第110話 俺、いい考えがあるので実行する

「アミラを守って玄武陣! アミラは回復専念! カリナ、アローレインで女神の動きを制限! オルカ、跳弾で女神の気をそらしてくれ! グルムル、油地獄で女神の動きを鈍く! ロマ、ホワイトアウトで女神の命中を落として!」


 一息で仲間達に指示を出しつつ、前に出て俺は叫ぶ。


「パリィ!」


 俺のはなった逆水平が、襲いかかる触手を打ち払う。

 こいつで弾くと、女神がちょっとだけ動きに隙を作るのだ。


 そこに、イクサとルリアが襲いかかる。


「月影の太刀!」


「スウィング!」


 月影の太刀を当てたところで、影から飛び出したルリアが槍を振り回す。彼女の技の効果は、相手のスタンだ。

 神だろうとスタンさせるぞ!


 案の定、女神の動きが目に見えて止まった。

 ほんの一呼吸ほどの間だ。


「日向、鬼走り! ヒーロー、なんか突撃技を頼む!」


「ええいっ、鬼走り!」


「レイダーダッシュ!」


「わんわん!」


 おおっ、フタマタも合わせて突撃を使ってくれた!

 三人の連携が成立する。 

 陣形を股にかけて、この場にいる仲間達が縦横無尽に連携している感じだ。


『鬼ダッシュわんわん』


 可愛くなってしまった。 

 だが、女神に対しては効果はなかなかだぞ。

 宇宙色の触手が何本も弾き飛ばされ、女神が揺らぐ。


「ほいこの隙にみんな攻撃ー! 攻撃ー! 余裕があれば連携してー!」


『ウオオオーえすぷれいだー私ヲ使エー! だみあんキャノーン!』


「ダミアンキャノンシューッ!!」


 なんかダミアンの空洞部分がバズーカになって、詰め込んでた武器とかを女神に向けて発射してる。

 なんだその謎機能!?


 だが、効果は抜群だ!

 エスプレイダーとダミアンGの合体技で、女神がちょっと揺らいだぞ。 

 ダメージは着実に入っている。


 今の俺達は押せ押せムードなのだ。

 ここから女神ハームラが大技でも使ってこないことにはな!


『月よ……月よ……。メテオストライク……!』


 いかん!

 フラグだった!!

 ハームラが天を仰ぐと、突然空が一瞬で夜になった。


 おいおい、天候どころか時間を操作することも可能なのか?


「ありゃあ、星空を召喚したんだね。さすがは女神、化け物だよ……!」


「ありがとう解説のロマ!」


「伊達にあんたより長生きしてないからね」


 ハームラは、吟遊詩人の詩によると夜の女神。

 だから夜を召喚できると。

 で、夜の星空となると……さっき唱えた明らかにやばい呪法の名前からして……。


「みんな、防御態勢! 全員玄武陣! イクサとルリアは俺の後ろに隠れろ!」


『アアアアアア』


 ハームラが叫ぶ。

 彼女の頭上の夜に、無数の輝きが生まれた。

 それは落ちてくる星々。


 つまりは、俺達めがけて襲いかかってくる流星雨だ。


「うりゃあ、ワイドカバー!」


『ムーンレイド』


 ハームラが俺の技に合わせて、謎の呪法を唱える。

 すると……メテオストライクの範囲が大きく広がる。

 やっべえ!

 これ、ワイドカバーでカバーしきれねえ。


「みんな、めいめい防御!」


 と指示を出すが、全員の身の守りを把握している俺だ。

 一発メテオストライクを受けてみて、あ、こりゃダメだと判断した。


 せめて死なないでいて欲しい。

 玄武陣でダメージは軽減されているからマシだとは思うが。


 しかし、我ながら呆れたタフさだ。

 隕石の雨をまとめて喰らいつつ、俺はどうにか……というか割とピンピンして立っている。


「オクノくん! みんなが!」


「死んだ!?」


「死んでないけど!」


「ならよし!」


「もう出てもいいか?」


「出たらイクサと言えど死ぬ!」


「俺は死なない。出るぞ! 円月斬! 円月斬! 円月斬!」


 言うことを聞かずに飛び出したイクサ。

 円月斬連打でメテオを撃ち落とし始める。

 相変わらず常識外にいる男だ。


 やがて永遠とも思えた流星雨が終わった。

 体感はめっちゃ長かった気がしたが、多分一分やそこらだな。


 ざっと周囲を見渡したら、立っているのが数人しかいない。


 玄武陣のお陰で命は助かったようだが、ステータス画面を見回すと大多数がHP欄が1とか2とか。

 向こうでは、大盆から出てきたロボットも壊滅しており、インペリアルガードも倒れていた。


 皇帝だけが立って、こちらに注意を向けた。


「協力しよう」


「ファイナル皇帝、よく生きてたな!」


「新帝国の全てが余の肉体に宿っている。すなわち、余は帝国そのものだ。帝国はそうそう簡単には倒れぬ」


 ということで……!


