第108話 俺、プロレスの威力を見せつける。あと五花を追っ払う

「くそっ、多摩川まで出てきただと!? 想定外にこいつらの戦力が強すぎる!! 多摩川とイクサだけが脅威だったのに、まさか二人ともとは!」


「うるさいぞ外野! 俺は今、この男の思考を改めさせることに全力なんだ!」


『ぬおおー!?』


 モンスター化している熊川を頭上に掲げ、ぶんぶん振り回して投げ飛ばす。


「エアプレーンスピン!」


 轟音を上げて地面に落ちる熊川。

 奴は慌てて立ち上がろうとするが、既に俺が跳んでいる。


「エルボードロップ!」


『うおおっ、あぶねえ!』


 熊川は慌てて体を捻り、俺のエルボーを躱した。

 天空の大盆の大地を割るエルボー。


『バカめ! 敵の前で倒れ込むとは!』


 襲いかかる熊川。

 俺はこれを、体を横たえたまま迎え撃つ!


「エルボーを躱すほど元気だとは……。スタミナを奪わなくてはな!」


 熊川が俺にマウントポジションを取り、殴ってくる。

 これをブロッキングでいなしながら、俺は考えた。


「総合にも合わせていかなきゃいけないようだな。時代のニーズは辛いぜ……!」


 ピコーン!

『ブリッジ』


 ここで閃く、技としてのブリッジ!

 熊川の巨体を乗せたまま、俺は首の筋肉でブリッジ!


『うおおっ!?』


 熊川が吹っ飛ばされた。

 もしやこの技、相手を上空にかち上げる効果があるのでは!


 俺は即座に判断する。

 熊川には飛行能力はない。つまり、上空にかち上げられたら落ちてくるだけだ。


「行くぞ! 右手に幻炎術! 左手に雷幻術! 術技、サンダーファイヤーパワーボム!!」


 飛び上がり、落下してくる熊川をキャッチする。

 そして炎と雷を纏い、加速しながら落下するのだ!


 地面に熊川を炸裂させると、大地が砕け散る。


『ウグワーッ!?』


 叫ぶ熊川。

 だがこれでは終わらんぞ!


「幻影戦士術! いけえ、俺の分身! ブリッジ!」


 再び、熊川を上空へとかち上げる俺。

 そこには既に、分身で生み出された俺が跳躍している!


「任せろ、本体の俺! 水幻術を纏い、術技、ナイアガラドライバー!!」


 瀑布を纏いながら、落下してくる幻の俺。

 そして大地へと炸裂した。

 揺らぐ天空の大盆。


『ウグワーッ!!』


「決めろ、本体の俺!」


「任せろ、幻の俺!」


 幻の俺が立ち上がり、腕を組んで足場を作る。

 俺はそれを駆け上がり、跳躍した。


「決めるぜ!! ムーンサルトプレス!!」


 空中で一回転しながら、俺は倒れた熊川に体を浴びせた。


『ウグワワーッ!?』


 見よ、連続攻撃!

 実際は相手の攻撃を受けて、こっちも仕掛けてという勝負になるのだが、熊川が総合形式で勝負を挑んできたのだ。

 こちらもセメントマッチで返すのが礼儀というものだろう。


『そんなバカな、俺は……俺は七勇者最強のはずなのに……! 多摩川なんぞに……!! ウグワーッ!!』


 熊川は爆発した。

 俺は幻の俺とハイタッチする。


「今度はツープラトンを閃きたいもんだな」


 俺が語りかけると、幻の俺はサムズ・アップした。そして消えた。


 俺は悠然と振り返る。

 五花が、余裕のない顔をしていた。


「七勇者は混沌の裁定者から力を与えられたエリート。この世界の人間では抗えないはずだ。何故……!!」


「俺はお前と同じ異世界人じゃないか」


「そうだった……!!」


 衝撃を受ける五花。

 こいつ、こんな間抜けな会話をしながらも、イクサの攻撃を防いでいるので間違いなく強い。


 嫌な奴だが、そろそろこいつの強さは三神官に匹敵するぞ。

 逆を言えば、そろそろ俺とイクサはタイマンで三神官とやりあえるようになっているという事なのだが。


「仕方あるまい。お前達、僕が逃げる時間稼ぎをしろ!!」


 五花が命令を出す。

 すると、洗脳の効果を受けているらしい仲間達が一様にこっちを向いた。


 ふーむ。

 あいつの精神攻撃というか、もう精神汚染だな。

 あれはやばい。


 とりあえず、こいつらの目を覚まさせるにはどうしたら……!


 剣を振りかざして襲ってくるオルカを前に、俺は身構えた。


 ピコーン!

『闘魂注入』


 おっ!!


 俺はオルカの剣をブロッキングで受けながら、奴の頬に張り手を食らわした。


「ぐわーっ!?」


 吹っ飛ぶオルカ。

 そして、ハッと目覚めた。


「俺は一体何を……!?」


 どうやら、これが五花の洗脳を解くための技のようだ!

 ビンタか……!!


「馬鹿な!!」


 五花が目に見えて狼狽する。


「シャアッ!」


 俺は気合を込めて、仲間達に闘魂注入連打なのだ。

 女子の頬を張るのはどうかという意見もあるが、戦場に立った以上、そして命がかかっている以上は男も女もないのだ。


 ということで、全員平等にビンタで吹き飛ばしたぞ。

 洗脳を受けた仲間達が全員、地面に転がっているという不思議な光景になった。


 そしてこの間に、イクサは五花を、大盆の端まで追い詰めていた。

 五花の動きに精彩が無い。


「僕の洗脳を無効化するなんて……! 多摩川くん、君はどこまで僕の前に立ち塞がれば気が済むんだ!」


「何か言ってるぞ」


 俺は呆れた。

 どうせ五花は大したことは言ってないから聞かなくていい。


 イクサはそもそも五花の話の内容を分かってないから、強力な洗脳への耐性を持っているようだ。

 イクサが放つ必殺の一撃が、ついに五花を襲う……!

 その瞬間だ。


 突然、横合いから五花の手が引かれた。

 絶妙なタイミングだったので、イクサのなんかよく分からん技が空を切る。


「五花武。おぬしはここで死ぬべきではないのじゃ」


 それは、クラスで見たことがある女の口から発せられた言葉だった。

 あれ?

 あいつ、イクサに真っ二つにされてなかったっけ?


 それにあの口調、まるでどっかの三神官のロリババアみたいな。


「多摩川くん、そしてイクサ! 君達はここで終わりだ! 何故って、僕がそこにいる女が抱えている最後の闇を解き放ったからね! せいぜい、神を相手に抗って見せるがいいさ!」


「送還……!!」


 五花と女が、二人揃って姿を消した。

 あんにゃろめ、最後に何か言ってたな。

 誰のことかは分かるぞ。


 そして彼らがいた場所には、魔法陣みたいなものがある。


「あー、逃げられたか」


 俺はがっかりした。

 しかし、まさかの伏兵だ。

 七勇者以外に、五花と同行していたクラスメイトがいたとは。


 まあいいか。これで七勇者は全滅だな。


 そう思って、ふと気がついた。

 あれ?

 ルリアは?


 俺は、横にデュエル時空が展開されていることに気づく。

 その中では、ルリアとクラスメイトの女が睨み合っていた。


 地面のあちこちに焼けた跡や、爆発した跡がある。

 ルリアも少なからずダメージを受けているようだ。

 だが、それはクラスメイトの女も同じ。


 女の姿は、髪の毛や眉毛、まつ毛が炎になっていた。

 元の姿をあまり崩さないモンスター化というわけだな。


『なんで! なんであんた死なないの! っていうか、私の呪法の狙いが勝手に甘くなる! 直撃できない!』


「運が良かったー! でも、あんたも速いから当たんない! 止まってて!!」


 千日手かな?

 俺はちょっと考えた。


 よし、デュエルは強制終了させよう。


「ウオラっ! シャイニングウィザード!!」


 デュエル時空めがけて、全力の飛び膝蹴りを放つ。

 シャイニングウィザードは正確には飛び膝ではないのだが、打撃部位が膝なので!


 かなりのダメージを受けていたようで、デュエル時空の障壁は粉々に砕け散った。

 愕然とする、クラスメイトの女。


『ええっ、デュエルが強制解除!? ちょっと五花くん! 何をして……』


「五花はお前を置いて逃げてしまったのだ」


『え? えええ? えええええええええっ!?』


 女は衝撃に絶叫する。

 あ、確かこいつ、明良川ゆずりだな。

 俺が最初にステータスを見たやつだ。


「ということで集団攻撃でお前を倒すのでそこのところよろしく!」


『ま、待って!! 待って待って!! 降参する! 降参します! 降伏です全面降伏ー!!』


 明良川は変身を解くと、そのまま俺達に平伏した。

 ふと思いつく俺。


「明良川」


「へ?」


 呼ばれて顔を上げたこいつに、


「闘魂注入!」


「へぶっ!?」


 明良川は錐揉み状態になって吹っ飛んだ。

 そのまま、地面にぼとっと落ちる。


 ピクピク痙攣してるから生きてるな。


「オクノ、一体何を……?」


 俺のビンタで頬を真っ赤に腫らしたラムハが尋ねてきた。


「うむ、なんか洗脳を解けるようになったんだ。とりあえず明良川が目を覚ましても邪悪な感じだったら倒せばいいのでは?」


 俺の言葉を受けて、日向がうーんと唸った。


「みんな倒しきっちゃった後に、どうして洗脳解除を覚えるのかなあ……」


 閃きはそう都合よくは起こらないものなのだ。


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