第139話 俺、都市国家群にて情報収集する

 ダミアンGの休憩も終わっただろうということで、再び飛翔するホリデー号。

 もう、当たり前みたいに空を飛んでいる。

 空は邪魔するものがなにもないから、とにかく速い。


「どれくらいの速さなんだろうなあ」


『馬ヨリハ速イデスネ』


「高速道路の車並じゃん!」


 時速百キロは出ている計算になる。

 バギーも確か、平地ならそれくらいの速度で走れるのだが、ホリデー号がこの巨体で百キロ出して飛ぶのは本当にやばい。

 下からこれを見たら、みんなパニックになるぞ。


「うわーっ、ありゃなんだー!」


「ひえーっ、化け物ー!」


 ほらー!

 下の漁村で、人々が逃げ惑ったりうずくまって祈りを捧げたりしている。


 空飛ぶ帆船ホリデー号が、おかしな伝承になって広まりそうな気がする。

 ところで、漁村が見えているということはそろそろサンクニージュ大陸も終わりなのでは?


 案の定、彼方に密林地帯が見えて、大陸南端に到達したのだと分かる。

 早いなー。

 空飛ぶホリデー号だと、今までゆったり旅してきたところもほんの一週間で踏破してしまう。


 次に海を超え、夜には群島の只中に到着していた。


「団長、都市国家で情報収集をしましょう。混沌の裁定者の動きは活発化してるはず。でしたら、その情報が都市国家の商人達に知れ渡っているでしょうね」


 イーサワがいい事を言った。

 それに、都市国家に行けば久々に陸地で休めるな!


「うむ、人間どもの情報網は大したものじゃからな。わしも賛成じゃ」


 最近見かけなかったシーマが、横で頷いている。


「なんだよ久しぶりじゃん」


「ああ。やることがなかったのでな。お前の母に料理を習っておったのじゃ。じゃがいもの皮剥きが恐ろしく上達したのじゃ。まさか何千年も生きてきて、料理の勉強をすることになるとは思わなんだ」


 何やってるんだうちの母は。

 邪悪な女呪術師相手に、お料理を教え込むとは……。


「もしや今まで出てきていた食事にシーマが作ったものが?」


「二日目くらいからわしが手伝っておるぞ」


「そんなに早く!!」


「流石のわしも、空の上があんなにやることがないなんて知らなかったのじゃ。この肉体は若いゆえ、わしの精神もそれに引っ張られておる。退屈には勝てぬ……」


 シーマの精神が何千歳でも、肉体である西府アオイは十七歳くらいだもんなー。


「じゃあ日向と明良川と女子トークでもしたら良かったじゃない」


「あっちはもろに精神が出るじゃろうが。いまさら昨日生まれたばかりみたいな小娘と喋る趣味はないのじゃ」


 複雑なものである。


「それはともかく、都市国家に行くのじゃな? 新しい食材が仕入れられるのじゃ」


「すっかりうちの親に染められて……」




 翌朝、俺達は都市国家の一つにやって来た。

 わらわらとリザードマンの船員たちが降りてくるので、みんな俺達が何者なのか分かったらしい。


「オクタマ戦団が戻ってきたぞ!」


「なんか歩く樽みたいなのが増えてる」


「あれは伝説にある極北のバイキング族じゃないか? 角がある!」


 注目の的である。

 ミッタクが居心地悪そうだ。


「なあオクノ。なんでうちが注目されてんだ? ってか、暑いなあここ……」


「今まで空の上だったからな。空は涼しいから、バイキング集落からそこまで体感温度変わらなかっただろ」


「そうなのか? あー、でも暑くて堪らねえ! ええい、うちは脱ぐぞ!」


 いきなりミッタクが着ているものをポイポイ脱ぎ始めた。


「ミッタク、それ以上脱いだら全裸だ! 年頃の娘さんがやめておきなさい……下着だけは残しておこう……」


「そんなもんか? あっちー」


 都市国家の男達が、目を見開いてミッタクを凝視している。

 バイキング族特有の、雪のように真っ白な肌。

 そして鍛え抜かれた筋肉と、そこからでも分かる女性らしい柔らかそうな肢体。


 大変あれだな。

 男の自制心を破壊しそうな体つきをしていますな。


「ラムハさん、アミラさん、何かないのかね」


「これ、これ!」


 ラムハとアミラが慌てて、大きな布を持ってきた。

 それをミッタクの腰回りと、頭の上から被せる。


「おほー! 涼しくなったぞこれ! なんだこれー」


「直射日光が防がれるから、ちょっとはましになるんだよ。このパレオを身に着けて、布を被って過ごすといい……」


「そっかー! ありがとうな!」


 快活に礼を言ってくるミッタクなのだ。

 素直で良い子なのだが、恐ろしく常識がないな?


