第68話 俺、海賊王を追い詰める

 遺跡の中にあったのは、罠ばかりではなかった。

 宝箱とか。

 もちろん、罠は掛かってたので俺が無理やりこじ開けて罠を浴びる。


「毒の煙だー!」


「毒消しの水!」


「麻痺の煙だー!」


「毒消しの水!」


 アミラ大活躍。

 毒消しの水、あらゆるバッドステータスを治癒できるんだなあ。

 便利すぎる。


 そこで発見したのは、一見して宝石のたぐいだ。


「イーサワが売ってた宝石に似てるわね」


 ラムハがそれらを手にとって眺める。

 砂蟲に飲み込まれたのを、俺たちが回収した宝石。

 あれはこの遺跡から発掘されたものだったんだろうか。


 普通の宝石に見えたけど。


「この宝石、呪力が込められてるわね。呪法を使う助けになるか、宝石その物を使い捨てて込められた呪法を使うかできそう」


「なるほど、それならラムハとアミラが宝石担当な」


 二人に宝石をじゃらじゃらと渡すと、ルリアが「ずるーい! あたしもほーしーいー!」と暴れた。


「だけどルリアは呪法が使えないだろ……」


「使えないけど欲しい……!!」


 すごく物欲しそうな顔をする!

 うーん。


「じゃあ、この小さいのを」


「やったー!!」


 ルリアが満面に笑みを浮かべて、宝石を懐にしまい込んだ。

 彼女の後ろには、カリナと日向が並んでいる。

 どういうことだってばよ。


「オクノさん。女性に宝石を与えたということはそういう意思決定だと見られますよ。さあわたしにも宝石をください」


「あのー、私もほしいなー」


 ええい、女子たちめ……!

 俺が順番に宝石を手渡していると、この光景をオルカがニヤニヤしながら眺めていた。


「オクノ。一人や二人にだけやったら、そりゃあ嫉妬ややっかみが出てくるわな。お前が誰かに決めるつもりがないなら、平等にやっとけ、平等に」


「呪法が使えないメンツが多いんだが」


「有利不利は置いておいて、平等にしとけばいいんだよ。戦闘になったら団長権限で使わせたり交換させたりすりゃいいだろ」


「なるほど!」


 さすがはオルカ、年の功だ。

 今後はそうしよう。

 だけど、あんなに喜んでいる女子たちから宝石を取り上げるのは……うーむ。


 やがて俺は考えるのをやめた。


 先に進もう。


 遺跡を歩いてみて感じたことは、ここの作りにはテーマがあるなということだった。

 なんというか、常にランダムな要素が発生する。


 ラムハが歩かなければ、罠が発生しなかったり。

 ルリアが先行すると宝箱が見つかったり。

 

 ただ、それも良し悪しで、たまに固定イベントみたいにしてモンスターが配置されていたりするのだ。

 ルリアだけを先行させると、モンスターとぶつかってしまう。

 そしてラムハを置いてきぼりにすることはできない。


 なかなか加減が難しい。


「遺跡自体がギャンプルみたいな作りをしてるんだな。グルムル、マッピングはしてるか?」


「はい。こちらに」


 おお、優秀なグルムルが、オルカの言葉に応じて紙を差し出してきた。

 そこにあるのは、俺たちがこれまで歩いてきた道のりだ。


 遺跡の形は迷路のようになっており、ところどころに行き止まりがあった。

 行き止まりを壁として見てみると……外壁が弧を描いているのが分かる。

 もしかしてこの遺跡、丸い形をしている?


 さらにしばらく歩くと、ゴールらしきものが見えてきた。

 それは一見して、床全体の色が違う領域。

 先端は三角形に尖っており、そこに台座があった。


「シン・コイーワはそこにいるな」


 他に逃げ場はない。

 何を考えて、俺たちを地下遺跡に誘い込んだのかは分からない。

 だが、あそこが決戦の舞台になるはずだ。


「じゃあみんな、陣形の準備! 今回は、パーティの仲間が多いので陣形を二つに分けまーす」


 俺は宣言し、仲間たちを大きく分ける。


 単独戦闘力が大きいグループ。

 こっちには、イクサ、フタマタ、グルムル、ルリア、日向を配置。

 放っておいてもなんとかするであろうグループだ。


 リーダーは陣形システムを一番理解していて、賢さのそれなりに高いフタマタ。


「頼むぞフタマタ」


「わんわん!」


 よしよし。

 ルリアが、解せぬ、という顔をしている。


「オクノくん、どうしてワンちゃんがリーダー?」


「ルリアよりも何倍も賢さが高いからだよ……」


「ううっ! じゃ、じゃあせめてグルムルさんは」


「私は陣形をよく知りませんから。フタマタさんに任せるのがいいでしょうね」


「わんわん!」


 おお、グルムルからの援護射撃だ。

 ルリアは「うぐぅ」と唸って静かになった。

 君の単独戦闘力を認めてそっちに配置したんだから、評価はしてるのだが!


