第147話 俺、メイオーとタッグを組む

 ふわりと空に浮かび上がる五花。

 あいつ空を飛べるようになったのか。


「知っているぞ! 君の戦い方は地上戦、しかも野蛮な格闘戦だ。それに付き合わなければいいだけのことさ。僕は上空から、ひたすら君に向かって呪法を放つ。混沌の裁定者と繋がった僕は、実質上無限の呪力を持っているんだ。もはや、君の力は僕に通じない!」


 届かないだけじゃねえか。

 しかもあいつ、俺達がこの世界に呼ばれた当初の標的であったメイオーがすぐ目の前にいるってのに、気にも留めていない。


「わっはっは! なかなか可愛らしいことを言う奴じゃねえか。オクノ。お前のライバルか?」


「よせよー」


 俺は顔をしかめた。

 あんなのがライバルとか、勘弁して欲しい。

 あれはなんか、行く先々で遭遇する迷惑なだけの奴なのだ。


「僕を……無視するなあっ!! 底辺に這いつくばる陰キャ野郎ーっ!! 僕は、僕はもっと上にあがって、誰からも認められ、褒められるような人間になっていくんだぞ!? お前なんかとは始めから立ち位置が違うんだ!! うわああああっ!!」


 五花は叫びながら、俺に向かって七色に輝く呪力の塊を投げてくる。


「むっ、ブロッキングだ」


 俺はこいつを、防御態勢で受け止める。

 おお、そこそこ衝撃が来るな。


 しかし五花のやつ、全然余裕がなくなってるぞ。

 今までは虚勢くらい張ってたって言うのにな。


「いやいや、大したもんだぜ。カオスディーラーとリンクして、正気を保ってるだけマシだ。そこに力を割いていて、感情を抑制する余裕が無いんだろうさ」


 メイオーは防御すらしない。

 呪力を真っ向から受けて、涼しい顔だ。


「だが、所詮借り物の力だな。さっさとあの依代をぶっ倒して、本物を引きずり出すぞ相棒」


「相棒!? まあいいか」


 そういうことにしておこう。


「がああああっ! 全属性呪法ッ……!!」


 五花は叫ぶと、両手に巨大な呪力の球を作り出した。

 こいつを、俺達目掛けて投げつけるつもりらしい。


「あれは食らうと、王都が大ダメージなのではないか?」


「それは困るな。人間は一人でも多く生き残っていた方が、争いが多く生まれる。争いがなければオレが面白くない」


「不穏な理由だけど、お前と俺で五花を倒すモチベーションが一致したってことでいい?」


「おう、一致だ。タイミングはお前が測れ。オレはタッグってもんは初めてでな」


 なるほど、こいつはタッグマッチだ。

 敵は頭上……言わば場外にいる五花。


 あいつをいかにして、リングに引きずり戻すかが鍵だな。

 しかし、俺らの手が届かないであろうところから、一方的に攻撃とか。


 せこいなあ。


「おっし、行くぞメイオー! 俺のカタパルトになってくれ」


「単語の意味は分からんが、何をしてほしいかは理解したぞ。それっ」


 メイオーが腕組みして、俺の足場を作る。

 俺がそいつに足を乗せると──。


「ふんっ!」


 メイオーは腕を振り上げる。

 俺はその勢いに乗って、高く高く跳躍した。

 跳躍する勢いを使って……。


「ドロップキック!!」


 いや、まさにこいつは、崩落するビルを突破したライジングキック!


「なにっ!? こ、混沌の障壁……!!」


 呪法の壁を展開し、必死に受け止めようとする五花。

 俺のキックは障壁に突き刺さり、一瞬だけ呪法の壁は拮抗したように見えた。


 だが、次の瞬間にはぶち破られる。


「ぐおおお!!」


「よっしゃ、捕まえたぜ五花!」


 俺は、奴の混沌色になって蠢くマントを引っ掴んでいる。

 マントはそこから俺を侵食しようとしているようで、色彩が指先に乗り移ってくる。


「闘魂注入!」


 俺はマントをぶっ叩いた。


『ウグワーッ!』


 マントから悲鳴が聞こえる。

 おや?

 これって、混沌の裁定者に繋がってるんじゃないのか?


