第106話 幕間・イクサ、そして皇帝、凸凹コンビ

「乱■■月花!」


『ウグワーッ!』


 七勇者は死亡!

 変身を始めた瞬間のイクサの早業だった。


「この技……。読めない部分があるが、つまりは未完成か。だが凄まじい威力だ」


 デュエル空間は砕け散り、天空の大盆にイクサが現れる。

 そこで彼が見たものは、呆然としながら宙を見つめる仲間達だった。


 彼らの前には、オクノと同年代らしき、端正な顔立ちの少年が立っている。


 その少年……五花武は、イクサを見ると露骨に顔をしかめた。


「君か、剣士イクサ。皇帝が現れたのならばすぐさま僕の虜にしていたであろうに……! それにしても早すぎる……!! まさか、一太刀で彼を退けたとでも言うのか?」


「飛翔斬!」


 飛ぶ斬撃が五花に襲いかかる。


「光の障壁!!」


 これを、呪法による壁で防ぐ五花。

 反応速度が速い。

 七勇者のそれとは段違いである。


 だが、防御をしている間にもイクサは五花に駆け寄っている。

 既に、その構えは必殺の一撃。


「十六夜!!」


 訓練の末、移動しながら行えるようになったこの技が、光の障壁を一刀の下に叩き切る。


 その瞬間には、五花は大きく後ろへと跳んでいた。

 危機回避能力が高い。


「僕の腹心の中でも、熊川と明良川の二人は段違いの強さだ。誰が彼らと当たるか見ものだと思っていたが……君と他の勇者が当たることで僕の計算が狂うとはな……。君があいつに手こずっていてくれれば、ここにいる全員を僕の手駒にできただろうに。どうだい、イクサ。君も僕に手を貸し──」


「裂空斬!」


「うおっ! 耳を傾ける気も無いか! 君も多摩川くんもそうだ! 僕の言葉を端から聞いちゃいない! 僕は、そういう洗脳できない奴が大嫌いなんだよ!!」


「真空斬!」


「立て続けに! 光の障壁! 君は強いが、君だけの力では僕を倒せない! それとも何か? 君は彼が出てくるまで、僕を足止めするつもりか……!?」


 無言で駆け寄るイクサ。

 鋭い斬撃が、光の障壁へと叩き込まれた。


 五花の顔に余裕は無い。


「シンプルに、君は強敵だな。僕はなんとか隙を見つけ出して逃げなくちゃいけない。だが、種は蒔いたよ。混沌の裁定者の手は、君の仲間の誰かに既に……」


「十六夜!」


 光の障壁が砕けた。


「くそっ! 本当に話を聞かない奴だ!!」






 ファイナル皇帝は、七勇者の一人と激しい戦いを繰り広げている。

 新帝国が磨き上げてきた、技と呪法の数々。

 それら全てを受け継いだファイナルは、新帝国が生み出した皇帝としての完成形である。


『呪法で守り、技で攻める! 隙もねえ! てめえ、何者だ!』


「余は皇帝だとも。貴様らの如き外道を下すため、帝国が磨き上げてきた全ての技術を受け継ぐ者だ!」


 十文字の斬撃が七勇者に襲いかかる。

 これを辛うじて防いだのは、盾を持った七勇者だからだ。


 かつて多摩川奥野と戦い、二度も敗れ去った男、豊田学。

 今の姿は、両腕にと背中、腹に巨大な盾を装備した亀のモンスターだ。


『だが! 七勇者リッチャー様がてめえに敗れるわけがない! なぜなら俺はこの完璧な防御に加え、多摩川とあの槍使いの女を殺すべく、反則スレスレのスキルを身に着けたからだ!』


 皇帝の猛攻撃を凌ぎながら、吠える豊田……改め、七勇者リッチャー。


「ほう、そのスキルとは?」


『攻撃は俺みてえに受け切られたら終わりだ! 硬い守りも、あの女みたいに特殊効果で殴ってくる奴には効かねえ! なら、どうすりゃあいい? 立ち会う前に殺せばいいのよ!』


 リッチャーの目が紫色に輝く。


『こいつはてめえの魂を奪う輝き! 盾がてめえの命を吸い込むぞ! 行くぜ、ソウルスティール!!』


 瞳の輝きが盾に宿った。

 リッチャーの全身が紫に光り、それが猛烈な吸引力を持って、皇帝からその魂を吸い上げようとする。


 リッチャーは勝利を確信した。

 古代遺跡で力を授かる時、そこで戦いの知識も得た。

 古代遺跡に存在した戦士の中でには、魂を直接奪う戦い方をする者が存在していたのだ。


 リッチャーはこれを取り込んだのだ。


『ははは! 終わりだ皇帝さんよ! お前なんざ眼中にねえんだ! 俺の標的は多摩川! あとは槍使いの女ぁ! バイバイだぜ!』


 紫の光りに包まれ、腕を交差したまま動かない皇帝。

 一人が倒れれば、デュエル空間は解除されるはずである。


 だが、それはなかなか解除されなかった。

『あん? どういうことだ? ……まさか、まさかソウルスティールが効かない……?』


「余を遡ること十数代前の皇帝が、魂を奪う古代の戦士と戦ってな。彼は魂を奪われたが、この技を見きった。そしてこの技は継承され……今は余が身につけている」


 交差した腕を解き、体勢を立て直す皇帝。


「ソウルスティールは見切っている」


『そ……そんな馬鹿なあ……。なんて確率でてめえとマッチングしちまったんだ……!? まさか、まさかてめえは俺の……』


「貴様の天敵が、余だ。彗星剣!」


 皇帝が剣を掲げる。

 そこに、周囲の呪力が集まっていく。


『い、いやだ! 毎回どんどん扱いが悪くなっていくなんて、俺はこれじゃあ脇役じゃねえか! 俺は主役じゃないのか! そのうち、五花の野郎もぶっ殺して俺がメインに……!! メイン盾に……!!』


