第111話 俺、黒曜の女神を正気に戻す

「では、先達は余が務めよう!」


 皇帝が進み出る。


『アアアッアアアアアッ!! 月、月、月ィィィィィ!!』


 ハームラはラムハを失い、狂乱状態となっている。

 闇の呪法が次々と皇帝へ襲いかかった。


「長き新帝国の歴史に於いて、闇の呪法もまた親しきものであった。故に……! 見切り……!」


 放たれる闇の呪法を、次々と斬り捨て、躱すファイナル皇帝。

 避けきれないものは体で受けるが、それでも倒れることはない。

 こいつ、単体では完全に完成された戦士なのな。

 新帝国が重ねた歴史全てを継承している男、ファイナル。


 彼は闇の呪法をことごとくやり過ごすと、剣を掲げた。


「技は、強きものが一つあればよい! 参るぞ! 彗星剣!!」


 切っ先に呪力が集まる。

 それは流星の如く、ハームラめがけて降り注ぐ!


『アアアアッ!!』


 ハームラの巨体に突き刺さる流星群。

 メテオストライクよりは小さくとも、その威力は絶大だ。


「次は俺だ! うおおおお!! エスプレイドッゼフィロースッ!!」


 全身に風の呪力を纏って舞い上がるエスプレイダー。

 螺旋を描きながら、その全身を弾丸としてハームラに突っ込んでいく。

 その突進は、女神の肉体すら揺るがす。


 衝突の衝撃波が天空の大盆を揺らした。


「ほーい! いっくよー! ラムハが助けられたらもう、全力でいいよね!! うりゃー!! 無双! 三段!!」


 飛び出していくルリア。

 突撃、そしてかち上げ、自ら跳躍して槍で相手を叩き落とす。


 三段攻撃の間に一切の隙がない。

 純粋な槍技の究極系みたいなやつだ。


 まさかルリアがこれを使えるようになるとはなあ……。


「行くぞ、オクノ。決めは任せる」


 イクサが駆け出した。


「月影の太刀……!!」


 イクサの姿が一瞬消え、斬撃だけがハームラを襲う。

 そして女神を通り過ぎた先に、イクサが現れた。

 同じ技でも、使い込むほどに成長していくのか……!


 最後は、俺だ。


 何の技を使うかはもう決めている。

 だから、俺はイクサが駆け出した直後に、歩みを進めている。


 目の前には、強力な連続攻撃で大ダメージを受け、呆然としている女神の顔がある。

 このまま続ければ倒せるだろう。

 俺達の連携は、神にだって届く。


 だが、それでいいのか?

 っていうか、いくらおかしくなったからって女神を倒したらこの世界的にまずいんじゃね?


 ならば、正気に戻っていただこう。


「カムイ……闘魂注入!! シャアッ!」


『彗星エスプレイド無双月影注入』


 何を注入しようと言うんだ!?


 俺の渾身のビンタが女神の横っ面に炸裂した。


『ウグワーッ!?』


 女神が巨体ごと、錐揉みを描いてぶっ飛んでいく。

 その姿が、空中で変わっていった。


 彼女を包み込んでいた、触手の群れが空気に溶けて消滅していく。

 ハームラが纏っていた黒いドレスは、白い色に。

 髪の色も金色に変化していった。


 そしてハームラが頭から地面に落ちた。


『ぐえー』


 女神があげてはいけない悲鳴をあげたな。


「大丈夫?」


 俺は駆け寄った。

 すると、ハームラは大の字になって転がり、ピクピクと痙攣していた。

 生きてる生きてる。


「呆れた男だ……! 伝説に謳われ、神々すらも封印するしかなかった女神を救おうと言うのか……!」


 また皇帝が驚いている。

 だが、なんか彼は嬉しそうな顔してるな。


「新帝国を続けてきた甲斐があったな。余は、混沌の裁定者と戦うための最強の戦力を手にしたと言えよう」


 なんかこの人の最終目標みたいなのに、俺は都合がいいっぽいな。

 混沌の裁定者とやらは、女神を狂わせた原因でもあるし、五花達にいらん力を与えた奴でもある。

 さらには古代文明も滅ぼしてるんだろ?


 ろくでもないやつじゃねえか。

 そりゃ倒すに決まってる。

 邪神メイオーより悪いやつなのでは?


「もう、オクノ! 何を考えごとしてるの! ハームラ! 女神ハームラ、起きて!」


 ラムハがハームラを助け起こす。

 元自分だった女神を腕の中に抱いているというのはどういう気分なんだろうな。


『う……ううん……。何か……人間から放たれるはずのない連携攻撃が、わたくしを……ハッ』


 おお、目覚めた目覚めた。


『こ、ここは? わたくしは、どうしたのですか? 長い夢を見ていたよう。最後に、とても理不尽な夢を見て、しかも頬を張られた気がするのですけれど。キョードウ様にだってぶたれたことがないのに』


「うーん女神様から感じるこのポンコツ臭。俺が闘魂を注入したのだ」


『女神の頬を張る罰当たりをしたのはあなたですか。前代未聞ですよ。ですけれど、どうやらそのお陰でわたくしは数千年ぶりに正気に戻ったようです。月の女神が月に魅入られるようではいけませんね。お礼に、あなたの仲間達を癒して差し上げましょう。ムーンレイド……ライトヒール』


 ハームラの手から輝きが飛んだ。

 それが、倒れた仲間達に降り注ぐ。

 おー、傷が治っていく!


