第122話 俺、凍れる城へ向かって出発する

 翌朝のこと。

 この地方だと、寒さのために育つ穀物が限られているらしく、そのために主食は寒さに強い芋になるようだ。

 なので、芋と肉の朝食になる。


 量が違うだけで、夕食とラインナップがほぼ同じなような……?


「食うものの種類がそんなに多いわけないだろ。略奪に成功したときは豪勢になるけど、普段はこんなもんだよ」


 ミッタクはそう言うと、豪快に肉を頬張った。

 ちなみに肉は、生のやつと焼いた奴がある。

 生のは薄く切ってそのまま塩を振って食うんだが、これでビタミンとかを補給してるらしい。


 うちの女子陣は顔をしかめていたが、食べなければ体に悪いので食べさせた。


「北国は色々大変だなあ」


「まあな。だけど、うちもこれでバイキングの里とはおさらばだけどね」


「俺達の案内をするからか?」


「それだけじゃない。うちの力不足が分かったからだよ。この村にいて強さを誇ってても、世界にはまだまだうちより強いやつがいるんだ。そうなら、旅をしてうちももっともっと強くならなくちゃいけないだろ」


 なんというマッスル思考だ。

 うちのパーティの誰よりも男前だな。


 ちなみにこれを聞いて、ミッタクパパが悲しそうな顔をした。


「戦士をしている女は、自分より強い男としか結婚できんのだ。ミッタク、強くなりすぎるのはやめておくれえ。わしは孫が抱っこしたいー」


「なんて悲しそうな声を出すんだ」


 俺は同情した。


 ところで食卓の話に戻ると、今は生肉を食うわけだが、暖かくなると生肉が傷みやすくなる。

 かと言って生魚は寄生虫が怖い。

 そのために、彼らは独自に発酵食品を作ってビタミンを補給するそうだ。


 海鳥を獣の腹の中に詰め込んで、土の中に埋めて発酵させて内蔵を食う。

 キビヤックだな。

 生活の知恵は、異世界に来ても変わらないのだ。


「キビヤック、ちょっと食べてみたかったな」


「なあ夏に来なよ。いやってほど食わせてやるよ。その季節なら、人間の里から仕入れたパンもあるから、こいつに塗って食うと美味いんだ」


 略奪だけじゃなく貿易もしてるのか。


 芋と肉の飯を終えると、朝から腹が重い。

 さすがのバイキングたちも、昼飯は軽く済ませる程度にするようだ。


 ってことで、お弁当を作ってもらって俺達は出発することになる。


 先頭は道案内のミッタク。

 そして横に俺。


 ミッタク曰く、


「リーダーで一番強いあんたが先頭にいなくてどうすんだ。負けたうちの立場からすると、あんたが仲間を矢面に立たせるような奴なら、立つ瀬がないんだよ」


 だと。

 なるほど、もっともだ。

 ということで俺は先頭にいる。


 すぐ後ろにイクサがいるのは、彼の敵意センサーを期待してのことだ。


 つまり、我が団最強の連中がトップに固まっている。

 何が出てきても大体オーバーキルできるぞ。


「来るぞ」


 イクサがいきなり警告した。

 何だ何だ。


「うおー」


「待てー!」


 おや、バイキングの戦士達だ。

 彼らはミッタクに向けて、斧を構えた。


「ミッタク、俺と勝負しろ!」


「俺が勝ったら俺の女になれ!」


「そして俺は族長だ!」


 ほうほう。

 どうやら昨日ミッタクが敗れたのを見て、自分達もワンチャンいけるのでは、と夢見た奴ららしい。

 しかしバイキング、里で村なのに、長は族長なのか。

 どうなっとるんだ。


「バイキングは舐められたらおしまいなんだよ。こういうこと。ちょっと片付けてくる」


 ミッタクが斧を地面に置き、拳と手のひらを打ち合わせながら前に出た。


「おう、行ってらっしゃい」


 すぐ終わるだろ。

 実際すぐ終わった。


 咆哮とともに飛びかかる戦士を、片っ端から殴り飛ばし、叩き伏せ、投げ飛ばし、蹴り倒し、ミッタクは鬼神の如き戦いっぷりを見せた。

 いやあ、強い強い。

 こいつなら巨人だって殴り倒しそうだ。


 最初に俺とイクサと当たったのが不幸だったなあ。


 後に残ったのは、バイキング男子達が大の字になって死屍累々としている様である。

 無論、みんな意識が飛んでるだけでピンピンしている。


「な? こんなのの中にいたら、うちが腐っちまう。当たり前のように勝てるんだから」


「普通は当たり前のようには勝てないのでは?」


 ミッタクパパの心がよく分かった。

 一人娘のことが心配なんだよなあ。


 俺に、ミッタクを猛プッシュしてきた気持ちも察せられる。

 何せこのバイキング娘、超絶脳筋思考だからな。


 年頃は二十歳らしい。

 この年まで一切の男っ気がなかったんだと。


「ミッタクの同年代の娘達は、もうみんな母親になったりしてるのに……ううううっ」


 とか打ち明けられたら堪らん。

 ミッタクパパめ。

 まだ高校生の俺にすがらねばならんくらい困り果てていたのだなあ……。


「おいオクノ、何を遠い目してるんだ。行くぞ!」


 ミッタクが鼻息も荒く、のしのしと歩き出した。


「イクサ、他に敵意は無いか?」


「ああ、問題ない。裂空斬! ……今消えた」


 お、何かを行きがけの駄賃で倒したな。


 こうして、雪道を行く俺達なのである。


 途中昼休憩があった。

 ここで、俺の周りに集まってくる女子達なのだ。

 あ、ルリアがいない。


 向こうで、赤いモーフルの毛皮を被って変身を遂げたダミアンGに抱きついているな。


『ヤメルノデスゾー!』


「ダミアンかーわいいー!」


『頭ノぷろぺらハ新装備ナノデ触ラナイデホシイデスゾー!』


 口調変わってない?

 毛皮も装備が変更された扱いなの?


「オクノ、聞いてる? ミッタクのことなんだけど、あの娘、あのままだと……ねえ」


「そうそう。お姉さんとしても、年頃の女の子がオクノくんみたいな思考してるのは良くないと思うのよねえ」


「アミラはなんて人聞きの悪いことを言うんだ」


「だってあの人、わたしより考え方がお子ちゃまですよ? これはよろしくないです」


 カリナにまで心配されるミッタク!

 バイキング最強のまま君臨してしまい、思考がガキ大将の状態で固定されてしまった系女子だな。

 考えてみれば不憫かも知れん。


「ここは、私達でミッタクに積極的に触れてみて、女子力を上げてみるわね」


 ラムハの言葉が実に頼もしい。

 で、女子力を上げた先に何が待ってるんだ。

 最後に引き受けるのは俺なのでは?


 オルカとジェーダイが凄くいい笑顔でやって来て、俺の肩を叩く。


「がんばれ」


「がんばるのだ」


「無責任に励ますのはやめろ!?」


 うちのおじさんチーム、誰よりも悪ガキっぽいな!


 しかしミッタク、女子チームの年長組でありながら、完全に他の女子達から被保護者として見られることになってしまったな。

 なんという特殊な立場なんだ。


 しかも本人は、俺とイクサを到達すべき武人の目標みたいにしている。

 本人が向いている方向と周囲の心配が衝突しあっている。


 そしてその渦中に俺がいるので、今回はあれだ。

 他人事だと思って笑ってられないのだった。


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