 生き残りを集めたのだ。


 俺!

 イクサ!

 ルリア!

 ファイナル皇帝!

 なんかバリアを張ってメテオを防いだエスプレイダーと、装備品になっているダミアンG!


 図らずも、さっきのデュエルに参加したメンツだけになってしまった。

 というか、これがうちの団の最強のメンバーだな。


 女神は、漆黒の瞳で俺達を見据えた。

 おっ、こいつ驚いてる。


 まさかあれを受けて無事な奴が五人+一体もいるとは思わなかったな?


『月……月よ……月の影よ……! ギャラクシー……!!』


 来たぞ、ハームラのステータス欄一番最後にあった呪法!

 おそらく切り札。


 ハームラの目が輝き、頭上に召喚された宇宙の中で、ひときわ大きな月が眩い光を放ち始める。


 だが、さっきの呪法の直後である。


「それは撃たせるわけなかろう! うおー! クロスカウンター・オクノ式32文ロケット砲!!」


 つまり、全力疾走から繰り出される、ひねりを加えたドロップキックだ!

 これを、ギャラクシーとか言う呪法が発動する瞬間に叩き込んだ。

 触手ごとまとめて、女神の腹に蹴りが突き刺さる。

 ハームラの目が一瞬白目になった。


『ウグワーッ!』


 ハームラが膝をつく。

 ギャラクシー中断!


「よし!! 最大の技があろうが、戦力の逐次投入は愚策だぞ! こういう風に対策を取られるからな!」


 つまり、相手に対策を取られないうちに最大の技を放つことこそが慣用なのだ。

 だがそれは、その勝負が勝ちを狙うだけのしょっぱい(面白くない)試合になってしまうことを意味している。

 だからと言って相手の技を受け止めようとしていては、さっきのメテオストライクの如く、仲間達がやられてしまう。


 俺と仲間達の打たれ強さに差があるのだ。


「では行くぞ!」


 イクサが俺の横から駆け抜けた。


「乱れ……ぬう、読めん!」


「おい」


 俺は即座にイクサのステータスをオープンする。

 マスキングされた技はそのまんま使えたと自己申告してたな。

 つまり、読めなくなったということは、漢字がオープンになったな?


名前:イクサ

レベル:73

職業:剣王


力   :190

身の守り:119

素早さ :311

賢さ  :  3

運の良さ:155


HP650

MP115


剣56レベル

体術46レベル


才能:剣技

✩体術

・カウンター

✩剣・オリジン

・飛翔斬・真空斬・裂空斬

・円月斬・十六夜・望月

・月影の太刀・乱れ雪月花(解放されました)

☆剣・ノーマル

・ディフレクト・ベアクラッシュ・マルチウェイ


「読みは、みだれせつげつか、だ!」


「感謝を! 乱れ雪月花!!」


 イクサの剣が、振り抜かれる。

 氷のごとく冷たく鋭い斬撃が女神を切り裂く。なんと斬撃は実際の氷を呼び出し、女神の足を止めた。

 月のように天空から降り注ぐ斬撃。女神の頭上に浮かんだ月が幾重にも切り裂かれる。

 そして花のように綺羅びやかな斬撃が、無数の触手を次々に切り落とす。


『アッアアアアアアアアッ!!』


 女神が絶叫する。

 いいぞいいぞ。

 これ、かなりのダメージが入ったのが分かる。


 イクサ、とんでもない技を開眼しやがったな。


「むう。また隠れて読めなくなってしまった」


「なにぃ」


 ステータス欄を見たら、乱■■月花に戻っている。

 特定条件下だけで解放される奥義みたいなものか。


 さて、このまま押せば女神は倒せるかもしれない。

 倒せないとしても、負けることはないだろう。

 だが……。


「ラムハを分離しなきゃいけないんだがな」


「そうだよー! ラムハ、あの中にいるんでしょ!? 助けなきゃ!」


「むう」


 ルリアの言葉に、イクサも唸る。


「世界の一大事だ。仲間一人の命と天秤にかけるのか?」


「おっ、ここでなんか正論来たなファイナル皇帝。そりゃもっともな話だ。だがな。エンタメとしてヒロインを救い出してから女神をぶっ倒した方が熱いだろう」


「エンタメ……? だが、女神と融合している人間を救い出す手段などない。それこそ、ばらばらに切り離さない限りはな」


「気をつけろ! 女神が襲ってくるぞ! レイダーバリヤーっ!! うおおおおおお───ッ!!」


 エスプレイダーが叫びながら、女神からの反撃触手を受け止めている。

 おお、バリアにヒビが入り始めているじゃないか。

 あのバリア、割れるタイプだな!


