第146話 俺、二人になる……けど絶対こいつ違うだろ

 バギーで王都の門まで乗り付けると、城壁は半壊。

 門は全壊。

 周囲は兵士とモンスターで死屍累々。


 その中に、小麦色の肌をした俺が立っていた。

 そう、俺だ。

 俺がもうひとりいる。


「よう、遅かったな本体の俺」


「本体の俺ということは、お前は幻の俺……」


 頭が悪い会話をするが、幸い、ここには常識を持った者はいないのでツッコミがこない。

 アリシアは、世の中こういうものだと思っているしな。


「しかし、俺はお前に覚えがないぞ幻の俺」


 俺は身構えた。

 混沌の裁定者の近くである。

 奴が何か怪しいパワーを使い、俺の分身を仕立て上げている可能性だってある。


 イクサも身構えた。

 ……ということは、もしかしてこいつから邪悪な気配がする?


「この男……できる。俺が見えた中で、最強かもしれん」


 イクサが緊張している……。

 不敵に笑う、小麦色の俺。


「やるか? オレは一向に構わんッッッ!!」


 やる気満々だな。

 アリシアも息を呑み、ミッタクは横から襲いかかる気満々。

 カリナとフタマタも戦闘モードだ。


 そこへ、日向が走ってきた。


「待ってー! 戦うの待ってー!」


「どうしたんだ日向」


「この人、凄く怪しいけど、一応多摩川くんの分身だよ! ラムハさん達の証言もあったから! 六欲天がいるジャングルで、多摩川くん分身を回収しなかったでしょ」


「アッ、そう言えば!」


 俺は思い出した。

 回収し忘れてた分身がいたわ。

 それがこいつかあ。


「戦意が薄れたな。つまらん」


 小麦色の俺は戦闘モードではなくなった。

 こいつ、それでも俺達全員を相手に一人でやる気だったのか。

 俺よりも好戦的だな!


「幻の俺。戦う相手は違うだろ。今は混沌の裁定者をぶっ倒さなくちゃ」


「そうだったな。雑魚はオレ達があらかた片付けておいたぞ。お前の仲間達はなかなか優秀だな」


「そいつはどうも」


 俺の割には、言うことがいちいち他人行儀だな。

 俺と俺の仲ではないか。


「こっちの多摩川くん、長い間一人でいたから多摩川くんとは全然違う感じになったみたいなの。多摩川くんのご両親も、違うって言ってたから」


「なるほど、そんなものか。フタマタがパーマネンスを掛けられて固定されたようなものかな?」


「わんわん」


 フタマタもそうかもしれない、と言っております。

 じゃあ、それはそういうものだということで、この場は納得しよう。

 何よりも、敵は目の前にいる革命軍なのだ。


 幻の俺がある程度蹴散らしたものの、まだまだわんさかいやがる。

 奴らは王都の内側から、俺達の様子を伺っていた。


 戦意が衰えた様子は見えないな。


「よっしゃ、じゃあいっちょやりますか!」


「おうよ。オレはまだまだ暴れ足りねえ」


 俺と幻の俺は、肩を並べて門をくぐる。

 すると、革命軍が襲いかかってきた。


『いくら強かろうがァァァァァ!!』


『二人きりでこの大軍相手じゃどうしようもねえだろうーッ!!』


「すげえ数だなあ。ところでこいつら、どこからこれだけの兵力を調達してるんだ?」


 俺が漏らした疑問に、幻の俺が応じた。


「古今東西。カオスディーラーが存在した全ての時代からだ。だが……所詮は雑魚よ」


「詳しいなあ幻の俺。……と、行くぞ!」


「おうとも!」


 俺と幻の俺が、並んで大軍に突っ込む。

 革命軍は俺達を覆い尽くさんと襲いかかり……。


「ラリアット!」


「ラリアット!」


『クロスラリアット』


 あれっ!?

 全然違う構文で技名が出た!?


 俺と幻の俺の腕が交差し、突っ込んできた軍勢に叩きつけられる。

 すると、敵軍が一瞬、勢いを相殺されてたわんだ。


 そして次の瞬間、『ウグワーッ!?』悲鳴を上げながら、連中はバラバラと吹き飛んでいく。


「こいつは……面白いな! オレは一人でやって来ていたが、タッグというのもまたオツなものだ」


「うむ。幻の俺。今までの幻で、一番俺と相性がいいみたいだな」


 そんなわけで、俺達は並んで突っ込むのだ。

 次なる大軍には、二人で跳躍してのドロップキック!


『ダブルミサイルキック』


『ウグワーッ!?』


 また大軍が消し飛んでいく。


 俺が組んだ腕を足場にし、跳躍した幻の俺が、上空から襲いかかる大型のモンスターをキャッチする。


「おらあっ! メイオー・リベンジャー!!」


 幻の俺が、大型のモンスターを力づくで折りたたみながら固定し、地面に向かって落下する。


『ウグワーッ!!』


 地面に突き刺さった大型モンスターは、断末魔を上げながら粉砕された。

 快進撃、快進撃!


