第114話 俺、旅立ちに必要なものを考える
北へ行くんだから、防寒装備が必要だろう。
何せ目標は凍れる城だからな。
それっぽいのを新帝国で買い込み、アイテムボックスに放り込んでいく。
あれっ、うちの船員のリザードマンってもしかして寒さに弱い?
変温動物なんだろうか。
彼らそう言えば、よくひなたぼっこしてるしな。
疑問に思ったのでグルムルに聞いてみた。
「そういうことはありませんよ。我々リザードマンにも、熱い血は流れています」
「恒温動物だったか。ひなたぼっこするのは?」
「我々は日光浴で栄養を摂取しているのです」
「ビタミンDを補給してたのか……」
納得した。
とりあえず、体表に毛が無いので寒さは得意ではないそう。
ということで、船員リザードマン達用の防寒具の調達は急務だ。
「イーサワ、これこれこういうものが欲しいのだが」
「防寒具ですね。僕が集めている情報によりますと、もっと北上した冷涼な地域でそれらが売られ始めるようです。場合によってはモンスターを狩り、毛皮を店に持ち込んで作ってもらう方がいいかも知れません。リザードマンの皆さんは体格が独特でしょう」
「確かに……!」
イーサワとグルムルをブレインに迎え、北上計画が進んでいく。
北方についての詳しい話は、皇帝から聞くなどした。
「かつて、サンクニージュ大陸の各地には混沌の裁定者の力を得た使徒が散らばっていてな。我が祖先はそれらを何代にも渡り、退治して回っていた。その時に、各地の気候については詳しい記録が残っている。その一つを貸し与えよう」
「ありがたい」
混沌の使徒とかも昔いたわけだな。
ファイナル皇帝が身につけている戦闘術は、そういう連中と渡り合うため、帝国の代々の皇帝が生み出してきたものということか。
さて、帝国の記録を借りることができた。
それは、北の地に遠征した時のものだ。
北方には蛮族が住んでいるようだ。
漁や狩りをして暮らしているのだが、実入りが少ないシーズンには海賊や山賊をするとか。
バイキングみたいな連中だ。
そいつらが毛皮加工に向いていて、北の凍れる城についても詳しいのだとか。
ふむふむ。
今からそちらに向かえば、北方はやや温暖な時期。
それでも雪に覆われてはいるとか。
「オクノ、何をしてるの?」
「買い物計画をな……」
ラムハがやって来たので、今やっていることの説明をしようとする。
すると……。
「買い物!?」
「買い物ですって!?」
「買い物ですか!?」
おっ、三人生えてきた。
たちまち四人に張り付かれる俺である。
「おーい」
「オクノ、これは帝国が所有する北方の記録よね? ということは次の行き先は北方なんだから、モーフルの毛皮を手に入れるべきだわ。モーフルっていうのはサンクニージュ大陸北方に住む毛むくじゃらの人形生物で……」
「えっ、イエティみたいなのなの!? それの毛を使うの!?」
「モーフルの毛皮……あたし、着たことないなあ……」
「モーフル……すごく高価でね……。お姉さん、一度だけ見たことがあるんだけど、あのふわっふわ感凄かった……」
「着たいです(直球)」
「なるほど」
俺は納得した。
女子達にとっても、価値のある毛皮なんだな。
これ、別に彼女達だけじゃなくてリザードマン軍団や、場合によってはダミアンとかにも着せるんだがな。
え、高いの?
「……イーサワ、予算大丈夫?」
「余裕です。我が団の手持ちは、今や小国の国家予算以上の金額ですから」
「えっすごい」
「オルカさん達がせっせと稼ぎましたからね。幽霊船をダース単位で」
「ありがたいなあ。お陰でモーフルとか言うイエティの毛皮を山程買える」
「問題は解決したようですね。海賊王国という頭を押さえつける者達がいなくなれば、船長の実力はこれだけのものなのです」
いつも冷静なグルムルがドヤ顔をしている気がする。
「どうです。どうです団長」
「ああ、オルカはさすがだな」
「でしょう」
あっ、グルムルがムフーって鼻息を吹いた!
こいつ、本当にオルカの事が好きなんだな。
さすがはキャプテン・オルカの相方だ。
「それでこれからの進行について私から提案です」
「グルムルから提案とは珍しい」
「ええ。ホリデー号は今、改修の最中です。その際、我々リザードマンからの意見を取り入れてもらっています。それは、衝角の装備です」
「衝角!?」
「団長が以前、ホリデー号に装備した武器の数々がありますが、あれらは幽霊船との戦いにおいて役立ちました。これらをホリデー号に特化した形へと改造し、換装しているのです。そして次の北方への旅にもこれは適しているでしょう。バイキング船など一撃で轟沈させます。ちなみに水中にも衝角を装備しており、こちらは氷を砕くことにも使えます」
グルムルが雄弁だ。
今まで裏で、ホリデー号強化計画を進めていたのか。
イーサワが満足気にうんうん頷いているので、この二人は結託していたようだ。
「ちょっと見せてもらっていい?」
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞ」
というわけで。
俺、グルムル、イーサワ、そして厳正なる押し相撲対決で選ばれた女子を連れてバギーにてホリデー号へ。
バギーの定員は四名。
同行する女子は押し相撲で覇を競い合った。
押し相撲なら、運が介在する要素は少ない。
比較的小柄なルリアや、お子様のカリナでは分が悪いのだ。
「うわーっ! お肉の暴力ーっ!」
アミラのお尻に弾き飛ばされるルリア。
槍を持たなければ運がいいだけの村娘である。
「うわーっ! 胸の暴力ーっ!」
ラムハの胸に押し込んだ力を吸収され、受け流されたカリナ。
弓を持たなければちょっと背伸びしたお子さんである。
かくして……。
アミラvsラムハ。
いい勝負になるかと思われた。
だが、俺はプロレスに関しては一家言あっても、押し相撲にはまるで素人だったのだ。
「重心が基本よ? お姉さん、実は山歩き以降、ずっと鍛えてたの」
「う、動かない!」
ラムハの押し込みを涼しい顔で受け止めるアミラ。
トータルのボディバランスでは、トップヘビーな傾向があるラムハよりも優れていたのだ……!
かくして、体勢を崩されたラムハは成すすべなく尻もちをつく。
「そんな……私が歯が立たないなんて……」
愕然とアミラを見上げるラムハ。
アミラ、艷やかな笑みを浮かべる。
「たまには年上の貫禄をみせつけないと、ね?」
ラムハの方が実質的には年上では?
そんなわけで、俺の隣にはアミラが乗っていて。
「きゃー! スピードがはやーい! お姉さん怖いなあー」
「あーっ、アミラさんぎゅっと押し付けてくるのはいかがなものかーっ」
俺達は一路、港町へとバギーを走らせるのであった。
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