第132話 俺、勝ち抜く
最初の試合はあれ、デモンストレーションだろ?
なんか鳴り物入りっぽく出てきた、鋼のコブラみたいなスーツを着た男だが、シャイニングウィザードまででぶっ倒れてしまった。
デュエリストは戸籍のある日本人っぽいし、まあ殺したらまずいかな? と思って手加減したんだが。
なんか、周囲から俺に向けられる目が変わったのだ。
これは敵意というか、何か恐ろしいものを見る目だ。
うん、キョーダリアスで散々浴び慣れた視線だな!
俺は両手を上げて、周囲にアピールした。
「俺は誰の挑戦も受ける!」
「オクノくん超煽ってるー!!」
「わんわん!!」
ルリアとフタマタが迎えに来た。
後ろには、両親とシーマと日向親子もいる。
「奥野、やったな! 父さん、感動したぞ! っていうかお前、父さんが学生の頃より遥かに強くない……? 父親としてもう子供に超えられちゃった……?」
何をショックを受けてるんだこの人は。
そもそもずっと会計事務所で仕事してる会計士じゃんか、あんた!
「まあまあ! 母さん、奥野のレスリングは初めて見たけど、見栄えするのねー。それで体が大きくなったのはどうして? あれかしら。パンプアップっていう」
ダブルバイセップスのポーズをする母。
「大体そう。なんかこっちの世界だと元々の俺の姿に戻るみたいだ。んで、戦う時はでかくなる」
「ド◯ゴンボールみたいね!」
「ちょっと違うと思うなあ」
危険なことを言う母親である。
日向父は目を瞬かせており、震える手で俺の肩を掴む。
「な……何が起きてるんだね多摩川くん!! あの蛇のスーツの男の連打、とんでもない速度だったんだが。あれは空手を学んだ者の動きだよ。正中線を狙う正確な正拳突きの連打が、ボクシングのジャブを超える速度で放たれていた……! あれをうけて、君はなんで無傷なんだ!?」
「プロレスというのは相手の技を受けてから返すものなんですよ」
「説明になってなくないかね!?」
「お父さん、多摩川くんはこういう人だから」
「マキ、俺は彼にならマキを任せてもいいかと思うんだ……。強い」
「違うからね!? 多摩川くんじゃないからね!?」
「多摩川くんじゃない……? や、やっぱり他にいるのか! いるんだな、マキ!! うぐぐーっ、マ、マキの彼氏なぞ、ゆるさーん!! 俺がこの拳で確かめて……」
騒いでいたら、次の試合が始まってしまった。
俺達は係員に隅っこに寄せられる。
ちなみに、頭上に設けられている幾つもの大型スクリーンには、実際に配信されている動画が流れている。
視聴者や賭けの参加者のコメントがよく見える。
ゆず『多摩川ー!! そのまま全員ぶち殺してあたしを石油王にしなさーい!!』
うおっ、明らかに明良川だ!!
あの野郎、家で俺の勝敗に金を賭けてるのか!
ちなみに、明良川は既にコメント欄でヒール扱いであり、袋叩きに遭っている。
だが、袋叩きコメントの合間に、明良川が新たな煽りコメントを燃料として投下。
さらに燃え上がるコメント欄。
「ひでえ……こんなに炎上してるコメント欄見たことねえ」
「なんだよあのゆずって」
「マスク・ド・オクタマの試合に有り金全部賭けて、一瞬で億万長者になったらしいぜ」
「ひえーっ」
あの野郎!?
俺はこの瞬間、首に縄をつけてでも明良川をキョーダリアスへ連れて行くことを決心した。
トーナメントが始まり、試合が粛々と進んでいく。
何やらみんな、七勇者のようなモンスターと人間が融合した姿に変身し、独自の技を使う。
半分はしょぼい。
「あれは弱いねー。ゆずりと戦ってた時はもっとヤバいって思ってたもん」
ルリアからも弱い認定されている。
明良川は、ああ見えて七勇者屈指の実力者なのだ。
呪法の腕だけなら、ラムハやロマに匹敵する。
人間性がアレなので、全く発揮できてないだけだ。
それに対して、目の前で戦っているデュエリスト達は、まだ変身した後の力……明良川のステータスで言うと魔人化を使いこなせていない。
そもそも鍛錬が足りていない。
「奥野。お前から見てどう思う? 父さん、アニメや特撮でこういう戦いはよく見てるんだが、それと比べてもパッとしないな」
「同感だ。しょっぱいな……」
配信動画でも、掛け金の動きは鈍い。
だが、そんな試合の合間に、トーナメントの本命と見られるデュエリストが登場すると動画も会場も盛り上がる。
「マンティスが来たー!!」
「マンティスまさよだー!!」
マンティスまさよ!!
