第130話 俺、カオストーナメントに参加する

「何やら、混沌の裁定者主催のトーナメントがあるらしくてな」


『なんじゃいそれ』


 シーマと電話中である。

 いろいろ調べてみたら、西府アオイは俺の小学校の頃のクラスメイトだったようだ。

 全く記憶にない。


 連絡網みたいなのがあったので、これを使って自宅に電話をしている。

 俺もシーマも、今はスマホを持ってないからな。


 後ろでは、ルリアと母が並んでテレビを見て、けらけら笑っている。

 実の親子のようだ……。


「こっちの世界にも、七勇者みたいなのがいたんだよ。で、そいつの一人と偶然あったんで倒したんだ。そしたらそいつが俺のことをデュエリストとやらだと勘違いしてな『お前が勝者だ……! この俺の持つデュエルトーナメント参戦権を持っていけ!』とか言われて妙なバッジを受け取った」


『ほう、興味があるのじゃ。それ、観客は参加できるのかのう?』


「動画配信してるくらいだから参加自由なんじゃないか?」


 ユーチューブでチャンネルがあって、バトルが配信されているのだ。

 秘密も何もあったものじゃない。


 そして、こんなバトルが夜中に行なわれてたら警察が来そうなものだが、それも無いらしい。

 混沌の裁定者の息がかかっているせいかも知れない。


『それで強さはどうじゃった?』


「七勇者の足元にも及ばない強さだった」


『そりゃあ、成りかけかも知れんのじゃ。五花達は、選ばれた七人だけでカオスディーラーの力を受けた。故に濃厚な呪力で変異を起こし、強大な力を手にしたのじゃ。その代わり、狂気に陥ったがの。このケースを見て、カオスディーラーは地球で別のやり方を進めておるのじゃろう』


「ほうほう、別のやり方とは」


『五花繋がりで地球に来て、なるべく多くの若者に自分の力を分け与えたのじゃ。そして戦い合わせることで、その力を鍛えていく。人間性を維持したままで力だけを化け物にしようというのじゃろう』


「いいことじゃないか」


『よくないわい!? これはつまり、自分の意志で人間を超越した力を振るう連中があちこちに現れるということじゃぞ? 地球はレベルやステータスがない。つまり、誰もがレベル1の世界じゃ。じゃからこそ、治安維持機構がしっかりと仕事をしておるのじゃろう。そこにいきなり、レベル30とか40の奴らが現れたらどうする』


「治安維持できないねえ」


『そういうことじゃ。そして訪れるのは混乱、混沌』


「なるほど! それが混沌の裁定者の狙いってわけか」


『その通り。じゃからお前は、このトーナメントとやらに参加して全員ぶちのめして来るのじゃ』


「シーマにとって、これは異世界のことだから関係ないんじゃないのか?」


『良いかオクノ。混沌の裁定者は出鱈目なやつじゃが、人を操って世界を混沌に落とすという目的だけはぶれておらぬ。わしが見るに、あやつはこの世界で尖兵を作り出し、キョーダリアスに派遣するつもりじゃろう……! オクノ、お前が七勇者を倒したからじゃ』


「なるほど……。つまり、ここで奴らをぶっ倒せば混沌の裁定者の手駒が増えないってわけか。よし、分かった」


『日向と明良川にも電話をしておくからの。今日の神殿で待ち合わせをしようぞ』


 そして電話が切れた。

 シーマがいると話が早いな。

 混沌の裁定者の手の内を知っている、頭脳担当だからな。


 トーナメント開催日は明日の夕方から。

 親に外出許可を取らないとな。

 一応、俺達は警察の保護観察対象的なやつだし。


 現実世界は面倒だなあ。


「いいぞ。トーナメント参加するんだろ? 生きて帰ってくれば父さん何も言わないぞ」


「あっさり許可出したな」


「地球が危ないんだろ? それ、俺と母さんが止めても絶対行くやつじゃないか。ならむしろ、俺達も応援に行くぞ」


「母さんね、プロレスの試合初めてだわ」


「プロレスじゃねえよ!?」


 いかん、保護者同伴になってしまった。


「オクノ、どうしたの?」


 きょとんとして尋ねてくるルリア。

 そうか、彼女がいた。


「ルリアに任務を与える。俺の両親を守るのだ。槍は解禁ね」


「おおー! 任せてよ! お父様とお母様はあたしが守るよー! あたし達の子供を見てもらわないといけないもんね!!」


 ルリアが盛り上がっているのをみて、母がちょっと心配そうな顔をした。


「ルリアちゃんが守ってくれるの? こんなに小柄なのに大丈夫かしら。そりゃあ、将来のお嫁さんだし、孫は見たいけど」


「母さん、大丈夫だ」


 なんで親父が断言するんだ。


「ラノベやマンガやアニメでよくあるだろう。体格関係なく強いんだよ、こういうキャラは」


 キャラ言うな。

 あと、言葉が通じないくせになんでルリアの話してる内容のニュアンスをほぼ正確に掴んでるんだ。


 結局、両親はルリアを護衛につけることで解決した。

 親同伴か……。


 そして今夜も、ルリアと俺が横並びの布団……あっ!! なんで布団が一つに枕が二つになってるんだ!!


「ふっふっふ、おやすみなさい」


「あ、あんたなー!?」


 俺のツッコミに対し、母は肩をすくめた。


「うち、団地だからね? 部屋数余裕がないから、奥野の部屋に泊めるしかないのよ。がんばってね。あと、あなた大きいわんちゃん連れてきたでしょ。ベランダに寝かせてるから」


 何をがんばるというんだ……。

 だが、フタマタを家に迎え入れたと言ったな?