『おくのサンラシクナイデスヨ。当タッテ砕ケ散ルノガおくのサンデショウ』


「砕け散ったら死ぬがな」


『分離スレバイイノデス! エエト、ナンカ遠心分離器ミタイナカンジデ』


 ダミアンGの話を聞いて、俺の脳裏にピンと来た。


「よし分かった! 俺にいい考えがある!! エスプレイダー! 道を開けてくれ!」


「だが、攻撃がお前に集中するぞ!」


「構わん! 俺はタフなので!」


「よしッ! では1、2の、3で解除するぞって飛び出すなバカモノーっ!!」


 1、2の、3と言われたから飛び出してしまったぞ。

 だが、これは女神もエスプレイダーに攻撃を集中しており、計算外だったようだ。


『アアッ』


「行くぞオラァ!! カムイーッ!!」


 ステータス欄からは消えていたあの技を叫ぶ。

 すると、俺のステータス欄に蘇るカムイの技名。

 全身にみなぎるパワー。


 俺の叫びを聞いて、皇帝が訝しげな顔をする。


「何をするつもりだ!? 人の力で神に抗おうと言うのか、そなたは……!!」


 その通りだよ! 抗うっつーかぶっ飛ばす!

 俺は手近な触手を何本かまとめて掴み……。


「みんな離れてろ! 行くぞ、女神ハームラ! ラムハとお前を分離する!! カムイ・ジャイアントスイング!!」


 俺は全身を光り輝かせながら、両足を踏ん張った。

 満身の力を込めて触手を引く。

 ハームラの巨体が持ち上がった。


『アアアアアアアアアッ!?』


「いつもよりっ!」


 回転を始める。


「たくさんっ!」


 二回転、三回転、四回転。


「回っておりまああああああすっ!!」


 回転回転回転回転回転回転回転!

 回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回ッ大回転ッ!!


 あまりの回転に、天空の大盆に竜巻が引き起こされた。

 振り回される女神の姿が、一瞬ぶれる。


「ラムハーッ!! 出てこーいっ!!」


 俺は叫んだ。 

 女神の顔に、見覚えのある女のイメージが浮かび上がる。

 彼女は苦笑しながら、


「すっごい力技。あなた、本当にむちゃくちゃねえ」


 そう言った。

 そして……女神から抜け出してきたイメージは実体化し、ラムハとなりながら、ポーンッ!と遠くへ吹っ飛ばされていく!


「あっ、いかーん!!」


 俺としたことが!!

 遠心力で女神とラムハを分離するところまでは良かったが、分離されたら吹っ飛んでいくに決まってるじゃないか!


「ラムハー!」


「わん、わおーん!!」


 すると、倒れていたはずのフタマタが飛び出した。

 おお、お前、最後の力を振り絞って!


 高らかに跳躍したフタマタが、ラムハをキャッチする。

 それを見届けた俺は、女神を横にペイっと捨てた。


『アアアッ!?』


 周囲の建物を巻き込んで破壊しつつ、女神が地面を滑っていく。

 だがそんなもんに構ってられないぞ。


 フタマタがラムハを抱えて落ちてくる下に、「ツアーッ! カムイ・スライディングキック!」


 光り輝きながら滑り込む俺!

 フタマタをラムハごとキャッチ!

 最後の力を振り絞って消滅とかそういうフラグはいらないぞ!!


「わんわん」


「おお、無事かフタマター」


「んもう……ほんとにバカねえ」


 ラムハが笑う。

 彼女の指に、あの指輪はもうない。


「バカにしか切り開けない道があるって言うだろ」


「誰が言った言葉よ?」


「俺だよ」


「おバカ。でも好きな言葉よ」


 というわけで!


『アアアアアアアッ月、月、月、月を……』


「では五人で連携をしまーす!! ファイナル皇帝、連携ついてこれるか?」


「余を誰だと思っている。今、目の前で不可能を可能にした男がいるのだ。余がこれくらいできずにどうする?」


「いいね! じゃあ、行くぞ!」


 最強五連携、開始なのだ!

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