一見して吊り目のきつそうな美人だが、変身すると大型のカマキリ怪人になる。
動画に表示されたコメントを見ると、第二回の準優勝者らしい。
彼女は、対戦相手が攻撃をしてきた瞬間、超高速の鎌の動きでそれをキャッチ。
そして相手を引き寄せると、喉笛を食いちぎった。
動かなくなる対戦相手。
あれは死んだのでは?
レフェリーを見ると、止める気配がない。
そして、対戦相手がマンティスまさよによってバラバラにされたところで試合が終わった。
「うえー」
母が顔をしかめた。
グロイのはいけないな。
エンタメとして悪い。
『ここで、オブザーバーとして先程試合をしました、マスク・ド・オクタマがマンティスまさよに挑みます!!』
いきなりレフェリーが宣言する。
盛り上がる会場。
「こりゃ、実質の処刑だな!!」
「まさよー!! 生意気なそいつをぶち殺せー!」
「そもそもどう見てもレスラーなだけでデュエリストじゃないじゃねえか!!」
鋭いツッコミが飛んだな……。
いきなりのご指名を受けた俺。
トコトコと会場まで歩み出た。
『ふふふっ、生きのいい男は大好きだよ。私の栄養になれ、お前!』
「カマキリのメスは産卵する時に栄養補給のために交尾したオスを殺すと言う……。おめでたで?」
『違うわ!!』
「ではこれは、無駄な栄養摂取ということになるな……! そもそも、安易なグロはいけない。プロレスは殺し合いではないぞ!」
俺はファイティングポーズをとった。
『お前っ、この私、マンティスまさよを前にしてよく吠えた!!』
いきなり試合が始まる。
マンティスまさよが、凄まじい速度で動いた。
一瞬で鎌が俺を捉え、引き寄せようとする。
だが、既に鎌は俺の手が掴んでいた。
よーし、ここは力比べだ。
『なっ!? う、動かないっ!! 一瞬の虚を突いて攻撃したはずなのに!』
「プロレスは常に、攻撃される覚悟を決めている。つまり、常在戦場ということだ! ふんぬうっ!」
マンティスまさよを、俺は力づくで引き寄せた。
『くおおっ! だが、近寄ったのならば好都合!! 死ねえ!!』
まさよの大顎が俺に迫る!
ピコーン!
『ヘッドバット』
「そぉいっ!!」
まさよの大顎向けて、俺のヘッドバットがうなりを上げた。
頭蓋骨は人体でも大変硬い部位である。
自らの勢いと、俺の勢い。相乗効果で繰り出された頭突きと真っ向衝突した大顎が粉砕される。
『うぎゃあああああっ!?』
「お前がセメントスタイルで来るならば、俺もセメントで応じよう! 見よ、これがストロングスタイルだ!!」
仰け反ったまさよの背後に回る俺。
その両腕をフルネルソンの形にして、ブリッジしながら背後へ投げ捨てる!
「ドラゴンスープレックス!」
『ウグワーッ!!』
「し、試合終り──」
「もう一つおまけにドラゴンスープレックス!!」
『ウグワーッ!!』
マンティスまさよは大爆発!
俺の勝利である。
相手の強さ的には、七勇者にいま一歩及んでない感がある。
技や呪法を使わず、モンスターとしての能力だけで攻めてきてたもんな。
俺はあえて技を受けて、相手の強さを確認してみた。
相手に付き合わないイクサだったら秒殺だったな。
「ああっ……! 完成品の一つがこうもあっけなく粉砕……!!」
レフェリーの呆然とした声が響いた。
そして彼は、俺を燃えるような目で睨みつける。
「もう許さんぞ……! ここからはトーナメントじゃない。カオス・トーナメントの総力で、お前という闖入者を片付けてやる! 変則タッグマッチだ!!」
タッグとは、いきなりの大会運営方式変更なのだ。
……さて、じゃあ俺は誰を相棒にしようかな?
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