第113話 俺、次の目的地を定める

「ラムハどうしたんだ?」


 朝イチで俺のところを覗きに来たオルカが、床で簀巻きになっているラムハを見たようだ。


「ラムハの回りで三人が寝てるだろ。抜け駆けを許さない淑女協定が炸裂したんだ」


「大変だなあお前さんも……。ラムハ一強が崩れたわけか。どうやりゃ決着がつくんだ?」


「分からん……」


 ということで、女子達を放っておいて俺は食事に移動するのだ。


 ここは城にある食堂。

 今朝の飯は固いパンと、牛乳を使ったスープ。

 パンをふやかしながら食う。

 美味い。


「昨日の今日で何だけどよ。これからどうする? 今のところ、団には潤沢な金がある。しばらくは働かなくても食っていけるぜ。俺らは船員三十一人と、俺ら十七人しかいねえ。なんなら一年間遊んで暮らせる金がある」


「どこでそんなに稼いだんだ」


「幽霊船狩りが捗ってな。イーサワもそこで手に入るものを次々高値で売りさばくからよ」


 なるほど……。

 オルカとイーサワが組むと、とんでもないことになるな。


 地上でちまちまと仕事を見つけて歩いた俺は何だったのだ。

 ま、それはそれでいいか。

 面白かったし、ダミアン見つけたし。


「じゃあ、ちょっと行きたいところがあってな」


 俺は今後の予定について話しだした。


「六欲天、ヒエロ・ヒューガとワース・ワッシャー。こいつら話が通じるんで、メイオーとの戦いに備えて協力を取り付けておきたいんだ」


「げげえっ、お前、六欲天二柱と遭遇してたのかよ。ちょっと旅するだけでそんなのに会うとか、どんな確率だよ……」


「人徳だな」


「呪われた人徳じゃねえか」


 オルカがうんざりした顔をした。

 そうかなあ。


「とりあえずさ。俺はここに、ダグ・ダムドからの信頼の証らしい祭具ってのを持っててな」


 アイテムボックスから、ローリィ・ポーリィを取り出す。

 この形が崩れないピカピカの泥団子が、六欲天ダグ・ダムドをあと二回召喚できる祭具なのだ。


「これがあると色々便利なんだ。何より信頼の証みたいなものになる。あと二柱も六欲天から協力を得られれば、絶対これから役立つって」


「そりゃ間違いねえけどよ。話のスケールがでかすぎるぜ……。もう、人間の世界を越えた規模の話になってきてるじゃねえか」


「それはそうだろ。ラムハの中にいた女神と三日前に戦ったろ? 多分この世界、ああいう規模の世界の危機みたいなのがゴロゴロしてるんだ。俺達はその上で、気付かないまま日常生活してるだけで。一歩間違えると、世界をぶっ壊す化け物たちが姿を現すってわけだ」


「お前さんも大概化け物じみてきてるがな」


「そりゃあどうも」


 お褒めの言葉として受け取っておく。


「しかしまあ、お前さんが動くと世界が動くな。ここらで腰を落ち着けて、女達を囲ってのんびりしててもいいだろうが。世の中の厄介事に首を突っ込むのは、もうお前の趣味だなオクノ」


「違いない。俺はふわっとした正義感だけで生きてるからな! それに、五花が逃げただろ? あれ放っておいたら絶対世界の危機みたいなのに成長するぞ。追いかけていってぶっ飛ばさないとだめだろ」


