第141話 俺、革命軍と激突する

「なーにが革命軍だ。いつもどおりのモンスターの群れでは?」


 俺は疑問を呈しながら、横合いから突っ込んできた牛型モンスターの喉を掴んだ。


「喉輪落とし!」


 運転しながら、雑に地面に叩きつける。


『ウグワーッ!!』


 牛型モンスターが断末魔を叫びながら爆発した。

 おっ、七勇者と同じような消え方ではないか。


 こいつらもしかして。


「こやつら、カオスディーラーの力で異形化した人間どもじゃな」


 シーマが邪の呪法で次々にモンスターを洗脳しつつ、分析している。


「一匹一匹は、わしらにとっては大した相手では無い。じゃが、ただの人間から見れば恐るべき脅威じゃろうな」


 城壁の辺りでは、イクサ相手に革命軍のモンスターが群がっていくのが見える。

 イクサがモンスターの波に押しつぶされ……おっ、なんか剣の輝きが横一文字に走ったら、モンスターの波の一角が粉砕されたな。

 これには、数で勝る革命軍もちょっとドン引きしたらしい。


『化け物がおる』


 お前らが言うな。


「オクノさん、わたし、イクサさんをカバーに行きます!」


「おう、任せた。小回りはそっちのが利くもんな」


「はい!」


 カリナが弓を構える。


「アローレイン!」


 矢の雨が降り注ぎ、革命軍が一瞬たじろいだところを、フタマタが疾走した。


「オクノ! うちらも行くよ!」


「もちろん。だが、俺らの仕事はあれだ。この大群を殲滅しながらじわじわ進むことだぞ。ここから、バギーを降ります!!」


 俺は宣言すると、ブレーキを踏んだ。

 急停止するバギー。


「なんじゃ、歩くのか。バギーは楽で良かったのじゃが」


「シーマは飛ぶじゃねえか」


「まあな」


 西府アオイの顔で微笑むと、シーマはふわりと舞い上がった。

 こいつ、地球の衣装が気に入っているようで、まだ向こうのワンピース姿なのだ。

 飛ぶとスカートの中が見える。


「ほれ、イビルボールじゃ」


 シーマがぞんざいに、オレンジ色の光の玉を革命軍の中に投げ込む。

 すると、そこが爆発を起こしてモンスター達を吹き飛ばしていくのだ。


「うっしゃ、んじゃあ、暴れまくればいいんだな! おらあっ、旋風斬!!」


 ミッタクはバギーを飛び出すや否や、斧を振り回して回転し、人間竜巻みたいになる。

 触れたモンスターが一瞬でミンチになるぞ。


 なんだこのモンスター、地球で会ったデュエリストのあまり強くないやつくらいの実力じゃないか。


「広範囲攻撃かあ」


 俺は考え込みながら、襲ってくる奴らをビッグブーツで蹴飛ばし、引っ掴んでヘッドバットして頭を割り……。

 体術はジャイアントスイング以外、単体相手だからな。


「よっしゃ、鞭でいこ」


 アイテムボックスから鞭を取り出した。


「おらっ! ボルカニックバイパー!!」


 地面を鞭で叩きつけると、そこが噴火したように爆ぜた。

 巻き込まれたモンスター達が、悲鳴を上げながらぶっ飛んでいく。


 この技は遠目からも大変目立つ。

 俺は手当たりしだいにボルカニックバイパーをぶっ放し、革命軍の耳目を集めるわけだ。


 おっ、遠目で見ると、イクサとカリナとフタマタが辺境伯領に入れたようだ。

 イーヒン辺境伯と、イクサの婚約者のなんて言ったっけ? あの娘のことは任せた。

 アベレッジって騎士もいたな!


