第129話 俺、震撼した地球を歩く

 フタマタとルリアを連れて、繁華街を練り歩く。

 どこもかしこも大パニックだった。

 地震警報なんか無いし、実際にどこかが揺れたわけでもない。


 建物は壊れていないし、店の陳列物だって崩れていない。

 だが、地球上にいる生き物全部が、立っていられないほどの強烈な揺れに襲われたと実感しているようだ。


 道にはへたり込んでいる人ばかりだった。


 誰も、フタマタのことなんか気にしちゃいない。


「こりゃちょうどいいな。よし、ルリア、フタマタ、この辺を案内するぞ」


「やったー!」


「わんわん!」


「本当なら、電車で三十分もいけばもっとでかい街になるんだけどな。今回はこじんまりした感じで許してくれ。駅前以外は何もなくなるしな!」


 とりあえずあちこち見て回ったが、みんなぶっ倒れてるので買い物もできない。

 自販機で三人ぶんのジュースを買い、ベンチにルリアと並んで座る。

 フタマタは器用にジュース缶のプルタブを開けると、前足で支えてごくごく飲み始めた。


 なるほど、俺の分身みたいなもんだから、現代のアルミ缶の扱い方も分かってるってわけだ。

 それに対して、ルリアが大苦戦している。


「ねえオクノくん。これどこにも隙間がないよ?」


「このプルタブってのを引くんだ」


「どこー?」


「これこれ。あー、ちょっとこっち寄って」


 ルリアを抱き寄せて、プルタブを引いてやった。

 すると、ルリアがにやにやする。


「うっふっふ、なんかあたし達、夫婦みたいだねえー」


「えっ、ジュースの缶を開けてあげただけで!?」


 なんと緩めの夫婦認定であろうか。

 このままではなし崩し的に子供ができて、ルリアと夫婦としてこちらで暮らすことになりかねない。

 それはそれでいいかなーとか思ったけど、あっちには仲間がいるではないか。


「いかんいかん……!! 夫婦になるのはまだ早い……! いいかルリア。色々考えるのは邪神メイオーを倒してから。あと、混沌の裁定者をその前にやっつけないとな」


「あ、そうだった! あたし達だけこっちで幸せになったらみんなに悪いもんねえ」


 素直に納得してくれるルリア。

 ちなみに、昨夜彼女と致した時に、お子さん誕生を妨げる気の利いたアイテムは使ってないので、内心かなりやばいなーと思っているのだ。

 一切を外に余さずルリアに差し上げてしまったぞ……!!


 やはり、経験がなくてがっつくのはよろしくない。

 今度、人生の先輩としてオルカに相談してみよう……。


 一応婚約者がいるイクサだが、あいつは相談にもならない気がする。


 昼過ぎくらいになり、ようやくみんなまともに動けるようになってきたようだった。

 なんか色々街は騒がしく、スマホを見ている連中が多い。


「政府の緊急発表だってよ」


「世界的に揺れが……? 集団催眠……?」


 地球を概念的にボディスラムすると、世界を巻き込んだ騒ぎになるということは分かった。

 これがパワーボムでなくて良かったな。


 そんなわけで、近くのハンバーガー屋などに入り、外で食べるハンバーガーを買う。

 こいつをまた、二人と一匹でもりもり食うのだ。


「味が濃くて美味しいねえ」


 ルリアがニコニコする。

 そうだなあ。キョーダリアスの料理は美味いけど、基本は塩コショウと、たまーにオリジナルのソースとか蜂蜜とかだもんな。

 現代の調味料は偉大なのだ。


「うわっ、この犬二つ首がある!」


「しかもでけえ!!」


「ツブヤキッターにアップしようぜ! バズるって!」


「ユーチューブで動画流さね?」


 おっ?

 なんか中高生くらいの男達がフタマタを勝手に写真に撮っているではないか。


「わふん?」


「あー、肖像権は守らねばな」


 俺はのしのし前に出て、フタマタの前に立った。


「うちの子の写真とか動画を勝手に撮ってはいかん」


「は? なんだお前」


「フタマタの主だ」


「いいからどけよお前。この人数相手に何をイキってんの?」


「生意気に女連れじゃねえか! おいおい、女の前だからかっこつけてんの?」


 あれ?

 こいつら、彼我の戦力差がお分かりではない……?

 これはもしや……平和ボケ……?