「そのうち、などやって来ない……! 食らうがいい!」


 叩きつけられた呪力の流星雨が、呆然と立ち尽くすリッチャーを打ちのめす。


 だんだん話の中での扱いが悪くなっていく男、豊田の、これが最後だった。








『ハイ、トイウワケデー、ワタシ、巻キコマレマシター。イヤァァーぴんちデスー!』


「お前、おちゃらけてはいるがやっぱりどこかで会ったことが?」


 フロントが首を傾げると、ダミアンGが肩をすくめる仕草をした。


『アナタノオ知リ合イハ、私ノヨウナどらむ管ろぼダッタノデスカ? ソンナハズナイデスヨネーHAHAHAHAHA』


「そのはずだ! だが、俺の正義センサーにビンビン反応するのだ! どっちかというとお前は悪寄り……!」


『ゲゲェーッ! ソ、ソンナせんさーガ!?』


「無い。俺の勘だ……」


『オイィ!』


 ダミアンGがフロントに突っ込んだ。


『お前ら、おいらの前で漫才してんじゃねええええ!!』


 ここに飛び込んでくる、漆黒の弾丸。


「ぬおおっ!! アップドラフト!」


 フロントは危うくのところを、強烈な上昇気流を吹かせて飛び上がり、回避した。


『ちぃっ! おいらのところに来たのは、雑魚が二匹かよ! 多摩川かイクサの野郎を狙ってたってのによ!』


 その姿は、巨大なクズリである。

 動物としてのクズリは、小柄ながらも強靭な肉体と旺盛な戦意、鋭い爪と牙を持ち、己よりも大きな肉食獣をも狩る森のハンターだ。

 それが人間サイズになり、さらにはスピードを増している。

 正真正銘の怪物だった。


『てめえら雑魚に名乗るのももったいねえけどよ! おいらの名前を地獄に持っていけや! おいらは業平橋仗助! 今の名は、七勇者ハイランダー・ゲートウェイ様よ!!』


『ウオー、ナント長イ名前デショウカ! 略シテはいげーデドウデショウ』


『おちょくってんのかてめえ!! せめてゲートウェイと呼べ!!』


「キャー怒リマシター!」


 フロントの背中にくっつきながら、ひたすらゲートウェイを煽るダミアンG。


「その粗暴な物言い。他者に敬意を払わぬあり方。お前は、悪だな……!!」


 着地したフロント。

 指先をゲートウェイに突きつけて、問う。


 彼は律儀なのだ。


『はっ! おいらが悪? あのなあ。誰だっててめーが正義だと思ってんだよ。正義の反対はまた別の正義なんだ。今日び、マンガやアニメでいつも言ってるだろ。だからおいらは正義なんだよ。分かったか雑魚』


「分かった。貴様は悪だ!!」


『は!? お前、話を聞いて……まあいい! 死ね!』


「死なん!! 装着! エスプレイダー!!」


 飛びかかるゲートウェイ。

 必殺の気合を持って振り下ろされた鉤爪だった。


 だがそれは、何かによって食い止められている。


 そこにあるのは、青い装甲を纏った腕だった。

 腕の肘から、赤く輝く光の剣が生え、ゲートウェイの爪と拮抗していたのだ。


『な、な、な!? なんだ、てめえはあっ!!』


「混沌の力を持って、人間の限界を超える……! 古代文明が混沌の裁定者に唆されて生み出した、悪の力だ! それを喜び振るう貴様は、紛うことなき悪!! 悪を倒すために生み出されたのが俺! 青の閃撃、エスプレイダーだ!! うおおっ! ゲイルブロウ!!」


 風を纏ったエスプレイダーの拳が、ゲートウェイの腹に叩き込まれた。


『ほげええっ!?』


 叫びながら吹き飛ばされるゲートウェイ。

 だが、彼は空中で体勢を立て直し、四足で着地した。


『はっ! てめえが正義なのか? ヒーロー気取りってわけかよ!』


「俺が正義だ! そして、なるほど。悪を倒すのがヒーローだというなら、俺こそがヒーロー!!」


『正気か!?』


「ヒーローは正気にてならず!! 行くぞ、悪党!!」


『ヨシ、ココハえすぷれいだーニ味方シテ、私ヘノ警戒心ヲトイテモラワネバ!! 助太刀スルゾえすぷれいだー!』


 元悪とヒーローの、妙なコンビが七勇者に立ち向かう!


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