第69話 俺、ルーレット遺跡を回す

 神のルーレットというのがどういうものなのか。

 戦ってみたらすぐに分かったのだ。


 回転するルーレットの中を、でかい玉がゴロゴロ転がる。

 そして、赤字に9と書かれたポケットにゴロンと入った。

 すると俺たちが立っている戦場が、真っ赤に燃え上がり始める。


「うわー、暑い暑い」


 灼熱の戦場だ。


「アミラ、何か水の呪法ない?」


「水の呪法……あ、確か最近、新しいのが使えるようになったよの。フタマタちゃんに教わったの」


 フタマタ!

 あのわんこ、有能だな。


名前:アミラ

レベル:34

職業:水の呪法師


力   :22

身の守り:21

素早さ :55

賢さ  :93

運の良さ:31


HP197

MP218


鞭5レベル

水の呪法13レベル

✩鞭

・スラッシュバイパー・二連打ち・グランドバイパー

・カウンターウィップ

★水の呪法

◯癒やしの水◯毒消しの水◯力の水

◯ウォーターガン◯アクアバイパー◯ウォーターバリア



 ウォーターバリア!

 いいね!


「よーし、じゃあ行くわよ! みんな、お姉さんの力を受け入れてー! ウォーターバリア!」


 水の防御膜が俺たちを包み込む。

 そして、戦場の後ろの方にそっと置いてあったジェーダイも包んだ。

 フォローが行き届いている。さすがアミラ。


 熱による影響を軽減しながら、海賊たちと戦うのだ。


「即座に対応しやがったか! やるな! だが、それはこちらも同じでな! そして炎の戦場では、炎の効果が上昇する! こういうことだ! ヘルファイア!」


 シン・コイーワが呪法を使った。

 炎の呪法が猛烈に燃え上がり、俺たち目掛けて襲いかかってくる。


 ウォーターバリアがじゅうじゅうと音を立てた。 

 やべえ、蒸発してる!


 向こうでは、フタマタに率いられた陣形が海賊たちを迎え撃っている。

 海賊たちは、シン・コイーワからの支援みたいなものを受けてパワーアップしているようだ。


「あばばばばばば!」


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


なんか泡を吹いたり白目剥いたりしながら攻撃してきてるけど、あれは大丈夫なのかね。


「ありゃあ、シン・コイーワが使う薬の力だな。人間を狂戦士に変えちまうんだ……! しかも、一度ああなったらまともには戻らねえ。使い捨ての兵士を作る薬だ」


「えげつねー」


 しかし狂戦士の力は大したもんだ。

 人間の潜在能力を全開にしているようで、真っ向からイクサに襲いかかり、あいつの反撃を数人がかりで受け止める。

 あっ、受け止めたと思ったら武器ごと全員真っ二つに叩き切られたぞ。やっぱり駄目だなああれ。


「ああ、イクサは化け物だろあいつ。あれ相手じゃ薬を使っても無駄だな……」


 イクサ以外には善戦できているのかもしれない。

 比較的弱そうなルリアに集団で襲いかかり、


「スウィング!」


 あっ、まとめて麻痺したぞ!


「わんわん(死の牙)」


 片っ端からフタマタが仕留めていく!

 そして離れたところには、グルムルがミヅチで水をまとった槍の呪法技を叩き込んでいく。

 他の周囲は、日向が担当だ。


「ていっ、ていっ、えーいっ、空気投げ!」


 数を捌くために、一撃必殺技は使えない。

 だが、日向が捌いた海賊を、ばっさばっさとイクサが叩き切っていく。


「雑魚は任せろ。オクノ、そいつはお前がやれ!」


 イクサの声が聞こえてきた。

 頼もしい!

 俺たちはシン・コイーワに一直線だ。


「残念だったな! ルーレットの時間だ!」


 シン・コイーワが叫ぶ。

 足元の文字盤がまた回転し始めた。

 今度は、緑地のところに玉が落ちたぞ!


 すると、猛烈な風が吹いてきた。

 うおー、これは前に進みづらい!


「ええい、プレイヤーにストレスを与えるような戦場ばかり用意しやがって! 作り手の満足とプレイヤーの満足は違うんだぞ!」


「何を訳の分からんことを言ってやがる! お前らには向い風、俺には追い風! ははは、どうだ、近づけまい!!」


 なんて汚い奴だ、シン・コイーワ。

 地形を巧みに利用して攻撃してくる奴は初めてだ。

 なかなか厄介だぞ。


「オクノ、相手の用意したステージに立たなくてもいいんじゃない?」


 ここでラムハからのアドバイスだ。


「と言いますと?」


「あなた、いつも自分がしたいように戦うでしょ? 頭を柔らかくしたらいいのよ」


「なるほど」


 いきなりルーレットの戦場なんて出されたから、混乱していたぞ。

 俺がこんなルールに付き合わなければいけない理由など無いじゃないか。


「イクサ! フタマタ! 海賊を一人こっちに放り投げて!」


「よし」


「わおん!」


 イクサが海賊を殴り倒し、それをフタマタが咥えて俺目掛けて放ってきた。

 強風で後ろに流されそうになるそれを、俺はキャッチする。


 そして……!


