第105話 俺、天空の大盆に乗り込む

 鋼の巨人は撃破した。

 当座の守りはこいつだけらしく、後は無人の荒野を行くが如しなのだ。


 岩山を乗り越え、ひたすら進んでいく。

 鋼の巨人が地面を踏み固めているので、案外歩きやすいぞ。


「あたい、かなりつらい」


 あっ、人魚のロマが弱音を吐いた!


「フタマタ、出番だぞ」


「わんわん」


「あの、お姉さんもいい?」


「わんわん」


 ということで、フタマタ副団長の上にロマとアミラが乗ることになった。

 オルトロスであるフタマタは、女性二人の体重なんてものともしないぞ。


 ちなみに俺達の後ろを、バギーに乗ってイーサワがついてくる。


「イーサワ、戦えないのにいいの?」


「いいんですよ。僕の目当ては、天空の大盆にある持ち帰り可能な遺跡です。これでサンクニージュ大陸の流通に革命を起こせますよ。群島遺跡ではその場に同行しなかったがために、貴重な遺跡から回収できないものがたくさんあったでしょうからね。あの時は悔しかった……」


 彼の戦いの舞台は経済戦争なのだった。

 ならば、うちの団を維持するためにもイーサワには頑張ってもらわねばな。


「ところで皇帝、本当に全くエンカウントが無いんだが?」


「エンカウント? ああ、敵との遭遇という意味か。その理由は簡単だ。我らが鋼鉄兵をことごとく下したからに他ならぬ。あれらがこの地、忌まわしき銀盆へと至り、掻き集めた人間の呪力を銀盆へと注ぎ込むのだよ。そしてそのまま、彼奴らが組み合わさり、新たな鋼の巨人となる」


