第156話 俺、冥界を進撃する
ハームラが鼻歌など歌いつつ、率先して冥界を歩いているのだが、危なくないのかな。
「そりゃあ危ないじゃろう。カオスディーラーから分かれた魂が、冥界にはひしめいているのじゃ。あの女神が知っている冥界とは違っていると思ったほうが良いじゃろうな」
「やっぱり」
俺は得心がいった。
元々月の女神の巫女であったラムハなど、これを聞いて青ざめる。
「ハームラ様! 危ないです! 危ないですから一人で先に行かないで下さい!」
『ええ? 冥界には何度も降りてますから。わたくし、ここから冥府までは目をつぶってたって行けるんですよーわぎゃー』
おっと言ってるそばから、真横から飛び出してきた大型の魂にハームラがふっ飛ばされたぞ。
「よし、任せるのである! フロント!」
「おう! アップドラフト!」
フロントが呼び出した強烈な上昇気流を受けて、ジェーダイが飛ぶ。
そして見事に女神をキャッチし、飛び込んでくる魂の一撃をビームサーベルでいなした。
「ほほう、冥界では魂も物理的な力を持つのであるな」
「よしよし、暴れ魂? っていうの? それは俺が相手をするわ」
ジェーダイにいなされた、大型の魂が戻ってくる。
掴めるんなら何だって相手できるぞ。
俺は真っ向からその突撃を受け止めると、両手で掴んで担ぎ上げた。
「おらあっ! エアプレーンスピン!!」
ぐるぐる振り回してから、地面に叩きつける。
『ウグワーッ!!』
魂は一声叫ぶと、そのまましおしおと小さくなってしまった。
『フウー、危ないところでした。わたくし神格を奪われてしまうところでした』
「超危なかったんじゃないか」
とんでもないことを言う女神様である。
これは大変なポンコツだ。
放っておいては危険過ぎる。
「ラムハ、アミラ。ハームラの両手をガッチリ掴んでおいてくれ」
「分かったわ」
「任せて。はい、女神様、一人で先に行っちゃだめよー」
『なんだかわたくしが子ども扱いされています……?』
「思った以上にこの辺りは危なそうだからな」
冥界は、基本的に岩肌がむき出しの大地だ。
そしてあちこちに、見通すことができない暗闇の塊みたいなのがある。
この闇の中に、凶暴な魂が潜んでいた。
そいつらは、ハームラを狙って次々に襲い掛かってくる。
うーむ、この女神様、まるで誘蛾灯のように魂を引き寄せるな!
「なかなかいい訓練になります! はいよー!」
フタマタにまたがったカリナが、ところ狭しと駆け回り、魂たちを次々に打ち倒す。
短剣技のブラッディマリーは非常に使い勝手がいいらしく、大体はこれで仕留めている。
「この辺りの魂はそんな大したことなさそうだな」
俺は横合いから飛び出てきた魂を、ラリアットでなぎ倒し、上から襲いかかってきた魂を呪法抜きのパワーボムで叩き潰しながらそう口にした。
『混沌の裁定者は多くの魂を飲み込んでいました。その中にはきっと、もっと恐ろしいものがいるはずです。こうしてわたくし達で魂をやっつけておけば、後から回収班がやって来て、無力化された魂をまとめてくれますから』
「なるほど。俺達は有害な魂駆除のためのお手伝いってわけだな」
なるほどなるほど、やることが明確になった。
魂を次々に倒し、しおしおにしてやりながら突き進む。
途中から、ハームラがおとなしくなったのでラムハとアミラも戦線に加わった。
二人の呪法があると、広範囲攻撃が楽になるから便利だな。
「わんわん」
「なに? フタマタが試したいことがある?」
「わん、わふん」
「カリナと一緒ならやれそうだって? おお、もしかして人化して連携するのか!」
「わおーん」
「なんですかなんですか」
「カリナ、君には教えてなかったのだが、実はフタマタには新しい能力が備わったのだ」
「えっ、フタマタに!? なんですかなんですか」
「それはこれから明らかに──」
『もがー』
「うわー、かなり大きい魂がでてきたのである! この辺りのボスであるな!」
話の途中ですが襲撃だ!
奴ら、いいところで割り込んできやがる。
「とにかく実戦で行こう。ゴー! フタマタ!」
「わおーん!」
「フタマタに作戦があるなら、わたしは走っておいつきますよ!」
カリナも走り出した。
うちの団で二番目の素早さを獲得するに至ったカリナ、イクサほどではなくても、めちゃくちゃな速さで走る。
得意武器は弓だが、乱戦が多くて見通しが悪い冥界は、短剣メインで行くつもりらしい。
フタマタの新形態とも相性が良かろう。
「わおおーん!」
フタマタが高らかに咆哮した。
『もががー!』
巨大な霊が、フタマタを叩き潰そうと腕を振り下ろしてくる。
すると、直撃寸前で、フタマタの体が小さい二つの影になった。
「とあー!」「とあー!」
フマとタタに分かれたフタマタ。
これを見て、カリナはギョッとしたようだ。
「ええっ!? こ、子どもになった!?」
だが、走る足を緩めない辺りはさすが。
俺もフォローできるように、距離を詰めておく。
背後では俺を押し出すため、シーマとラムハが待機中だ。
俺の出番が、果たして来るかな?