「口プロレスもいいが、やるなら掛かってくるといいぞ。平和ボケした若者のお尻をぺんぺんしてやろう。お前らのパパやママは口移しでご飯をくれるような並外れた甘やかしっぷりのようだからな。偉いでちゅねー生意気な口が利けて」


「ちょ、お、おまっ」


「殺す!」


 それを口にしてしまっては戦争である。

 俺はファイティングポーズを取った。

 何、ノーマルモードの体でも、六欲天ウーボイド戦の辺りくらいの強さがあるのだ。


 俺の襟を掴んで引き寄せようとした奴は、俺がびくともしないので驚いたようだった。


「お、重っ! 動かねえ!」


「お前が軽くて非力なのだ! そいっ! サブミッション・コブラツイスト!」


「うぐわーっ!!」


 一発決めたら、そいつは変な姿勢で動けなくなって地面に転がった。


「て、てめええええ」


「動画撮っとけ! こいつ、晒してやろうぜ!」


「プルタブを斧に見立てて……トマホーク!」


「うわーっ!? 俺のスマホがまっぷたつに!!」


 おお、いけるいける。

 現代の道具も、武器に見立てると技が使えるようだ。

 本格的な上位の技は、でかいボディに戻らないと無理みたいだが。


 まあ、ここはこいつらを軽く撫でて終わりとしてやろう。


 俺がそんな事を考えていた時だ。


「わふん? わんわん!!」


 フタマタから警戒の声が飛んだ。


「なにっ、敵意を感じる!?」


「わふん!」


 フタマタが指し示した先には、一人の俺と同じくらいの年頃の男がいる。

 そいつはスマホをポケットにしまい込みながら、ニヤニヤ笑った。


「お前もか……。お前もカオスパワーを使えるデュエリストってわけか」


「お前は何を言っているんだ」


 俺は呆れた。

 だが、同時に目の前の奴から、五花に近いにおいを感じる。

 カス野郎のにおいである。


 これってつまり、こいつが混沌の裁定者の手駒だってことでいいのかな?


「俺はカオスディーラーに選ばれたデュエリストの一人! そうか、約束のデュエルは今だったのか! そして、あの世界を揺らすなんか地震みたいなの……ワールドシェイカーが全てのきっかけ……!!」


「厨ニだ……!」


「うるせえ! デュエル開始だ! うおおお、カオスチェンジ!」


 そいつの姿が変わる。

 これは……七勇者と同じパターンだな。


 つまり、間違いなく混沌の裁定者の手は、この世界にも及んでいるということだ。

 変身を遂げたその男の姿は、見上げるような大きさの漆黒の甲冑だった。


 周りに野次馬が集まってきて、パシャパシャ撮り始める。

 すげー。

 みんな危機感がねえー。


「しゃあない。ルリア、目を閉じててー」


「はーい! オクノくんやっちゃえ!」


「ほいほい。ふんっ!」


 俺は一瞬で元の大きさに戻る。

 そして、空に向けて雷幻術を放った。

 閃光と轟音、そして電磁波。


 粉砕されるスマホ群!


 目と耳とスマホを塞がれ、パニックの民衆の間で、俺とデュエリストとか言うやつの勝負が始まった!


『くけーっ!! 死ねーっ!!』


 デュエリストが剣状になった腕をめちゃくちゃに叩きつけてくる。

 これをブロッキングで受けるのだ。


 俺のブロッキングは身につけているものにも効くので、服は破れないぞ。


 俺が攻撃を受け続けながら、悠然と立っているので、デュエリストは驚いたようだ。


『な、何故だ! 俺の攻撃が効かない!? バカな! 俺は特別な力を授かったはず! それがお前みたいなでかくなるだけの奴に……! くけーっ!!』


 叫びとともに、大ぶりの攻撃をしてくるデュエリスト。

 素人丸出しである。


「でかくなるだけ、ではない。でかくなるために、どれだけ鍛錬を積んだと思ってるんだ! だからお前は! 俺の! 腕一本に勝てないのだ! ラリアット!!」


 カウンターで、俺の二の腕を叩き込む。

 デュエリストの剣がへし折れ、俺の腕を叩き込まれた敵は、喉を支点にしながらその巨体を半回転させた。


 轟音を立てて、漆黒の甲冑が道路に叩きつけられる。


『ぐ……ぐえー』


「七勇者よりも弱いなあ……。なんというか、自分の力にできてない感じがする」


 のびたデュエリストの前で、俺が首を傾げていると、ルリアがトコトコ走ってきた。


「オクノくん、なんかね、この人が変身する時にこのベルトを触ってたよ」


「あ、これ? どれどれ」


 ベルトを掴んで、ぶちぶちっと力任せに剥がしてみる。

 すると、デュエリストは鼻血を出して失神している高校生くらいの男に戻った。


 俺はベルトを地面に置くと、


「エルボードロップ!」


 砕いた。


『ギャアアアアッ』


 ベルトから溢れ出す、なんか禍々しい気配と悲鳴。


「これもシーマに知らせておかないとな。あ、いかん。俺、スマホ持ってねえや」


 持っていても、雷幻術一発でおしゃかだけどな。

 さて、ただキョーダリアスに帰るというわけにはいかないようだぞ、これは。


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