第112話 俺、新帝国に帰ってくる

 落下した天空の大盆から、俺達は脱出した。

 こいつが上手いこと山の中腹に衝突し、そこから麓まで滑り落ちたのだ。

 これはこれで大変だったが、女神との戦いに比べればそうでもない。


 大盆は非常にでかいから、ちょっと滑ったらすぐに麓だった。

 その後、俺達は新帝国まで戻ることになった。

 報酬を受け取るためだ。


「あのぉー。私の扱いは……」


 闘魂注入を受けて正気に戻った明良川が、俺達を伺っている。

 七勇者として非道の限りを尽くした記憶は残っているようで、なんか大変卑屈な感じになっている。


「んー。五花の洗脳が解けているので、一応連れてく。ここにいたら処刑されるぞ」


「ひぃー」


 明良川が悲鳴を上げた。


「た、助けてマキ」


「ごめんねゆずり。私にはその権限がなくて」


「権限……! じゃあそれがあるのは」


「多摩川くん」


「多摩川……!?」


 明良川が恐ろしいものを見るような目を俺に向けた。

 ふっふっふ、お前がクラスメイト時代、俺をバカにしていたのは覚えているぞ。


 そういうのは緊急時に自分に帰ってくるものなのだ。

 日頃の行いは大事だな!


「明良川……俺も鬼じゃない」


 俺は微笑み、優しい声を出した。


「た、多摩川……!」


「リザードマンの船員たちにしごかれながら、船員見習いとして一から頑張ろうか」


「い、いやーっ!? せめて人間の中に入れてー!?」


「しかし人間の国である新帝国ではお前を処刑するしかないのでは。どうなの皇帝」


「処刑だ」


 ファイナル皇帝がノータイムで答えた。

 明良川が真っ青になる。


「船員見習いでお願いします」


「よろしい」


 うちの船員見習い、そんなに捨てたものじゃない境遇だぞ。

 三食に寝床もついてくるし、リザードマンの日光浴をする習性から、昼寝までついてくる。


 明良川は炎の呪法のエキスパートのようだが、残念ながら同じくらい使えるフタマタがいるからな。

 出番は無いぞ。


「いやあ、実にたくさんの遺産を入手できましたよ。これで我が団の財政は潤いますね」


 イーサワがほくほく顔だ。

 俺達が戦っている間、彼は天空の大盆内部を駆け回り、遺産の数々をゲットしていたらしい。

 その大部分は俺のアイテムボックスに詰め込まれている。


 一部、武器らしきものはダミアンGにセットした。


『ウオオオオ漲ルぱわー!!』


 ダミアンGが、ミサイルポッドとかガトリングガンみたいなのを装備したドラム缶ロボにパワーアップした。


「ダミアン、頑張ったものね。ちょっと触らせてもらっていいかしら」


『アッらむはサン! ドウゾドウゾ』


 団内ヒエラルキーが俺と同じくらい高いラムハである。

 こういうのに敏感なダミアンは、とてもよく言うことを聞く。


 そうそう、ラムハはかなり柔らかい感じになった。

 何千年もの間かかっていた重圧みたいなのがなくなったからだろう。


 ステータスも大きく変わっている。



名前:ラムハ

レベル:60

職業:月の呪法師


力   :44

身の守り:68

素早さ :110

賢さ  :270

運の良さ:20


HP313

MP490


闇の呪法50レベル

光の呪法50レベル

✩杖

・スペルエンハンス・パワーエンハンス・アンチマジック

・スピードマジック

★闇の呪法

◯闇の炎◯闇の障壁◯闇の衝撃

◯闇の支配◯闇の呪縛◯闇の魔槍

◯闇の結界◯闇の雨

★光の呪法

◯ライトヒール◯ライトバリア◯シャイニングレイ

◯ライトウォール◯バイタリティ◯ライトソード

★光、闇複合:月の呪法

◯ルナティック◯ムーンレイド◯メテオストライク

◯ギャラクシー



 なーるほど。

 月の呪法という扱いになるのか。

 ギャラクシーを見ることはできなかったから、今度戦闘があったら見せてもらおう。

 そして何より。


 ラムハの運の良さが上がり始めたのだ!