 外では、オクタマ戦団の仲間達がモンスターを掃討。

 一般市民を外に避難させている。


 俺達は暴れ放題というわけだ。

 大軍を相手に、次々に技を放つ。

 すると、噛み合った瞬間に新しい技名が出る。


 コンビネーション技とでも言うのだろうか?

 それともツープラトン?


『ダブルブレーンバスター』


『クロスボンバー』


『フロント・ハイキック』


『サンドイッチ式延髄斬り』


『ダブルチョークスラム』


 などなど。


『そこまでだ侵入者どもめ! 俺はカオストーナメントの第二回優勝者! キラーホーネット辻岡!!』


 なんか出てきた奴に飛びかかる幻の俺。


「ツアーッ!」


『ぬわーっ!?』


 キラーホーネット辻岡を抱えあげて跳躍する。

 俺はそこに飛びつき、落下するキラーホーネット辻岡を加速!


 体勢は……パワーボムだ!


『スーパー・パワーボム』


『ウグワーッ!!』


 キラーホーネット辻岡は爆発四散!


 その隙に、横をイクサが走っていった。


「トノスを助け出してくる」


「がんばれ!」


 俺はエールを送った。

 あんなにイヤミを言ってくる弟なのに、助けるなんてイクサは心が広い奴だ。


「よし、俺達はイクサのサポートをしないとな」


「そうか? オレは暴れられればなんでもいいがな。しかし、実にいい闘争状態だ。力がどんどん漲ってくるぜ」


 幻の俺はげらげら笑いながら、革命軍のモンスター達を文字通り、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 うーむ。

 あいつ、どんどん調子が上がっていってないか?


 なんか、あいつ、どっかで聞いたことがある奴に似てるような……。

 あれは確かシーマとかミッタクの親父さんが……。


『うおおーっ! 革命バンザーイ! 横暴な王政を許すなー!!』


「ああもう、気が散るなあ!」


 俺はビッグブーツでモンスターを蹴り倒した。

 そう言えば、幻の俺が出てきてからシーマが出てこない気がする。

 裏方に回ったのかな?


「ああ、残念だなあ。こんなに楽しいのに、シン・コイーワもキー・ジョージも既に死んでやがるとはな。後で復活させてやらなきゃいけねえなあ!」


 笑いながら、幻の俺がモンスターを張り倒していく。


 ほう、三神官についてもまるで身内のように。

 幻の俺は本当に俺と違うんだなあ。

 はっはっは。


 ……なんてそろそろボケてる場合じゃないぞ。


「なあ、幻の俺よ。多分そうだろうという確証を持って聞くんだけどな」


「なんだ? 本体の俺よ」


「お前、もしかして邪神メイオー?」


 俺がその名を告げると、幻の俺であった者は、嬉しそうに笑った。


「ああ、よくぞ気付いてくれた! お前がオレを呼んでくれたから、オレはオレを取り戻せるぞ! わははははは! この礼は、カオスディーラーを今度こそぶち殺してからやるとしよう!!」


「マジだったかー」


 びっくりである。

 そう言えば、メイオーは俺と同じような存在だってミッタクパパも言ってたもんな。


 だからこそ、放置された俺の分身を核にしてとうとう復活したってわけか。

 キョーダリアスもあっちこっちで戦乱が起こってたから、復活は時間の問題だっただろうしなあ。


 幻の俺の姿がみるみる変わっていく。

 いつもの動きやすそうな服装から、やっぱり動きやすそうな真紅のタンクトップに。

 二の腕が1cmくらい太くなって、黒髪が漆黒の髪に。

 目の輝きは闇のように黒くなった。


 ……あれ?

 ほとんど変わってないぞ。


 なんか、格闘ゲームで言えば、俺の2Pカラーみたいな感じだ。


「なあメイオー。あまり変化ないんだが?」


「戦いは見た目でするものじゃないだろうが。戦いはハートと筋肉でするもんだ」


「至言だ」


 俺は納得した。

 そして、妙に分かり合ってしまった俺とメイオーの前に、ついにあいつが現れる。


「多摩川くんが二人……。実に、実に悪夢のような光景だね」


 五花武。

 城のバルコニーから俺達を見下ろす。


 そいつは絵の具をぐちゃぐちゃにぶちまけたような、そしてぐにゃぐにゃと色彩が蠢くマントを身に纏い、同じ色の目をしていた。


 混沌の裁定者と一体化しつつあるのかもしれないな。


「だが……僕は今までの僕じゃない。そう。世界に冠する、混沌を統べる僕となっているのだ!! さあ、多摩川くん! これまで僕にしてきた無礼を、ここで罰するとしよう!! 何もかも……何もかも! 君さえいなければ、僕は全て上手く行っていたんだからね!!」


「なーるほど。お前と俺の最終決戦ってわけだ」


 俺は身構える。


「だったらやろうぜ五花。ここには多数決してくれるクラスメイトはいない。っていうかほとんどぶっ倒した。かっこつけてないお前でぶつかってこいよ!」


「多摩川ァッ!! てめえ、僕に向かって偉そうにぃぃっ!!」


 さあ、因縁の対決、最終ラウンドだ。



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