「カリナさん! あわせていきましょう!」
「カリナちゃん! あわせていこう!」
「は、はい! 行きます! ブラッディマリー!」
カリナの短剣技が閃く。
フタマタに気を取られていた大型魂は、懐まで入ったカリナに攻撃を許してしまった。
『ウボアー!?』
ダメージを受けてのけぞる魂。
一撃で気絶とは行かないか。
なかなかタフだぞ。
そこへ、フマとタタが飛びかかった。
「へるふぁいあー!」
「しのきば!」
フマが空中から炎の呪法を操り、タタが回転しながら大型魂に突っ込む……!
なるほど、フタマタの能力を二人で分担して使えるんだな。
『ブラッディヘルの牙』
絶対に殺す的な殺意の高い連携名が見えたぞ!
『ウ、ウ、ウグワーッ!!』
大型魂もこれにはひとたまりもない。
目から光を失い、そいつはバターンと倒れてしまった。
すぐに、しおしおと縮んでいく。
おや? こいつは複数の霊がスクラムを組んだタイプだったようだ。
転がっている小さい魂が幾つもある。
「これ、アイテムボックスに入りそうだな」
俺はふと気がついた。
回収班をわざわざ待たなくても、こっちから持っていってやればいいじゃないか。
俺はアイテムボックスに、魂をひょいひょい放り込むことにした。
『魂をアイテムボックスに!? 前代未聞ですねえ……』
驚きつつも、女神ハームラは楽しそうだ。
さあ、魂回収しながらの進撃が始まるよ!
「フロント、出し惜しみはいいのでエスプレイダーになって一気にやっておしまい。なんか魂はこの世界だと死なないっぽいじゃない」
「秘密の変身だったのだが……。仕方あるまい、装着! エスプレイダー!」
フロントが変身し、風の呪法を纏って飛び上がる。
「行くぞ! レイダービィィィィム!!」
浮かび上がったフロントが、かっこいいポーズを決めながら指先から光線を放った。
放ちながらぐるぐる回り、雑魚魂を一掃していく。
「大型が出たのである! フロント、こっちにもビームを一発よこすのである。我に撃ち込め!」
「レイダービーム!」
「ふんぬうっ!」
エスプレイダーから放たれたビームを、ビームサーベルで受け止めながらくるくる回し、巨大な光の玉に練り上げるジェーダイ。
これを大型の魂に真っ向から叩き込んだ。
『ウグワーッ!!』
魂が吹っ飛ぶ。
混沌としつつある戦場は、カリナがフマとタタを従えて駆け巡っている。
三人の攻撃が、片っ端から魂を打ち倒す。
「おいラムハ。ここは良心を捨ててじゃな。魂を洗脳してこちらにつけてやればいいのじゃ」
「ううっ、シーマにそう言われるとやりたくなくなるんだけど」
「オクノのためじゃろう。ここは女を見せるのじゃ……!」
「オクノを盾にするんだから……! 闇の支配!」
「イービルスピリット!」
背中合わせになったシーマとラムハが、押し寄せる魂を次々洗脳していく。
あっという間に、敵対する魂が洗脳された魂になった。
うちの軍勢の数の方が多くなったぞ!
「はいはい、女神様は抜け出そうとしないでくださいね」
『アミラ、その腕を離すのですー! わたくしももっと前でみたーい』
よし、アミラ、いいぞ!
ハームラ目掛けて魂が集まってくるのだ。
俺達の中心で彼女を固定しておいてくれるのは助かる。
十分間ほど大群をいなしていた俺達。
気づくと、魂はみんなしおしおになり、地面に転がっていた。
これをいそいそとアイテムボックスに詰め込む。
おお、大漁大漁。
『この辺りの作業は終わったみたいですねえ』
ちょっとつまらなそうにハームラ。
「無事に終わるに越したことないだろ? さっさと冥界をどうにかして、俺達は地上に戻らなきゃなんだから」
『それはそうですけどー。わたくしだって、もっと前の方で楽しみたくてですね? ほら、一応戦えますし。触手を呼んだりして』
ラムハが顔をしかめた。
あの触手、混沌の裁定者に与えられた武器じゃなくて自前だったのか……!
そんなこんなで荒ぶる魂からの攻勢を乗り越えた俺達。
遠く、冥界の荒野に強い光が見えてくるのだ。
『冥府ですね。今まで死んだ方々があそこにいます。そして魂を綺麗に冥界の川で洗い流した後、新しい命として地上に戻るのです』
輪廻転生の概念がある世界なんだなあ。
それでは、冥府に向かってみるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます