第107話 幕間・凸凹コンビ、そして俺

「うおおっ! ゲイルブロウ! ゲイルブロウ! ゲイルブロウ!」


『なんのぉーっ!!』


『横合イカラびーむさーべるデス! 死ネエー!』


『ギャーッ!! いてえーっ!! 卑怯だぞてめえー!!』


『フッフッフ、私ニ無防備ナ脇腹ヲミセタ、アナタノ失態デス! ソラソラー! 私ハ弱イ相手ニハトコトン強イデスヨー!!』


『なんてやつだ! まるで悪党の手本みたいなロボだな!? くそうっ!』


 ゲートウェイが慌ててエスプレイダーから離れた。

 だが、相手は風の力を身に纏うヒーロー、青の閃撃エスプレイダー。


「呪法、テールウィンド! 逃しはせんぞ悪党!!」


『待て!? お前、二人がかりなんて卑怯だと思わないのか!!』


「結果的に悪が倒されれば正義!」


『似たものじゃねえかお前ら!!』


 悪の七勇者ゲートウェイの寝言になど耳を貸さず、追い風に乗って飛び上がるエスプレイダー。

 これは、空中からの錐揉みキック。

 名付けて……。


「レイダーインパクトッ!!」


『ぬうおおおおっ!!』


 強靭なクズリの肉体であろうと、古代文明のダンプカーを一撃でスクラップにするレイダーインパクトを受け切れはしない。

 跳ね飛ばされ、デュエル空間の障壁に叩きつけられたゲートウェイ。


『俺はいい勝負なんてのは好きじゃねえんだ! 俺が好きなのは、一方的な蹂躙! 一方的な勝利なんだよぉ!!』


 すぐさま体勢を立て直し、吠えるゲートウェイ。

 凄まじい耐久力のあらわれか、まだダメージはそう深くはないようだ。


『えすぷれいだー! 一気ニ攻メテ倒スゾ!』


「今はお前に同意しよう! 行くぞ!」


 ヒーローとドラム缶型ロボ、二人が猛烈な勢いでゲートウェイに迫る。

 これを見て、七勇者は跳ね上がった。


『やってられるかこんな勝負!! やめだやめ!! 五花! 俺は降りるからな!!』


 叫びながら、ゲートウェイはデュエル時空へとその爪を立てた。

 突き立った爪により、障壁にヒビが入る。


『さよならだヒーロー!! だが、俺は恨み深いぞ! てめえが油断した隙に殺してやる! てめえの大事にしている人間も皆殺しだ! てめえにこれから、安心できる時なんて訪れねえぞ! わっはっは!!』


 ついに砕け散るデュエル時空。

 ゲートウェイはクズリの肉体を、空中に踊らせた。

 そして彼は、足元で不敵にモノアイを瞬かせるダミアンGに気付いた。


 ダミアンGしかいない。


『は? なんだと?』


『風ノ守護ヲウケタひーろートイウノヲ分カッテナイデスネ。ハー、コレダカラひーろーヲ履修シテナイ人ハ。ソンナンジャ大首領ヤッテケナイデスヨ』


 ドラム缶ロボが肩をすくめて、首をふるようにモノアイを左右に揺らした。

 イラッとするゲートウェイ。


『てめえっ、何を言ってやがる! いや、俺をバカにしてる事はわかる! この野郎、てめえだけはスクラップにしてやろうか……』


 その時である。

 ゲートウェイはようやく気付いた。


 高らかに跳躍した彼の肉体は、天空の大盆で一番高いところにある。

 彼よりも高い位置には何者もいないはずなのだ。


 だが、ゲートウェイは今、何かの影にいた。


『なん……だと……!? まさか!』


「エスプレイドォォォォォッゼフィロスッ!!」


 風を纏い、青き翼を広げ、ヒーローが空を舞う。

 そして風の呪法、ダウンドラフトを受けて加速したエスプレイダーが、ゲートウェイへと襲いかかった。

 それはエスプレイダー自身を弾丸と化す、ヒーロー最大最強の必殺技。


 クズリとなったゲートウェイの、強靭な毛皮はこれを受け止め……られない。

 切り裂かれ、えぐられ、そしてその肉体を風の弾丸がぶち抜いた。


『そ、そんな馬鹿な! 俺が、この俺がこんなところで……! こんなポッと出のやつに……! ウグワーッ!!』


 着地したエスプレイダー。

 立ち上がる彼の背後で、ゲートウェイが大爆発を起こした。

 それと同時に、デュエル時空が完全に解除される。


 今正に、三つ目のデュエル時空が消滅したのだった。







「正確には俺が二つ目のデュエル時空破りだ! ツァーッ!」


 俺は熊川の股間を抜けながらスライディングキックし、時空そのものを蹴りで割ったよ!

 割れた!


『な、なにぃーっ!?』


「結界を割れるんだから時空を割れない道理はないだろう……」


 立ち上がる俺。

 後ろから襲いかかる熊川。


『でたらめな男め!! だが背中ががら空きだ!』


「後ろから来たやつはこうだ! フライングメイヤー!」


 俺は熊川の懐までバックステップすると、その首を抱えて前に投げ捨てた。

 これが正式なフライングメイヤーである。

 俺、この間までアームホイップをフライングメイヤーだと思っていてだな。


『グワーッ!!』


 地面に叩きつけられた熊川が呻いた。


 さて、俺がいきなりデュエル時空破りを決行した理由についてだが。

 熊川が、俺に向かって言ったのだ。


『こうしてお前達を隔離して、無防備になったお前の仲間を五花が洗脳するんだ。クラスの軟弱者どもが脱落したからな。ここで手勢を増やしておかねば』


 そんな事を言われて、真面目に時間稼ぎに付き合うアホがどこにいると言うのだ。

 いきなりデュエル時空破りに突撃するに決まっておろう。


 そして破った。

 人間、やればできる。


 クマ型の巨大モンスターとなった熊川は、唸り声を上げて立ち上がり、爪を振り回す。

 腕の脇から、斧の刃が突き出していて、躱してもこれが襲いかかってくるようだ。

 なかなか強力な敵だ。


 だが……。


「手四つで組み合ってしまえば意味はなかろう!!」


 俺は熊川の両腕を受け止めると、手と手を合わせ合う力比べの状況に持ち込んだ。


『な、なにぃーっ!? 俺の爪と斧をこんなやり方で攻略する!? だが、熊の腕力と力比べとは片腹痛い!』


 それは分かっているぞ。

 だが、俺はあえてこの戦法を選択した。

 理由は一つだ。


「うーむ。見事にみんな洗脳されかかっていた! 五花め、相変わらずクソを煮詰めたクソのような男だな」


 俺はぷりぷりと怒りながら周囲を観察した。

 観察しながら、力比べで押されて、俺はブリッジのような体勢に押し込まれていく。


 熊川、大口をたたくだけあって、パワーも攻撃力もかなり高いな!

 ちなみに五花は、洗脳途中でイクサが出てきたので、完全には洗脳スキルを決められなかったな。


 イクサは話を聞かないと言うか、難しい話をされてもよく分かってないから洗脳が効かないのだ。


 一行にまとめて話さないといけないぞ。


『終わりだ、多摩川ァ!!』


「なんだとぉ!! お前、ブリッジが一番強固な耐える姿勢だということを知らんのかーっ!!」


 俺は首ブリッジの体勢になりながら熊川の圧力を受け止めた。


『な、なにぃーっ!? この体勢からびくともしなくなった!!』


 熊川にのしかかられながら力比べをするような体勢になった俺。

 だが、俺と奴のパワーにそこまで差があるかな?

 いや、ない。


 俺は鍛えているからな。

 ぐぐっと、俺の首が持ち上がった。

 熊川が力で押し戻される。


『なんだと!? てめえ、俺を押し戻している!? 馬鹿な! グリズリーの体格を持つ俺をか!!』


「俺だって熊殺しの空手家くらいの体格なのだ。不可能ではない!」


『反論になってねえ! ぬおおーっ!! お、押し返されるーっ!!』


 全身の筋肉を使い、ブリッジからスタンディングへ、体勢を押し返すのだ!

 

『させるかよ!! うおおおお! 七勇者、混沌パワー全開!! 俺が他の雑魚どもとは違うってところを見せてやるぜええええ!!』


 熊川がさらに一回り大きく膨れ上がった。

 奴から掛けられる圧力も増す。

 なるほど、これは正面から受け止めるのは難しかろう。


 パワーだけなら、巨人に匹敵する。

 だがしかし、相手のパワーを利用するのもまたプロレスなのだ……!


「ふんっ! クロスカウンター・パワースラム!!」


 俺は熊川が力を入れたところをすかし、つんのめった奴の肩と股間を抱えて持ち上げた。

 そのまま背後に投げ捨てる。


『グワーッ!?』


 熊川は自分が掛けたパワーを自ら喰らい、のたうち回った。


「パワーではお前が上だろう。だが、俺にはテクニックと経験があるのだ……!」


『プロレスで俺と渡り合うだとぉ……!? てめえ、プロレスなんざ八百長だろうが!! そんなもんで俺が……』


「なにぃ」

 

 俺、キレた!

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