第115話 俺、新生ホリデー号に乗る
新生ホリデー号!
「な、なんじゃこりゃあー!!」
こいつを前にした時、俺は思わず叫んでしまった。
全身を、天空の大盆から回収されたパーツで覆われた船は、なんとも面白い姿に変わっていたからだ。
明らかにドリルにしか見えない衝角。
水の下に見える、明らかに巨大なクワガタのハサミにしか見えない砕氷衝角。
船の両脇には機械みたいに見える部品がずらりと並んで埋め込まれている。
帆柱の一本にはマストが張られていないが、その代わりに機械がついている。
なんだろうこれは……。
「どうですか、新生ホリデー号は」
「ダミアンさんが私の意見を取り入れてデザインしたんです」
イーサワとグルムルが得意げだ。
やはりダミアン絡みか。
「質問いいかな」
「どうぞ」
設計段階で、ダミアンの助手をしていたらしいグルムルが答えてくれた。
「あの船の横に埋め込まれてるパーツはなに」
「あれですか。おーい、頼みます!」
グルムルが声を張り上げると、船の中で作業をしていたリザードマンが顔を出した。
「了解」
すると、パーツの一つがピカッと光る。
フラッシュライトみたいな役割か、と俺が思った時だ。
光がぬぬぬぬぬっと盛り上がり、光の盾になった。
「古代遺跡の技術をそのまま使いました。リザードマンが一人、あれに取り付いて呪力を注ぎ込むことで、少しの間光の盾を発生させることができるのです」
「すごい。明らかに地球よりもテクノロジーが進んだ」
「それから帆に関してですが。あれも同じです。おーい、頼みます!」
「了解」
何もついてない用に見えた帆柱に、光の帆がはためいた。
「あくまで実験的なものですが、光の帆の大きさは呪力が続く限り、際限なく拡大できます。通常は帆柱として使用し、緊急時には光の帆として高速移動、あるいは飛行に利用するのがいいかと」
「飛べるの!?」
「計算上は飛べます、とダミアンさんから聞きました」
このリザードマン、今とんでもないことを言ったな。
ダミアンの計算だぞ。
「ですが呪力がかかるので、飛行の際には呪法使いの方に協力する必要があります。私でもいいのですが、まだ少し力不足でして」
なるほど。
俺はじーっとアミラを見た。
「お姉さんがやってみればいいのね? 任せて、オクノくん」
アミラが笑顔で安請け合いした。
さあ、船に乗って試してみよう。
「ここに触れるの? どれどれ……。あ、なんだか呪力が吸われる感じがする」
アミラが帆柱に触れると、その頭上が光り輝いた。
青く輝く透き通った帆が出現する。
それはどんどん大きくなり……。
風を受けて、ホリデー号はちょっとだけ浮かび上がった。
「うおわっ、船が飛んだ!」
「やはり。団長、我が団の呪法使いの方々は、既に二つの大陸でも有数の実力を持っています。彼らの力を借りられれば、旅は大幅な行程の短縮ができます」
「凄いな。というかグルムルにこんな才能があったとは」
「はい。もともと航海士でもありましたので、船の構造は一通り頭に叩き込んであります」
その航海士がどうして船を空に飛ばすという発想になるのか。
聞けば、嵐の日に帆をたたみ忘れた船が、吹き飛ばされて空を舞うということがよくあるのだそうだ。
これを応用したのだとか。
「着水や飛行時間などは全く分かっていませんから、これから調べねばなりません」
「ああ、ぶっつけ本番になるってことね。分かった。それは慣れてるからオーケー」
俺は許可を出した。
いざとなればなんとなかるだろう。
なんとかするし。
ホリデー号が便利になったことは分かった。
どうやらこの世界の古代は、かなり文明が発達していたようだな。
エスプレイダーは改造人間だし、ダミアンGは意思のあるロボットだ。
古代遺跡群も呪力で動いてはいるが、構造は機械に近い。
そんな文明を滅ぼしてしまう混沌の裁定者は恐ろしいやつだな。
いや待てよ。古代文明、俺がいた現代みたいに色々めんどくさい社会になったりしてたとしたら、むしろ滅ぼすのは楽じゃないか?
ハームラが使ってたルナティックみたいなので、一発で戦争が起こるだろ。
それに対して、中世ヨーロッパから産業革命時代くらいの感じになっている今のキョーダリアスは、単純だし各国が分断されている。
混沌の裁定者が混乱をばらまいて世界を滅ぼすには、なかなか都合が悪い形になっているんだな。
そうなれば、こうやって世界を巡って遺跡を叩き潰し、混沌の裁定者が陰謀を巡らしているっぽいところを叩くのは効率的なのかも。
あと五花な。あいつ、何を考えてるんだか。
というか、あいつが混沌の裁定者の使徒になってるんじゃないのか。
「オクノくん、さっきから何を百面相してるの?」
ほっぺたをアミラにぐにぐにされた。
「団長は考えることが多いのだ」
「眉間にシワ寄せてたらおじいちゃんみたいになっちゃうよ? オクノくんまだ若いのに。一人で考えてないで、ここはみんなで相談しちゃえばいいでしょう? 私達、たくさんいるんだから」
「それもそうか!」
ハッとする俺だ。
「ありがとうアミラ! なんか、さすが年上のお姉さんだなあって思ってしまった」
「うふふ、たまには私もお姉さんらしいところを見せないといけないものね。いつでも頼って! 人生経験ならそこそこあるから!」
アミラがどんと胸を張った。
うむ、こういう相談事ができるというのは頼もしいかも知れない。
かくして、俺達は新帝国を発つことになった。
帝国の人々が見送りに出てくる。
皇帝自ら、俺達を港町まで送ってくれるのだ。
「混沌の裁定者との戦いには、必ず余が駆けつけよう。呼びつけるがいい」
「頼りにしてるぜ皇帝」
俺と皇帝は、固く握手を交わした。
実際、ファイナル皇帝はかなり強い。
戦力としてあてにできるなら、しておきたいものだ。
『北ニ行クノデスカ。金属ガきんきんニ冷エルンデスヨネエ。オオ寒イ』
ダミアンGがガタガタと震えてみせた。
「ダミアンGはキグルミでも着せたほうがいいかもな」
『キグルミ!! ドウイウ格好ニナルンデスカ』
「秘密だ」
『私、気ニナリマス!』
多分、イエティみたいな格好になると思う。
日本の昔の幼児番組で、真っ赤なイエティが頭に竹とんぼつけたみたいなのがいたなあ。
「毛皮、毛皮」
「毛皮のコートにマフラーですか……。動きづらくなければいいのですが」
「ルリアやカリナと、私、アミラでは毛皮も作りが違うほうがいいわよね。コートは私達、マフラーがあなた達みたいな」
「そうねえ」
女子達が既に、取らぬ毛皮の皮算用を始めている。
モーフルの毛皮、そこまでのブランドなのか。
港町までやって来て、みんながホリデー号に驚く声を聞き、そして乗り込む。
「古代遺跡の技術を応用しているのであるな。しかし、なんとも凄い趣味であるな」
ジェーダイの時代でも、ホリデー号みたいなとんでもない形の船は無かったようだ。
ちなみに彼は、光の盾をハンディタイプにして持ち歩けるようだった。
ジェーダイ、さらに守りが固くなるな。
「北の蛮族だったか? 奴らを逆に襲うような船だなこりゃ。乗り移る前に沈めちまうんじゃないか?」
別の方向で心配そうなオルカ。
獲物の船に乗り移って戦うのは、海賊の醍醐味なんだそうだ。
「これ、前を泳いでたら刺さりそうだねえ……。とんでもない船になったねえ……」
人魚のロマは呆れている。
新生ホリデー号についての意見はみんな色々だが、行動範囲が広がったことについては好意的だった。
さあ、それでは北へ向かって漕ぎ出すとしよう。
新しい冒険の始まりなのだ。
第三部:覚醒編 → 第四部:送還編
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お読みいただきありがとうございます!
本作のモットーは、ノーストレス、サクサク爽快ゲーム風ファンタジーであります。
こんなちょっと暗くなってる世の中だからこそ、この作品の中だけでも明るくやってまいりますよ!
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