「うわああああお日様だああああ! オクノくんだああああ」


 叫び声が聞こえた。

 甲板から、ルリアがぴょーんと飛び出してくる。

 彼女は猛烈な勢いで走ってきて、超高速で俺にタックルした。


「うおっ! 凄いテンション!」


「七日間は長かったよおおお。お日様とオクノくんが恋しかったよおおお」


 おお、目と同じ幅の涙を流している。

 淑女協定の罰則はめちゃめちゃに効いたようだな。


「よしよし。これからは抜け駆けしないでみんなと相談してくれよ……」


「うん。まああたし、一番乗りをもらったわけで既に勝利してるもんね」


「ルリア~?」


「あらあら、まだ口が減らないようねえ」


「なんだかわからないですが、折檻ですか?」


「ひっ、ひぃぇ~」


 口は災いのもとと言うな!

 ルリアが今まさに体現してくれた。


 わいわい騒ぐ女子達は置いておいて、俺はミッタクとイーサワを従えて都市国家の偉い人に会いに来る。

 ここは言わば、商人たちのサロンである。


 オクタマ戦団の会計見習いであるうちの親父もついてきている。


「雰囲気たっぷりだなあ。まさにラノベの世界じゃないか。中世ヨーロッパくらいというよりは、産業革命寸前みたいな雰囲気を感じないか?」


「そこのところは親父の方が詳しいだろ? じゃあ、ちょっと中世より発展してる感じなのか」


「ああ。それにヨーロッパよりはアメリカの方が近いかもな。色々な文化のごった煮だなあ」


 実に嬉しそうである。


「タマガワさん、こっちこっち。あなたの顔を通しますので。将来的には商人株取得を目指しますけど、まずはコネが大事ですからね」


「はい、イーサワさん!」


 親父がイーサワに呼ばれ、いそいそと走っていった。

 ここに来ても会社員してるなあ。

 まあ、この若い上司は非常に物分りがよく、仕事がやりやすいらしいが。


「……オクノの親父、ほんと似てるよなあ」


 ミッタクがしみじみと言った。


「そう?」


「適当っぽいけど、それなりに人に気を遣うあたりさ。うちもバイキングを率いてた時、そういうので頭痛かったからさあ」


「ああ、そっか! ミッタクもバイキングのボスだったもんなあ」


 お互い、集団を率いるもの、率いてたもの同士ということだ。

 ちょっとシンパシーだ。


「それじゃあ、この場に集った船乗りたちからも、船乗り同士ってことで情報を集めるか」


「うし!」


 このサロンには、船の船長や副船長クラスが集まっている。

 ここで情報交換をし、あるいは商談を行うわけだ。


「おおっ、あなたがオクタマ戦団の!」


「お若い!」


「隣は……なんとバイキング族の女性!?」


「奥様ですかな」


「そうです」


 断言しておく。

 ミッタクも、まあそれで文句は無いらしい。


 それにこの方が話が早いし、バイキングを妻にしている豪傑みたいな扱いになると、商人や船乗りからのリスペクト度合いが上がる。

 聞き込みがしやすくなるのだ。


「次はユート王国に行くんだが、どうなってるか教えて欲しい」


「ユート王国ですか……」


 皆が揃って、難しい顔をした。


「どうしたんだい?」


「いや、おすすめはしません。あの国は今、内戦の真っ最中でして」


「内戦!?」


「ええ。第二王子派と、最近現れた強力な指導者が起こした革命軍が……」


 革命軍!!

 それ、間違いなく五花が作った奴らだろ。

 やばいにおいしかしねえ。


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