 五花は突然、飛行能力を失い、落下を始めた。


「な、なんだと!? ばかなあっ!!」


 俺に引っ張られながら、五花は空中でもがく。


「ええいっ、離せ多摩川!! お前が僕に触れていいと思っているのか!! うおおおお!!」


 五花の全身から溢れ出す、七色の輝きが俺を打つ。

 なんつうか、七色の輝きなんてきれいなもんじゃないな。

 七色がぐちゃぐちゃに混じり合った、泥みたいな光だ。


「闘魂注入! シャオラアッ!」


 光を真っ向から、ビンタで迎撃する俺。

 五花が放つ光。

 俺が迎え撃つビンタ。


 こいつが何発も連続した。


 そして、地上へと到着だ。


 さすがは五花、叩きつけられること無く、謎の力で軟着陸しやがった。

 俺は足のクッションで衝撃を殺しながら、ヒーローっぽい着地。


「多摩川ああああっ!!」


「なんだなんだ」


 すぐさま、混沌を纏って殴りかかってくる五花に、俺はちょっとうんざりしながら応じた。

 奴の拳が、俺の顔面に襲いかかる。


「ブロッキング!」


 そいつを額で受け止めた。


「五花、俺に執着してるのはお前じゃないか」


「うるさい! うるさいぞお前! 僕は特別なんだ! 生まれも、育ちも、才能もあって、家柄もあって! 何もかも特別な僕が! どうして今、僕は化け物共に囲まれて一人で! それで、何もないハズの、陰キャで空気も読めない、いつも一人でもケロッとしてるボッチのお前が、たくさんの仲間達に囲まれていて……!!」


「何言ってやがる」


 五花の拳が、俺に降り注ぐ。

 混沌の裁定者と繋がってるだけあって、なかなか痛い。


 この光景を後ろで眺めていたメイオーが、鼻を鳴らした。


「なんだ。お前、オクノが羨ましかったのか」


「なっ」


 一瞬だけ動きが止まる五花。


「僕は」


「シャイニングウィザード!!」


 飛び上がりざまの膝蹴りで、五花をぶっ飛ばす俺。


「ぎゃぴぃ!」


「わはははは!! おいおいオクノ、ここはあいつの独白を聞くお約束なんじゃねえのか? ま、いいけどよ!」


 メイオーが爆笑する。


「カオスディーラーが付け込むのは、いつもこういう小市民然とした奴だ! 小市民はな、てめえの器ゆえに糞みてえなことをしでかす! 近視眼になって、何もかも感情のままにぶっ壊して、そして後悔して泣きわめいててめえを殺す! それがカオスディーラーの楽しみなんだよ。そんなんで、古代文明とか言われてる、あのいい時代はなくなっちまった」


 メイオーが遠い目をする。


「この世界を一回ぶっ壊せるくらい、人間の力は発展したってのによ。もったいねえ。だが、それはそれでいい。あの時代にコールと会えたお陰で、オレはスッキリと滅びた。そして今!」


 邪神は進み出て、俺と並んだ。


「ふんっ!」


 奴が地面を踏みしめると、大地に埋まっていた岩盤が起き上がる。

 それは垂直になって、ピタリと止まった。


「オレはな、復活したら、絶対カオスディーラーを滅ぼすって決めてんだ。前座はさっさと終わらせようや。オクノ、お前とあいつの因縁なんざ知ったこっちゃねえ。ちょっと面白かったが、それももう終わりだ。ありきたりの感情だわな」


「なるほど、シーマが言っていた通りの性格だなあ」


「わはは! あいつはさんざんこき使ったからな! おら、俺があいつをぶっ倒す。決めろよ、オクノ!」


 メイオーはのしのし前進し、起き上がってきた五花に組み付いた。


「くそっ、離せ、離せっ!! この脳筋め!! 多摩川、クソ野郎の陰キャめ!!」


「俺はオクノじゃねえっての。もう分かんねえか。混沌の侵食が頭の中まで来てやがる」


 俺は、岩盤を駆け上がっている。

 眼下では、呪法による連続攻撃を喰らいながら、それを意にも介さず五花を持ち上げるメイオーの姿。


「そおら!! メイオー式……アトミックドライバーッ!!」


 メイオーの体が一瞬ぶれた。

 それは、超高速で行われる、連続バックドロップからのパイルドライバーだ……!


「ウッ、ウグワッ」


 五花が呻く。


 そこへ、俺が飛んだ。

 メイオーは既に、距離を取っている。


 五花が近づいてくる。

 俺は思った。


 最後まで閃かなかったな。


「ムーンサルトプレス!」


 宙返りしながら、俺は五花へと体を浴びせた。


 その瞬間、五花が目を見開き、どこかに向かって手をのばす。


「多摩川っ────お前は───僕の───ウグワーッ!!」



 混沌の色彩が弾けた。

 五花であったものがあっという間に解け、消滅する。


 何も残らない。

 五花武がそこにいた証は何もなかった。


「うーむ……因果応報と言うんだろうか」


「言うんだろうぜ」


 俺の疑問に、メイオーが無責任な調子で応じたのだった。 



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