 ちなみに日向も異存はないらしい。イクサは多分何も考えてない。


 そして俺の側。

 俺とオルカで壁になり、カリナ、ラムハ、アミラを後衛にしたフォーメーションだ。

 後衛の支援を存分に受けながら、俺とオルカの攻撃力で押し切るスタイルだな。

 こっちの方が色々応用や変化もつけられそうなので、俺の指揮が必要だと考えた。


「では、この方向でいきまーす。全員進めー」


 わいわいと、ゴールの台座に登り始める俺たち。

 全員が上がりきったところで、台座が光に包まれた。


 ふわーっと台座が浮かび上がり、上昇していく。


 これ、エレベーターか!


 結構な距離を登っていくエレベーター。

 明らかに、海賊王の砦から地下に下った階段よりも、長い距離を上昇した。

 そこに、戦いの舞台があった。


「ようこそ、恐るべき侵入者よ」


 俺たちを出迎えたのは、海賊たちを従えた大男だった。

 量の多い赤毛で、それがもみあげと髭で繋がっている。


「俺の首を狙ってきたんだろう? そうだ、俺がシン・コイーワだ」


「シン・コイーワ。ここがてめえの死に場所だぜ」


 オルカが殺気を漲らせる。

 やる気満々だ。


「落ち着けよオルカ。俺が直々にお前は殺してやる。だが、まずはこの素晴らしい舞台について説明しようじゃねえか」


 シン・コイーワが俺たちの足元を指差す。


 おや!?

 足場が透けてない、これ?


「ここから、地下遺跡が一望にできるんだ。こいつは失われた古代文明の遺跡……その名も、神のルーレットと言う」


「ルーレット!?」


 見下ろせる地下遺跡の迷宮が、変化していく。

 壁が畳み込まれ、平坦な床になり、幾つかの大きな壁で区切られた正しくルーレットの形に。


「迷宮を抜けた勇者たちを、ルーレットが決定するランダムな戦場がお迎えするってわけだ。混沌の裁定者とやらの趣向は狂ってやがるな」


 シン・コイーワがにやにやと笑う。


「おたくも混沌の裁定者ってのを知ってるの?」


「知らないわけがないだろう。古代文明が呼び出した異世界の神みたいな奴だ。古代文明はこいつにそそのかされて四つの遺跡を作った。そして滅びたんだ。混沌の裁定者の誘うゲームに乗ってな」


 ほうほう。


「ってことで、俺たちもゲームを始めようや。お前のことは、七勇者からよく聞いてるぜ、多摩川奥野。……話に聞いてたよりも、ずっと落ち着いてるが。なるほど、あいつらがてめえに勝てねえわけだぜ」


 シン・コイーワ、たくさん情報を話してくれるなあ。

 だけどそろそろ、打ち止めかな?


「はい! 海賊王、そろそろ攻めてよろしい?」


「……俺の挑発に乗ってこねえやつだなあ。シーマが調子を狂わされて表に出てきちまうのも分かる気がするぜ」


 おや、シーマともお知り合いか。

 この人はただの海賊王ではないな。

 色々な伏線がこいつに集まってると見た。


「よーし、戦闘開始! 海賊王国をぶっ倒すぞ!」


 俺は開戦を宣言する。


「ああ、分かった! お前か! お前が、コールを継ぐ本物か! 本物の英雄ってやつかあ!」


 シン・コイーワが笑う。


「いきなり出てきやがったな! ははははは!! そりゃ気づかねえよ! 気がついたらてめえの戦場にいて、馬鹿見たいな速度で俺たちが時間を掛けて築き上げた王国を、軍勢を、戦争をぶち壊していきやがる!! わはははは! てめえは、とんでもねえ怪物だ!! ここで殺さなきゃ、メイオー様までたどり着いちまう!」


 海賊王が両手を上げて、海賊たちに命令を下した。


「総攻撃だ! 海賊王国なんざどうでもいい! こいつらをここで仕留めない限り、俺たち・・・に明日はねえ! 混沌裁定者でもなんでも、その力を使ってこの怪物を止めるぞ!!」


 怪物って俺のこと?

 なんと人聞きの悪い。



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