「なるほど。集合前のスライムを倒したから、キングスライムが生まれてこないみたいなものだな」


「そなた、よく分からぬ例え話をするな」


 日向だけが俺の話に頷いている。

 ゲームはあまりしない彼女だが、スマホゲーだけはやってたらしいからな。


 湧いてくるはずのザコ敵を事前に駆逐し、だからザコ敵が合体して出現する強敵はいなくなり、そして天空の大盆に補給されるはずの呪力はなし、か。

 いい感じだ。


「インペリアルガードだけでは手が足りなかった。まさか、これほどの実力を持った者達が集まってくれるとは。まさしく今が、天空の大盆を落とす運命の時だったのだ」


 皇帝は満足げに笑む。

 そして俺達は、皇帝が言う銀盆とやらに到着だ。


 ああ、なるほど、銀盆か。

 それは正に、キョーダリアス大陸を発つ前に破壊した潜水艦の基地だった。

 そいつが地上にあるようなものだな。


 天空の大盆が飛び続けるための呪力供給源というわけだ。


 世界中にあるのかも知れないな。

 そしてこれを全部破壊すれば、あの大盆はいつか地上に落ちる。

 だが、それがいつになるかは分からない。


 それまでに犠牲が出るかも知れないもんな。


 ってことで、今落とす、と。


 俺達の頭上に影が差す。

 天空の大盆がやって来たのだ。

 それは、下部中央辺りからビームを出してきた。


 それが銀盆に当たる。


「あの光に入るのだ。さすれば、大盆へと至ることができる!」


「トラクタービーム的な何かなのか。よっしゃ、全員、あのビームに突撃ー!」


「オクノ、質問だ。ありゃなんだ」


 オルカから疑問の声が上がった。

 うちのメンバーで常識人なの、オルカとグルムルだし、こういう時に質問してくるのは彼しかいないからな。


「分かりやすく言うと、呪力とか地上にある荷物を天空の大盆まで引っ張り上げるビームだ」


「なーるほど。じゃあ、案外あれを使って、奴ら地上から魚や獣を引っ張り上げてたのかも知れねえな」


「まんまキャトルミューテーションだな」


 そんな話をしつつ、ビームの中へと飛び込む俺達なのだ。

 真っ先に俺が飛び込んだら、これは別に熱いわけでも寒いわけでもない。

 ほんのり温かく、そして俺の体がふわりと舞い上がる。


「オッケー! 俺に続けー!!」


「よし」


「おう」


 皇帝とイクサが俺の後に乗り込んできた。

 イクサと同じ判断速度とは、皇帝、やるな。


「わんわん」


「この子、なんて言ってるんだい?」


「ええと、僕に掴まっててって副団長が」


「マキ、副団長の言葉が分かるのは便利だねえ。むぎゅっと」


「じゃあ私もむぎゅー」


『アッ、ふたまた副団長ガウラヤマシイ! 嫉妬デ目カラびーむガデソウデス』


「オルトロスに嫉妬するロボってのもどうなんだよ」


 フタマタは、ロマとアミラを乗せたままふわっと舞い上がってくる。

 ヒーローは難しい顔をして腕組みをしたまま。

 オルカとグルムルは、おっかなびっくり。

 ルリアとカリナは、どっちが面白いポーズで浮かべるか競争していて、ジェーダイはなんか座禅している。


 日向が乗り込み、最後にラムハが大盆を見上げた。


「いよいよね」


 そして一歩踏み出す。


 オクタマ戦団全員が、天空の大盆へと乗り込んだのだ。


「団長、これどうやら、質量があるほど引っ張られる勢いが強くなるようですね」


「うわっ、イーサワ、バギーごと乗り込んだのか」


「物資を満載しなくてはなりませんので! でも、僕一人では危険なので、団長も乗ってもらえますか」


「仕方ないなあ」


 俺は空中を平泳ぎして、バギーまで辿り着いた。

 そして助手席に乗り込む。

 すると、トラクタービームの勢いが上がったように思った。


 バギーが猛烈な勢いで天空の大盆へと引き込まれる。


 ビームが収まると、俺達は真っ白な大地の上にいた。

 そこは天空の大盆の一角。

 周囲には、古代ギリシャを思わせる建築物が多く立ち並んでいる。


 到着だ。


 ここのどこかに五花がいて、地上を見下ろしながら混乱を振りまいているのだ。

 今度こそぶっちめる。


 あいつとは三度目の会敵だぞ。

 とりあえず、仲間達の到着を待つことにした。


 少ししてから、体重の重い順番にポンポンと、みんなが吐き出されてくる。


 最後になったのはカリナだった。

 一番体重軽いもんな。


「わたしとルリアだけになったので、ちょっとやばいなーって思いました……」


 シリアスな顔で言うけど、その気持ち、よく分かる。

 当のルリアはのほほんとしてるもんな。


「体重の重い順番なの!? ……私、そんなに太ってないはずなんだけど……」


 日向より先に到着したラムハが気にしてるな。

 あなたは胸元とかお尻周りにお肉がついてらっしゃるから。

 誰よりも規律に厳しいけど、実はセクシーなラムハさんだって俺は知ってるぞ。


「さて、到着したわけだが、ここから先の地図などは余も持っていない」


 皇帝がぶっちゃけてきた。


「つまり、しらみ潰しに大盆の根幹部を探していくことになろう。そして、これを操る輩も探り出し、倒さねばならん。さらにだ。考えなしに大盆を破壊すれば、我らは地上に叩きつけられて一巻の終わりとなる。大盆を地上へと、軟着陸させる必要もあろう……!」


「課題いっぱいだな。でもそういうの好き」


 俺はワクワクしてきた。

 まずは優先順位をつけようか。


「五花達を見つけてぶっ飛ばす。これは速攻だな。だって、これをやっても天空の大盆への影響が無い。探索はその次じゃないか? あと、みんなに提案。あいつらはデュエルって言って、タイマンを挑んでくる。一対一で勝つ自信がない奴は前に出ないか、二人以上でなるべく固まった方がいい」


 俺が見るに、七勇者とのデュエルが可能なのは……。


 俺、イクサ、皇帝、ヒーローはちょっと不確定要素が強い。

 あと、ルリアかな。

 日向はもうちょっと仕上がらないと無理かな。

 フタマタもイケルと思うけど、今は女子二人を上に乗せてるしな。


 ん?


 じゃあデュエルできそうなのは五人。

 七勇者の残りも五人。


 おやおや、何という符号であろうか。

 これはフラグだぞ。そして大抵、このフラグは回収されるのだ。


『ようこそ! 愚かなる人間代表諸君!!』


 天空の大盆に、憎らしい声が響き渡った。

 五花の声だ。


 あいつはどこからか、俺達を見ているのだ。


『まずはひとりひとり、君達を始末していくとしよう! 僕の率いる七勇者が、お相手する! さあ、行くがいい!』


 あちこちの建物や彫刻、広場が輝く。

 そして、そこに見覚えのある奴らが出現した。


 元クラスメイト連中だ。

 そいつらの顔はなんか邪悪な愉悦に歪んでいる。


『デュエル!』


 奴らが叫んだ。


「はい、じゃあイクサ! 皇帝! ヒーロー! ルリア! お互いあっちとこっちとそっちとあちらに行ってね! 俺こっち行くわ!」


 俺も速攻で指示する。

 インペリアルガードのジェラルドが不満そうにしていたが、デュエルに関しては俺がプロなのだ。

 任せて欲しい。


「ヒーローとは俺のことか?」


『おくのサンガ言ッテルダロアアーン?』


 妙にオラついたダミアンGが、ヒーローこと石神フロントの背中を押していく。

 あ、お前らそれじゃあ。


 広がったデュエル空間が、ダミアンGとフロントを飲み込んだ。

 はえー。

 二人一気にいけるんだなあ!


 俺はよそ見ながら、最も近くに出現した七勇者の方向に歩いている。

 そいつは名前も覚えているやつだ。

 何しろ、俺がこの世界に来てから最初にステータスを見た二人のうちの一人だからな。


「よう、熊川来賀くまがわらいが


「何度見ても信じられんが、お前が本当に多摩川か……? 俺と変わらないくらいの体格じゃないか」


 クラス一の巨漢、熊川来賀。

 確か最初にステータスを見た時は斧使いだったと思ったが……今は無手だ。


「まあ、色々あってな。おたくも体術に転向したの?」


「そういうわけじゃない。必要なくなったんだ。では、行くぞ!」


 熊川が身構える。

 俺も構える。

 さあ、デュエル開始なのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る