第121話 俺、イクサvsミッタクを横目に毛皮を着てみる

 始まった、イクサvsミッタク。

 我が団最強の一角であるイクサに、ミッタクがどこまで通用するのか……!


「オクノくーん、これ、オクノくんの毛皮! リザードマンの人も大きい毛皮がいるよねえ」


「おっ、サンキュールリア。どれどれ……。うわー、もふもふだなあ。フタマタのさわさわしつつその下に温かいボディがある感じとはまた違ってるな」


「わんわん」


「はっはっは、嫉妬するな嫉妬するなフタマタ。お前のほうが可愛いに決まってるじゃないか」


「くぅーん」


 おっと、毛皮に気を取られていた。

 イクサvsミッタクは、なかなかの好勝負となっている。


 練習用の木製斧を振り回し、イクサに攻撃の機会を与えないミッタク。

 イクサはと言うと、大振りだが一撃一撃の威力に優れた斧を、見切っては躱している。


 いつものイクサスタイルではない。


「てめえ、ちょこまかと逃げやがって!」


「俺も回避というものを身に着けようと思っていてな。先日の女神戦のように、迎撃技だけでは切り抜けられん場面が出る。ならば回避するしかあるまい」


「訳の分かんねえこと言ってるんじゃねえ! ならば逃げ場をなくしてやるよ! 旋風斬!」


 ミッタクが回転した。

 彼女の周りに、振り回された斧による刃の嵐が生まれる。

 まあ練習用の木製のだけど。


 これは確かに、正面からやられると後ろに下がるしか無い。

 イクサはお手本のように、これを下がってやり過ごそうとした。


「そうくると思ったぜ!! おらあっ! トマホーク!!」


 旋風斬からの遠心力をつけたトマホークがイクサを襲う!

 シームレスな技の繋ぎだな。


 ミッタク、力だけでなく戦いの組み立てにも長じていると見た。

 これはイクサも剣で防がなきゃいかんだろ、と思った俺である。

 だが、イクサは想像の上を行った。


「ふんっ!!」


 跳躍したイクサは、飛来した斧につま先を乗せると、それを踏み台にして更に高く跳び上がる。


「んなアホなっ!?」


 ミッタクが驚愕した。

 ここで始めて、イクサが木剣を抜く。


「飛翔斬!」


「いてえっ!」


 飛ぶ斬撃がミッタクを打った。

 だが、まあこの女はタフなのだ。

 あまり効いた様子はない。


「何だ今のへなちょこは!」


 トマホークでぶん投げた斧が、くるくると戻ってくる。 

 それを片手でキャッチして、ミッタクは落下してくるイクサを迎え撃った。


「空の上じゃあ避けられねえよなあ!」


 叩き込まれる斧。


「空の上でも避けられる! 円月斬!」


 イクサが木剣を激しく回転させた。

 それが、ミッタクの斧と衝突する。この反発力で、イクサは少し後ろへと下がり、着地した。


「まだあ!」


 着地の瞬間を狙うミッタクの攻撃。


「真空斬!」


 だが、着地モーションと同時にイクサが技を放っている。

 不安定な体勢で放たれる真空斬だが、だからこそ軌道が読めない。


「ぬおおっ!」


 それを勘により、斧で受け止めるミッタクがなかなか凄いのだ。


「やるねえ」


 いっぱしの武芸者っぽく、ルリアが講評した。


「どうよ。ルリアは戦えそう?」


「んー、できると思う」


 この元村娘、既に口先だけじゃないからなあ。

 ちなみに背丈ではついにカリナに追いつかれている。


 もうすぐ、団で一番のちびっこになるであろう。

 だが、背丈やそこから来るリーチの短さを補えるのが槍と言う武器だ。


 おっ、イクサとミッタクが正面からぶつかりあった。

 ウェイトではミッタクの方が全然上だろうに、押し負けないイクサはおかしい。


「あ、イクサくんとはやれないと思う。あの人はおかしい。異常。技の切れがありえないんだもん」


「やっぱそう?」


 つまり、ミッタクはたしかに強いがステータスの数字上にある通りの強さ。

 イクサは、数字上よりも明らかに本人が強い。しかも天井知らずの強さということだな。

 ルリアの運を持ってしても対抗できない。


 だからイクサの攻撃は全部受け止めてから反撃するのが最適解なんだぞ。


 拮抗していたはずの、木剣と木の斧。

 だが、一瞬ガクッとミッタクが崩れた。


 俺は見逃さなかったぞ。

 斧を押し込みながら、同時に密着距離から十六夜を仕掛けてミッタクに衝撃を与え、その隙に一瞬だけ木剣を離して超高速の真空斬を叩き込み、そこからまた斧に木剣を押し当てて押したのだ。