「右手に幻炎術! 左手に雷幻術! 行くぞ、サンダーファイヤーパワーボム!」


 俺は上空高く飛び上がり、海賊に炎と雷を纏わせながら、透明な地面目掛けて全力で叩きつける!


「ウグワーッ!! オーバーキルーッ!!」


 哀れ海賊は爆発四散。

 だが、その甲斐あって透明な床にでかい亀裂が走る!


「なにっ!?」


 シン・コイーワが初めて慌てた。


「何をする気だ、お前!」


「エルボードロップ! 床、割れろー!!」


「や、やめろーっ!! 貴重な遺跡なんだぞ!!」


 海賊王が何を常識的なことを言っているのだ。

 それに、エルボードロップは急には止まらないのだ。

 俺のエルボーが床の亀裂に突き刺さると、それを大きく広げた。


 バリバリと床全体が音を立てる。


「十六夜!」


「エイミング!」


「ベアクラッシュ!」


「バードハンティング!」


「闇の衝撃!」


「ウォーターガン!」


「浴びせ蹴り!」


「ミヅチ!」


「わんわん!」


 そこに、八人と一匹がさらに攻撃を加えた。

 全てが全て、常識外の威力を持つ技だ。

 壊れかかった床が耐えられるはずもない。


 遺跡の床はあっという間に崩れ始めた。

 大きな瓦礫が降り注ぎ、ルーレットを埋めていく。


「ルーレットが! 神のルーレットが!! まともに働くこともなくいきなり破壊された!」


 シン・コイーワの叫びが聞こえてくる。

 俺たちはそれどころではない。

 自分たちの足場を崩したので、無事に着地せねばならないのだ。


「陣形、玄武陣二つ! 全体の防御力を上げて落下に備えまーす!!」


 俺が宣言し、二つのパーティに陣形を組ませる。

 そして床の完全な崩落。

 落下はしたものの、その衝撃は陣形効果で大きく減衰させることに成功した。


 よしよし!


 ストレスフルな舞台装置など、ぶっ壊してしまえばいいのだ。


「イクサ、その玉をぶっ壊しちまえ! 二度とルーレットなんかさせんぞ」


「良かろう。十六夜!」


 巨大なルーレットの玉が真っ二つになった。

 オルカが思わず天を仰ぐ。


「売れば絶対いい値段になったろうなあ……勿体ねえ……。だが、しゃあねえやな」


 この辺、割り切りが早いのはいいことだ。

 全てはシン・コイーワをやっつけるためだからな。


 ちなみに俺たちが床を破壊した衝撃は、海賊王国がある群島全体にも波及しているようだ。

 天井が徐々に崩れ始めている。


 おやー?

 遺跡その物が壊れちゃう?


 そして、俺はハッとする。


「やっべ、ジェーダイ床に置いておいたまんまだった!!」


 これは死んだな。

 俺は残念な気持ちとともに頭上を見た。

 すると……。


「あっ!! ジェーダイが突き出した瓦礫に引っかかってる!」


 服の襟元が引っかかり、ビームサーベル使いがぶらぶらとぶら下がっていた。

 だが、今にも落ちてしまいそうだ。


「みんな! 今からシン・コイーワが来ると思うが、少しだけ食い止めていてくれ!!」


「は? お前、どこに行くつもりだ」


「ジェーダイを助けに行く! ここでビームサーベル使いを失うのは惜しい……!」


「なんであいつのことそんなに気に入っているんだよ……」


 オルカに呆れられた。


「オクノの判断は、今まで間違ってなかったもの。今回も運命の神様の導きかも知れないわね。行ってらっしゃい」


「サンキュー、ラムハ!」


 俺は彼女に礼を言うと、突っ走った。

 壁を駆け上がり、今にも落っこちそうなジェーダイを……キャッチ!


 日焼けスキンヘッドの精悍な男をお姫様抱っこだ!

 そして、ようやくジェーダイが目覚めたようだ。


「むっ……我は一体、どうしてこんなところに……? そして何かに支えられているような」


「おはようございます」


 俺が挨拶すると、彼は目をぱちくりさせた。


「おはようございます」


 律儀に返してくる。

 そして、少し考えてから、また俺を見た。


「……あれ? 我はお姫様抱っこされている……? そしてお前は……確か……海賊王国を襲撃してきた……! な、な、なんだこの状況はーっ!!」


 正気に戻ったか。


 そして同時に、シン・コイーワも戦場にやって来ている。

 奴は俺とジェーダイを見ると、怒りに顔を歪めて吠えた。


「おのれ、多摩川奥野!! てめえに余裕を見せたのが俺の間違いだった! ここでてめえは確実に仕留める! そうじゃなきゃ、てめえは絶対にメイオー様に辿り着くだろう! しかも、俺の腹心だったジェーダイまでたらしこみやがったか!」


「えっ」


 ジェーダイがびっくりしている。


「ちょっと待ってシン・コイーワ殿」


「ジェーダイ、裏切り者が! ここで諸共にぶっ殺してやる!」


「な、なんでーっ!?」


 かくして、新たな仲間ジェーダイを加え、対シン・コイーワの二回戦が始まるのだ!


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