「ああ……。確かにあいつは放置できねえ……! まだ借りも返しちゃいねえからな!」


 オルカがやる気になった。

 いい事だ。


 ということで、女神をぶっ飛ばして正気に戻した三日後くらいに、また俺は新しい冒険に旅立つのである。

 当座の拠点は新帝国。


 皇帝の厚意で、宿と飯は用意してもらっている。

 金はあるんだけどなあ。


 金だけ余らせてもなんだから、ホリデー号を強化改造してもらっておこうかな。

 そこら辺りは、金勘定担当のイーサワと、何やら強化改造に詳しいダミアンGに任せることにした。

 楽しい予感しかしない。





 六欲天との交渉チームを結成する俺である。

 総勢五人になる。


 まずは、メンバーを率いる俺。

 そして船側の監督を任せている日向。

 簀巻きから解放されたラムハ。

 我が団の誇る偉大な副団長フタマタ。

 大きい怪獣とか大好きらしいエスプレイダーこと、石神フロント。


 この五名である。

 ルリアとアミラとカリナが同行を主張したが、ルリアは城の兵士達に槍の技を教える役割ができている。

 兵士達が彼女の下に日参してるのを俺は知ってるぞ。

 村娘だったルリアが大きくなったもんだ……。


 アミラは単純に、険しい行程だと大変そうだから。

 もっと足腰を鍛えてもらわなくては。


 カリナはフロントと同行者じゃんけんして負けた。

 フロント、じゃんけんが超つええんだ。


 カリナが泣いて悔しがっていた。


「要は気迫だ。相手に気迫をぶつければ、じゃんけんの瞬間、敵は高確率でグーを出す! 俺はパーを出すだけでいい」


「なんてよく分からない理論を振りかざすやつだ」


 だが、俺はそういう変な奴大好きだぞ。

 俺達はバギーに乗り、まずはワース・ワッシャーの元へと急いだ。


 ……バギーなら別にアミラを連れてきても良かったな?


 まあいいか。


 巨大な猛禽類の姿をした六欲天は、今日も彫像めいて岩山の頂点に鎮座している。


「おーい、ワース・ワッシャー!」


 俺がその名を叫ぶと、彫像が動いた。


『おや、私を呼ぶ声がすると思ったら、あなたでしたかオクノ』


 完全に俺が認識されている。


『空を飛ぶ全ての鳥とモンスターは私の眷属です。彼らが見聞きしたものを、私は知ることができる。あなたが女神ハームラと戦い、これに勝ち、開放した様は見ていました』


「話が早いなー」


『鳥だけに速いのです』


「誰が上手いこと言えと」


 ワース・ワッシャーはその翼を広げた。

 そして、音もなく舞い上がる。


 少し遅れてから、猛烈な風が吹いた。


 気付くと、六欲天は俺達の目の前に降り立っている。


『あなたが成した事を見るだけで、信頼に値する人間であることが分かります。これを授けましょう。私からの信頼の証です』


 そう言うと、ワース・ワッシャーは口からペッと何か吐いた。

 ええ……口から吐いたのかよ。


 それは、羽毛の形をした石だった。


「これはもしや」


『私が消化を助けるために飲み込んでいる石の一つを加工したものです』


 鳥は丸呑みだから、胃の中に石を飲み込み、そいつで食べ物をすり潰すんだそうだ。

 ワース・ワッシャーも同じことらしい。

 で、その胃石の一つを祭具として俺にくれると。


『祭具イーグルストーンです。大事にするように。ああ、それからよく水で洗って使ってください』


 言われなくてもそうするぞ。

 くさい。


『ヒエロ・ヒューガについても伝えましょう。彼は今、また眠る期間に入っています。訪れても頭が曖昧になっているでしょうから、祭具をもらえるという期待はしないほうがいいでしょう』


 ああ、つまり、あいつの夢であるヒエロ・ヒューガの落とし子も増えてる可能性があるってことだな。

 それはよろしくない。

 また今度にしておこう。


「六欲天……すっごい……」


 日向は終始ぽかーんとしていた。

 彼女が見たモンスターの中で、ワース・ワッシャーは掛け値無しで最大のものだろうからな。

 しかも理知的に喋る。


 フロントは興奮していた。


「俺専用の飛行装備として欲しい」


「やめておくんだフロント……!」


 イーグルストーンを手に入れ、新帝国へと戻る俺である。


「あっさり手に入るようになったわね。ウーボイドとは決裂したし、ダグ・ダムド相手も大変だったじゃない?」


 ラムハが懐かしい話をしてくる。


「ウーボイドは鬼畜だったからなー。あれは倒すしか選択肢ないでしょ。ダグ・ダムドは話がまあ分かるやつで良かった。それにしても、ワース・ワッシャーの話の通じるっぷりは異常だけど」


「鳥って頭がいいらしいじゃない?」


「ええー? だからなのかなあ」


「わんわん!」


「ああ、フタマタは賢いな! それは俺が一番良く知ってるぞー。よーしよしよし」


 わしゃわしゃとフタマタを撫で回す俺なのだ。


「ねえオクノ。あっという間に目的が終わってしまったけど、次はどうするの? もう、行っちゃう? 北にある凍れる城」


「凍れる城……三つ目の遺跡か。もう行っちゃうか」


「行っちゃおう」


 俺と二人で盛りあがるラムハ。

 これを見て、日向がぼそっと言うのである。


「なんだかラムハさん、凄く明るくなったっていうか無邪気になったっていうか……」


 女神の封印から解放されて、初めて自分のために生きられるようになったわけだからな。

 多分、これがラムハの素なんじゃないか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る