 ミッタクを崩すためだけに遣われる超絶技巧の数々よ。

 うーむ。

 更に強さに磨きが掛かったな。


 ミッタクの顔に、全く余裕がない。


「このっ、てめっ、今、何した……! 力が入らねえ……!!」


 見えてなかったか。

 ちゃんと見えないと、技を受け止めきれないぞ。


「なら、こうするまでだあっ!!」


 ミッタクは叫ぶと、斧をでたらめな力で押し込んだ。

 それは、武器の強度を全く考えてない動きだな。

 案の定、斧は音を立ててへし折れた。

 攻撃を受け止めていた木剣も一緒だ。


「へへっ、どうだ! これで武器なしだな、剣士よ!」


「俺の普段の武器は折れない」


「んなことはいいんだよ! これでうちとてめえは、体格差だけが残ったってことだ! おら、死ねえ!」


 突っ込むミッタク。

 彼女の拳が、超高速でイクサめがけて突き出される。

 あれがローリングサンダーの初段か。


 これは受け止めるのもなかなか骨だなあ。

 剣を失ったイクサがどう対応するか……。


「カウンター!!」


 イクサが吠えた。

 奴の姿が消えた。

 気がつくと、ミッタクの顔面にイクサの拳が突き刺さっている。


 自分のパワーと勢い、それにイクサのスピードと技のキレを合わせて叩き込まれ、ミッタクの意識がぶっ飛んだ。


 おお、ミッタクのでかい体が吹き飛んでいくな。

 俺はダッシュして、吹っ飛ぶミッタクの腕を掴んだ。

 そして引き寄せて、キャッチ!


「勝者イクサ! やるねー」


「何、体術も磨きは掛け続けている」


「頭おかしい、剣士が使う体術のキレじゃない」


 ルリアの評に、俺は頷くのだった。

 ちなみにあのカウンター、俺との相性は最悪だからな。

 俺には通じないので、すっかり失念していたのだ。


 ミッタクが俺の腕の中で白目をむき、どばどば鼻血を出している。

 女の子がしていい顔では無くて、思わずほっこりした。


「ミッタクはうちの女子では珍しいストロングスタイルだなあ。なかなか好印象だ」


「オクノ! ニコニコしてないの! あー、もう。ライトヒール!」


「傷にならなければいいわねえ。毒消しの水!」


 先輩女性陣が、ミッタク後輩に回復魔法をかけるぞ。

 ラムハにダメージを癒やされ、アミラに揺らされた脳を回復してもらったミッタクは、すぐに目覚めた。


「ううっ、うちは一体……」


「イクサに負けたのだ」


「な、なにぃ……」


 ちなみに真っ向からミッタクを倒したイクサは、村の男女から畏敬の目を向けられている。

 こいつが異常に強いということが周知されたな。


 仲間になった瞬間から、ずっと格落ちしない男イクサ。

 俺も追い越されないように頑張らなくちゃな!


「ううっ……。オクノに負け、あいつに負け、うちは実は弱かったんじゃ……? うううー」


 あっ、ミッタクが泣き出した。


「大丈夫よミッタク。世の中には化け物がいるし、どうしようもない化け物と戦って負けても仕方ないわ」


「そうよ。オクノくんとイクサくんはおかしいからね。女神様にだって立ち向かえるおかしい人達なんだから」


「なんかとんでもない話をサラッとされてるけど、納得しかねえ」


 ミッタクが涙声で言った。

 しかしラムハもアミラもひどい言いようである。


「どうだ、オクノ。やるか?」


「イクサからお誘いか。たまにはいいな。よーし、久々に周りの地形を変えちゃうかあ」


 イクサvsミッタクを見ていて、ちょっと燃えてきていた俺である。

 そんな俺達のやり取りを聞いて、仲間達と村の人々が慌てて逃げ出した。

 賢い。


 ということで。

 夕方になるまで、俺とイクサの模擬戦は続いたのである。

 村の一角にクレーターみたいなのができた。


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