 それが勝負の分かれ目なのだ。


「来い、フタマタ!」


「わんわん!」


 フタマタが、カラカラと引き戸を開けて入ってきた。

 そして、俺とルリアの間を遮るように寝そべる。


「わーん!! フタマタどいてー! オクノくんに触れないじゃなーい!」


 かくして、フタマタを入れて川の字になった俺。

 本日はなんとかルリアの猛攻を防いだのである。

 持つべき者はフタマタだ。





 翌日の夕方。

 俺、ルリア、両親、日向、日向父、西府……の体を乗っ取ったシーマの七人+フタマタ一匹で、トーナメントに向かうのだ。

 明良川はサボった。

 自宅で動画で見てるそうだ。あいつめー。


 途中、クラスメイトの親の集団と出くわした。


「うちの子が戻ってこないのに、なんであんたたちだけ!」


「返して! うちの子を返して!」


 とかうるさいので、雷幻術で全員静かにさせたのである。

 俺らに言っても仕方ない事をうだうだ言うなよー。


「なんと、君、それはなんだね? 修験道の技かなにかかね」


 目をキラキラさせて食いついてきたのは、何故か同行することになった日向の父親。

 空手道場を開いている人で、角刈り、髭面の巨漢だ。


「限りなく近いです。ですけど、俺の本領は腕っぷしですね」


「素晴らしい。君の動きを見ていても、君が肉体の性能を磨き上げていることがよく分かる。娘もとんでもない使い手になって戻ってきた。俺は……嬉しい……」


 ダバっと涙を流した。


「ごめんね……お父さん、すぐ感激して泣くの……」


 あんまり日向にお洒落とかさせてくれないとか聞いてたから、もっと厳しい父親なのかと思ったが。


「マキが嫁に行ってしまったら俺は悲しいだろう……。婿をもらって道場を継いで欲しいが、しかしマキに男ができることを俺は許せそうにない……。俺に勝たねばマキはやらん……!」


 俺は、フロントの顔を思い出した。

 あいつ条件満たしてるじゃねえか。日向父に絶対勝てるしな。


「日向さん。マキちゃんはどうやら、異世界で彼氏ができたそうじゃないですか」


 やめろ親父!

 無駄に火種を撒くな!


「なん……だと……!?」


「うちの奥野の嫁のね、ルリアちゃんが教えてくれたんですよ」


 だから言葉が通じないのになんで正確に情報を掴んでるんだよあんた達は!?


「マキ! ほ、本当なのか。お前、彼氏って、おま……オアー」


 言葉を失う日向父。

 まずいぞ、会場につくまえにノックアウト寸前だ。


「い、いや、私とフロントくんはまだそんなんじゃ……」


「キスしたくらいだもんねー」


 ルリアがキョーダリアス語で混ぜっ返した。

 だが、幸い日向父は、言葉が通じない相手の話す内容を正確に理解する能力は持っていないようだった。

 持っていたら即死だったな。


「も、もうー! ルリアちゃん!」


 恥ずかしがった日向が真っ赤になり、ルリアをポカポカやってるので大体察してしまったようだが。


「お、俺も異世界に行って娘の彼氏をぶちのめす……!!」


 無理だと思うなあ。


「何というか……お前ら、こっちの世界でもこんなんじゃったんじゃなあ……」


 シーマが呆れ返ったところで、デュエル会場に到着だ。

 そこは工事現場である。


 ビルを解体工事している場所らしいのだが、記憶にある限り、半年前から工事はストップしている。


 大きなビルは、無数の鉄骨がむき出しになり、あちこちをブルーシートで覆われていた。

 スポットライトが幾つも設置されており、現場の中央にある、ちょうど吹き抜けになった広場を照らしていた。


「おっと、部外者は立ち入り禁止だぜ」


 俺達を止めに来たデュエリストと見える奴がいる。

 シーマがトコトコ近づいた。


「ん? なんだいお嬢ちゃん」


「イビル・コントロール」


「ウグワー!! ドウゾ、オハイリ、クダサイ」


 おっ、ノータイムで精神支配したな。

 そういや、弱体化したとは言え、シーマもそれなりに強いのだった。


「アオイちゃん、もしかして修験道の技かなにかかい!?」


 修験道にこだわる日向父。

 シーマは半笑いでそれをやり過ごした。




 中央の広場がデュエル会場である。

 大型の液晶モニターが壁面に幾つも取り付けられ、そこにトーナメントが表示されている。


 横に折りたたみの机があって、ノートパソコンとにらめっこしているお姉さんがいた。

 受付さんらしい。


「参加者でーす」


 バッチを見せると、PCの中の資料と見比べている。


「あら、ブラックナイトさんに勝ったの? 新人さん? やるわねえ。あ、真の名はなに?」


 真の名ってなんだ!

 俺は一瞬考えた。


 すると、上の階の観客席に行った親父が「奥野! これを使え!!」とか叫んでいる。

 何を使えと……。

 あっ、何かが降ってくる。


 そいつは……マスクだった。

 鷹を思わせるデザインの、真紅のマスク。

 これは確か、親父の大学時代の!


「俺の意志を継いでくれ、奥野!!」


「よし……分かった!!」


 俺はこいつを被った。

 そして受付に告げる。


「俺の名は……マスク・ド・オクタマだ!」


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