「大したもんだな。で、ハームラ。おたく、混沌の裁定者にやられたんだろ?」


『その通りです。あれはこの世界の外からやって来た神。今はキョードウ様がその力を抑え込んでいますが、我が兄メイオーが復活するような事態になれば、混沌の裁定者は自由に動き回ることとなるでしょう。そうなれば世界の終わりです』


「ほうほう。じゃあ、順番にぶっ倒さないとな」


『ええ。あなたならやれるかも知れません。あなたは、英雄コールと同じ存在なのでしょう。偶然からこの世界へと降り立った二人目の英雄よ』


 なんか英雄コールとやらも異世界から来てたらしい。


『わたくしはこれから、久々に神々の世界へと戻ります。皆さんびっくりするでしょう。わたくし、サプライズをこよなく愛しています……』


「そういう性格だから混沌の裁定者につけこまれたのでは?」


『もともとの性格は変わりませんので……! では、英雄オクノよ。あなたの旅路にこれからも、幸あらんことを……!』


 それっぽい事を言って、女神ハームラがスーッと消えていく。


『ああ、そうそう』


 また実体化したぞ。

 落ち着きのない女神だな。


『ラムハ。あなたは自由です。わたくしの器として作られた指輪は、古き時代にわたくしに仕えていた巫女を依代として選んだのです。それがあなたです。何千年もの間、あなたを付き合わせてしまいました。ですが、これであなたは役割から解放され、自らの生を歩きだすことができます』


「自由も何も」


 ラムハがちょっと笑った。


「限りなく自由な人に連れ回されて、世界中巡っています。とても楽しいですよ、今」


 ハームラが目を丸くして、彼女もまた微笑んだ。


『それは良かったです。お詫びと言ってはなんですが、わたくしの権能を一つ、あなたに授けます。これは月の呪法ムーンレイド。あらゆる呪法の効果範囲を広げるものです』


「いきなりゲームっぽい説明が始まったぞ」


 俺が思わず突っ込んだら、ハームラに肘で小突かれた。


『いいのです。あなたは自力で今、新しい呪法に目覚めてるんですからぐだぐだ言わないでください。ではわたくしはこれで。本当にさよならです。さよならー』


 スーッと消えていった。

 うーん。

 女神に小突かれるなんて、めったに無い経験だな。


 それに、新しい呪法だって?



名前:多摩川 奥野


技P  :126/1470

術P  :403/511

HP:377/1690

アイテムボックス →

※カールの剣

※祭具・ローリィポーリィ

※戦士の銃

※ダミアンG


✩体術         

・ジャイアントスイング・ドロップキック・フライングメイヤー

・バックスピンキック・ドラゴンスクリュー・シャイニングウィザード

・フライングクロスチョップ・エアプレーンスピン・ブロッキング

・ラリアット・ブレーンバスター・エルボードロップ

・アクティブ土下座・スライディングキック・パリィ

・ワイドカバー・ドラゴンスープレックス・フランケンシュタイナー

・ムーンサルトプレス・サブミッション・クロスカウンター

・ブリッジ・闘魂注入・ビッグブーツ

✩剣

・ベアクラッシュ・ディフレクト・マルチウェイ

✩槍

・足払い・二段突き・風車

・スウィング・ジャベリン・双龍破

✩鞭

・スラッシュバイパー・二連打ち・グランドバイパー

・カウンターウィップ

✩弓

・影縫い・サイドワインダー・アローレイン

・連ね射ち・バードハンティング・影矢

✩斧

・大木断・ヨーヨー・バックスラッシュ

・高速ナブラ

✩杖

・スペルエンハンス・パワーエンハンス・アンチマジック

・スピードマジック

✩銃         

・反応射撃・集中射撃・曲射

☆術技

・ミヅチ(槍)・サンダーファイヤーパワーボム(体術)・ナイアガラドライバー(体術)

・トライディザスター土下座(体術)


★幻の呪法

◯幻炎術◯幻獣術◯雷幻術

◯幻影魅了術◯幻氷術◯水幻術

◯幻影戦士術

★時の呪法

◯タイムストック◯タイムブレイク◯クイックタイム


★陣形・陣形技      

・マリーナスタンス3

・マリーナスタンス5

・デュエル

・青龍陣/ドラゴンファング

・白虎陣/タイガークロウ

・朱雀陣/フェニックスドライブ

・玄武陣/タートルクラッシュ

・ランスフォーメーション

・シールドフォーメーション


 おー!

 時の呪法が増えてる!

 なんか、神とやり合ったからかな?


 ステータスを確認していたら、みんな起き出したようだ。

 ふむふむ、大したもんだな、女神の回復呪法は。


 ひとまずこれで、戦闘は終了か。


 天空の大盆は、その高度をゆっくりと下げていっている。

 もうすぐ山間に着陸することになるだろう。


 それまでは一休みだ。

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