『こ、こいつ強いぞ!』


『俺達は五花様によって特別な力を手に入れたんだ! 俺達の正義を見せつけてやろう!』


『うおおー! 体制打倒!』


『国民に主権を!』


『正義は我らにあり!』


「うわーっ、わらわら集まってくるなあ! ていうか、一応革命軍はお題目がちゃんとあるのね」


 俺は感心した。

 その横で、ミッタクが「しゃらくせえ!」とか言いながらモンスター達を粉砕して回っているが。


「うん、全くだ。ミッタク、ちょっとこっち来い」


「なんだ?」


「連携でぶっぱなすぞ。シーマも合わせろ」


「うむ。では皮切りはわしじゃな。イビルボール!」


 オレンジ色の光の玉が飛ぶ。

 これに合わせて、ミッタクが飛び、回転した。


「旋風斬!」


 回転するミッタクがイビルボールを周囲に撒き散らす。

 そこに突進する俺だ。

 手近なモンスターを掴んで『ウグワーッ!?』幻の呪法を纏う。


「サンダーファイヤーパワーボム!!」


『イビル旋風パワーボム』


 禍々しい呪法の力が戦場一帯に降り注ぎ、そこにミッタクの斬撃が乗り、さらには俺が纏った雷と炎が地面から吹き上がる。


 阿鼻叫喚の光景である。

 モンスターどもがばたばたと倒れていく。


「おおー、壮観じゃのう。わしがやられた時は、なんだこの連携、反則じゃろとしか思わんかったが……自分がやるとなると実に気持ちいい」


 シーマがニヤニヤしている。


「シーマ、敵はどんだけ減った?」


「九割消し飛んだのじゃ」


「ほぼ全滅じゃねえか」


 戦場の隅っこに、生き残った連中がちらほらいる。

 だが、奴らは完全に腰が引けており、俺達を見ては悲鳴を上げて散り散りに逃げ去ってしまう。


「なんだよー。よええなあ」


 ミッタクが大変がっかりしている。


「オクノやイクサがつええから、敵もきっと同じくらいつええんだと思ってたのに。うちはがっかりだよ」


「なんたるバトルジャンキー嗜好の女子か。というか、みんな俺とイクサだったら世界が滅びるぞ」


「そうじゃな、間違いない」


 シーマがけらけら笑った。

 ということで、再びバギーに乗り込んで城壁を目指す俺達なのだ。


 そろそろ雑魚は相手にならなくなった。

 だが、俺とミッタクはそもそも単体攻撃特化である。

 雑魚を散らすのが得意なメンバーは、船に残してきてるからな。

 今頃王都で大暴れしているのではないだろうか。


 半壊した城壁まで到達し、瓦礫の上を飛び越えながら辺境伯領に入る。

 それなりに強そうなモンスター達が……死体になって転がっている。


 この死体が続く様を追っていくと、イクサの元までたどりつけるだろう。


 ところで、革命軍は一見して烏合の衆だったが、それが集団でここまでやって来れるだろうか?

 俺にはちょっと考えがたい。

 多分、ボスがいるんだろう。


 そいつは恐らく辺境伯領まで入り込んでいて……。


 イクサの敵意センサーの性能を考えると、そろそろあいつはボスと対峙しているころでは?






 場所を移し、時間をわずかに巻き戻して、辺境伯領の最奥。

 イーヒンの屋敷は、戦場になっていた。

 辺境伯の娘、アリシアは隠し部屋の奥で、侍女とともに息を潜めていた。


「ああ……もう終わりです。あんな化け物達が大挙して押し寄せてくるなんて……」


 侍女がさめざめと泣いた。

 本来なら、アリシアを勇気づけるべき立場であろうが、完全に気持ちが折れてしまっている。


 それも、目の前で名だたる騎士たちが、モンスターを率いるあの男に倒されたからである。

 異世界から来たというその男は、白い甲冑に黒い角を前後に二本生やした、異形のモンスターへと姿を変えた。

 その甲冑には剣も槍も通じない。


 鉤爪が騎士たちを引き裂き、角は挟み込んだ兵士達を捻り潰していく。

 人が抗えぬ暴力。


 領の最高戦力たるイーヒン辺境伯も、行方は杳として知れない。

 もしや、既に討ち取られて……。


 アリシアは湧き上がる暗い想像を振り払う。


「そんなことはありません。きっと、きっと救いはやって来ます」


「でも、アリシア様……。反乱軍はもう、王都をも取り巻いていると。どの領主も、他に助けをよこす余裕なんてありません」


「領主が己と民を守らんとすることは当然です。だから、助けに来るのは領主ではない方です」


「そんな事が……」


「きっと来ます。あの方が」


 アリシアは信じている。

 彼女の愛した男が、やって来てくれることを。


 もちろん、現実がそこまで都合の良いものではないことも理解している。

 遠く離れたあの男へ、どうやって自らの危機を知らせるというのか?