 良かったなあ。


『おくのサンおくのサン』


「なんだいダミアンG」


『ワタシノすてーたすニモ注目スベキデハ?』


 おお、そうだった。

 弱いはずなのに、アイテム欄に装備されるという裏技を駆使して女神戦で最後まで戦場に立っていたダミアン。

 こいつはなかなか強力な気がする。


 どれどれ。


ダミアン


攻撃力:315

防御力:255

HP:400

EN:110


機能:

フィールドジャンパー

マジックアーム

アイテムチェンジ


装備:

ビームサーベル(量)

リボルバー

ミサイルポッド

ガトリングガン



 おおーっ!

 強くなっている。


「装備欄からマシンアームが消えてるけど」


『装備ハ四ツマデシカツケラレマセン!』


 そうだったのか。

 そしてアイテムチェンジが増えている。

 これが曲者だな。


 ダミアンGの使い道、研究の価値が大いにある。





 そして俺達は新帝国に到着した。 

 国民達の大歓待で迎えられる。


 どうやら、帝都からも落下していく天空の大盆が見えたらしい。 

 凄くでかいもんな、あれ。


 新帝国を上げての宴が催され、それは三日三晩続いた。

 朝起きて食って騒いで、昼寝して起きて食って騒いで寝ると朝になる。

 これはいかん、自堕落になる。


 二日目から、鍛錬をするようにした。

 具体的には、帝国の兵士達を相手にスパーリングである。


 幻影戦士術を使いつつ、大体三百人くらいに組み手すると腹が減るので、そこで飯を食う。

 いい生活だ。


 他の仲間達も、訓練みたいなことをやっていたようだ。

 女神戦で思うことがあったんだろう。


 一番の見ものは、イクサvs皇帝だった。

 お互いに木剣を使って試合をしたのだが、イクサの苛烈な攻撃の数々を、見事にいなしていく皇帝。

 天才剣士であろうと、積み重ねた帝国の歴史相手には分が悪いのか……!?


 と思ったら、普通に帝国の歴史が積み上げたいなしや見切りの技の限界を越えた技を次々に繰り出してきて、気付いたら皇帝の喉元に木剣が当てられていた。


「見事。そなたのような剣士が我が臣下にいれば、どのような敵も恐るるに足らぬのだがな」


「俺の剣は俺のものだ。そしてこれの使い所はオクノに託している」


「なるほど。女神すら斬る剣。一国に留め置ける器ではない、か」


 なんかかっこいいやり取りしてるんだけど。


「ねえ、一応聞くけど俺にはそういうリクルートのお誘い無いの?」


「オクノ。そなたはそもそも余の器では抱えきれぬ。余は馬鹿ではない。己の器の限度くらいわきまえている」


 買いかぶり過ぎでは?


 そしてこの三日間で一番の大事件は、夜であった。


「ねえ、オクノ、起きてる?」


「はっ、俺の寝台にラムハさんが!!」


 夜に目覚めた俺は驚愕する。

 薄物一枚纏っただけのラムハがそこに立っていて、微笑んでいるのだ。


「何も、私達を隔てるものは無くなったわ。だから私は、自分の気持に素直に生きることにしたの。ねえ、オクノ。私を抱いて……」


「はい淑女協定違反ですー!!」


「ラムハ、やってしまったわねえ」


「これはふん縛らねばならないですね」


 ラムハがその一言を口にした瞬間、ルリアとアミラとカリナがどこからか飛び出してきて、ラムハをぐるぐるに縛ったのであった。


「きゃ、きゃー!? なんであなた達がここに!?」


「ふっふっふ、常にオクノくんのことはあたし達全員が狙っているんだよ」


「抜け駆けは許さないわよ。ラムハだって散々、こういう見張りとかしてきたでしょう? こんどはお姉さん達の番」


「好きにはさせませんよぉ」


「あは……あはは」


 おお……女子達が怖い笑みを浮かべている。

 ラムハも引きつり笑いをした。

 ということで、朝まで簀巻きになったラムハなのである。


 ラムハが女子三名にやっていた行いが帰って来た形だ。

 いやあ、日頃の行いは大事だなあ。


 平和だ。



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