクラスメイト連中は、天狗になって帝国の国民を虐げたりしてたってことか。
そりゃあダメだ。
報いを受けるのも分かる。
「このタクティクス、戦争じゃない場合でも使えるんだ。一応対象がパーティ単位で、最低でも二人一組になってる必要があるけど。この力で、僕はオクノ氏を支援できる」
「おう。すげえ頼りになると思う。今俺は、メイオー戦に備えて鍛えてるんだけどさ。俺の能力を把握できてるのが俺しかいなくて、伸び悩みを抱えてたんだ」
「オクノ氏、君は強くなりすぎた……」
シリアスな声でタカフミが言ってきた。
なにかのマンガのネタだろう。
俺に通じなかったので、ちょっとがっかりするタカフミ。
「冗談じゃなく、オクノ氏のスキルって相手が強くないとダメなんだろ? 君ね、体術に偏りすぎたんだよね。相手のメイオーも体術だって言うじゃない。なら、体術と体術がぶつかりあって、より強いほうが勝つ。今の所メイオーの方が強いだろこれ」
「よく分かるなあ……」
「ラスボスが一点特化型だからね。こういうパターンはそのジャンルだけではラスボスには勝てないよ」
「あ、そういうの俺もゲームで心当たりあるわ」
「そうそう、相手が万能型だったら一点突破で戦う。相手が一点特化型だったら……」
「冥神ザップにも言われたな、万能型で戦う、か」
「そのための練習相手がいないってわけだね? なら、安心してくれ! ちょうどいいのを見つけてある」
タカフミはそう言うと、棚から丸められた地図を取り出した。
これは……キョーダリアス世界の地図か!
「僕のタクティクスは、戦場になっているところならどこでも眺められる。これを駆使して、戦場になった場所の地形を書き込んでおいたんだ。そしてここ!」
タカフミが指差すのは、キョーダリアスは、帝国近海。
海のど真ん中じゃないか。
「ここで、クジラのモンスターがいた。君が話している六欲天ってやつの最後の一柱だろうね」
「おっ、ついに六欲天の六柱めが!!」
「帝国の船と、六欲天が小競り合いをやったのさ。結果、船は全壊、部隊はほぼ全滅。とんでもない相手で、しかも海だ。どうだい? いかに強力な君と言えど、海なら戦闘力が半減するだろう?」
「するねえー。つまり、俺がレベルダウンしたみたいな扱いになるわけだ」
「そういうこと。鍛えるには持って来いだ!」
タカフミがニンマリと笑った。
頼りになる男だ……!
俺はここで、閃きまくってメイオー戦に備えるぞ。
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