 彼は、神ならぬ人間なのだ。


 その時、隠し部屋の扉がガンガンと激しく叩かれた。


『おやぁ~? ここだけ音が違うなあ……。 ……なーんてな!! 俺様はよ、女の匂いが分かるんだ。ハッハッハァ!! ここから女のいい匂いがするぜえ?』


 アリシアと侍女が息を呑む。

 奴だ。

 反乱軍を率いる、モンスターの王。


 異世界から来たという、白黒の甲虫を思わせる異形の男。


 縦に並んだ二本の角が、扉を破って突き込まれる。

 それは分厚い壁を、まるで薄板のように引き裂いた。


 隠し部屋の薄暗がりに、外界の光が差し込んでくる。

 希望の光ではない。

 今は絶望の光だ。


 現れる異形。


『じゃあーん。ヘラクレスシュートの登場だぜ!!』


 ヘラクレスシュートを名乗るその男こそ、地球はカオストーナメントの第一回優勝者。

 何者の攻撃も通さぬ圧倒的装甲と、あらゆるものを捻り潰す絶対的な怪力。

 それに合わせ、なんとこの怪物は格闘技を使う。


 技は剣道。

 異形の肉体が生み出す身体能力は、この男の剣道四段の腕前を、魔剣の域まで高めていた。


『おうおう、いるじゃん、お姫様がよ! いやあー。本物のお姫様なんて、日本にいたら拝めなかったよなあ』


 甲虫の角の下で、そこだけ人間の形に近い口が笑う。


『そこの地味な女は殺すけど、おい、お姫様。俺の女になれや。そうすりゃ生かしてやるよ』


「ひ、ひいっ」


 侍女が震えた。

 アリシアは、キッと眉尻を釣り上げ、甲虫を睨む。


「わ……私の身は、あの御方のものです。誰にも渡すことはありません!!」


『いいねいいね! 操を立ててんの!? そういうのを蹂躙するのが最高に燃えるんだよねえ! あ、抵抗してくれよ? 俺、抵抗する女を組み伏せて泣き叫んでもらうのが超性癖なんだよ』


 ヘラクレスシュートは手を伸ばし、アリシアのドレス、その胸元に鉤爪を掛けた。

 破れる布地。

 あらわになる、白い肌。


「わ、わ、私、は、絶対にお前の、ものに、は……」


 目に涙を溜めて、恐怖と、そこから沸き上がる震えを止めることもできず、しかしアリシアは目をそらさなかった。


『最高! んじゃあ、いただきまーす!!』


 ヘラクレスシュートが、アリシアに覆いかぶさる……その瞬間である。


 アリシアの目が見開かれた。


『ウグワーッ!!』


 隠し部屋の向こうから悲鳴が上がる。

 そして、モンスター達が粉々に粉砕されながら、吹き飛んでいくのが見える。


『は?』


 ヘラクレスシュートが起き上がった。


『なんだよ?』


 振り返るそこへ放たれる一言。


「裂空斬!」


『ぬおっ!?』


 慌てて、ヘラクレスシュートは腕を交差させ、それを受け止めた。

 超高速で放たれる真空の刃に反応する、驚くべき反射速度。


『へへっ、危ねえ危ねえ。だが、よく考えたら俺の体には、そんなもんじゃ傷一つつかねえ』


 ニヤニヤ笑いながら、ヘラクレスシュートは背後から現れた男に向き直った。

 そこには、剣を構えた男が一人立っている。


「浅かったか。だが、腕を二本落とした」


『は? 腕を二本って、お前』


 ヘラクレスシュートが交差していた四本の腕のうち、二本が時間差で切り飛ばされる……!


『お、お、おぐァ────!? お、お、俺の腕が!? マシンガンの弾丸だって跳ね返す俺の体が! 戦車砲の直撃にだって耐えられるのに! なんで!?』


「アリシア、待たせたな。すぐに行く」


 甲虫の背中を通して聞こえてくる、待ち人の声。

 アリシアは叫んだ、その名を。


「イクサヴァータ様!!」


 剣王イクサ到着。


 彼の眼差しは炎のような激しさをあらわに、甲虫を睨みつける。


 イクサ、激おこである。



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