第52話 俺、砂漠を渡る
昨日は、日よけのフードだけで一日砂蟲狩りをやるという状況だった。
イーサワ的にはこれは狂気の沙汰なんだそうで、たまたま俺たちのステータスが高かったので、日差しによるダメージに耐えられただけらしい。
今回はちゃんと備えていくぞ。
まずはラクダ。
水や食料を運ばせるので二頭でいい。
日差しよけの服装。
これは昨日と同じやつでいい。
足元だけ、砂が入り込まないタイプの靴に変えて……。
よし。
昨日とほぼ同じ格好だ。
「あれえ」
「うーん」
ルリアと日向が並んで首を傾げている。
「私たちの格好、砂漠でどうこうやるには良くなかったのでは?」
「いやー、思ったよりいじれる部分が少なくてですね」
ラムハに突っ込まれて、笑って誤魔化すイーサワ。
じーっとラムハに見つめられ、イーサワの顔に汗がたくさん浮かぶ。
「あやしいぞー」
俺がじろじろと見ると、イーサワは誤魔化しきれなくなったようで、わざとらしく笑った。
「いやあー。ラクダ二頭と向こうのでの売り物を仕入れるのに、ほとんどお金を使ってしまいまして! 皆さんの装備は最低限しか用意できなくなりました! わっはっは!」
「はっはっは、そりゃあ仕方ない」
俺も笑った。
正直に言うのはいいことだ。
ラムハは呆れて肩をすくめている。
「んー、お姉さんは日焼けに強いからいいけど……ラムハは肌が真っ白でしょ? 焼けたら痛いわよ?」
アミラが心配している。
うちのパーティ、ラムハが肌が真っ白で、アミラは濃い目の小麦色の肌、カリナは日焼けした感じの肌色、ルリアは普通。
イクサは意外にも肌が白い。
ちなみに俺と日向とカリナがモンゴロイド系っぽい。
「大丈夫よ。私の肌はみんなとは違うから」
なんかそれっぽいことを言うラムハである。
とりあえず、日焼けが気になりそうなラムハとイクサには、日よけの布を多めにかけることにした。
「ぬう、これでは動きづらい……」
不満を言うイクサだ。
こいつ、昨日の戦いで結構日焼けしている。
鼻の頭とかが真っ赤だ。
「いいかイクサ。お前が変にダメージとか受けたら大変なのだ。意外と日差しもダメージになったりするんだぞ」
「なにっ!!」
びっくりするイクサ。
「ならばこの装備も仕方ないということか……」
おお、大人しく受け入れた。
「わんわん!」
「フタマタは大丈夫だなー。おー、よしよしよしよし」
もりもりとフタマタを撫でて、いよいよ出発だ。
岩石砂漠へと繰り出すのだ。
商人たちが使う砂漠の道が長く長く伸びている。
ここから外れなければ、底なし流砂にはまることや、砂漠で迷ってしまうこともなくなるだろう。
さて、楽しい楽しい砂漠の旅だ。
「まさかこの世界に来たときは、砂漠を横断することになるなんて思ってもいなかったなあ」
日差しの下をてくてくと歩く。
強い日差しがあると、肌を全く出さない格好の方が涼しいんだな。
すぐ横を、頭から布をかぶってシーツのお化けみたいになったラムハが歩いている。
俺の視線に気付いたみたいでこっちを見た。
「どうしたの?」
「いやー、シュールな格好だなーと思って」
「いいでしょ。みんなが心配してくれたんだから、これはこれで私は気に入ってるのよ」
「うんうん、なんか可愛くていいんじゃない」
「あら、オクノから褒め言葉が飛んでくるなんて思わなかったわ」
砂粒を含んだ風が吹いてくる。
これは身を低くしてやり過ごす。
あるいは岩陰に隠れる。
日陰に入ったところで昼食にした。
商人の町で買ってきたお弁当だ。
砂漠は乾燥していて、菌の類がほとんどいないっぽい。
なので保存食じゃない普通の食べ物。
パンに肉を挟んだやつをもりもりやる。
水をグビグビ飲む。
「イーサワ、どれくらいで砂漠を抜けるの?」
「ええ、普段はモンスターの襲撃を警戒してゆっくり進むので、それなりにかかるのですが……。我々は今、かなりのハイペースで旅をしています。恐らくこれなら三日もかからずに砂漠を抜けるでしょう」
砂漠の道は、このイシーマ砂漠の一番細くなっている部分を抜けるようになっているらしい。
だから、最速なら三日で横断できるのだとか。
「えーと、昼間に10キロ歩いているとすると、三日だと30キロか。結構広いような狭いような」
「砂漠の道を使わなければ、十日かけても横断できないと言われています。イシーマ砂漠は広いですよ。キョーダリアス最大の砂漠ですから」
ほー。
正攻法だと大変なのか。
たまたま、俺たちだから早く抜けられるというだけらしい。
「財力がある商人は、船を使って大回りで抜けていきますね。この場合は商人の町を経由しません。直接王国か帝国に乗り付けます。まあ、ここも最近は海賊たちに封鎖されていて、自由には使えないようになっているんですけどね。お蔭で、王国と帝国は経済的に余裕がなくなっているとか」
「そうね。帝国はフロンティアに活路を求めて、王国はカリカリステップに手を伸ばしてる」
「あれ? なんか色々つながってない?」
「それはもちろんつながってるわよ。世界が続いているのだもの」
ラムハが当たり前じゃない、という顔をする。
いや、フードに覆われてて顔は見えないから、目元だけで察してるんだけど。
「その海賊の封鎖ってさ、結構長いの?」
「海賊の王と名乗るシン・コイワーが現れてからですね。バラバラだった海賊をあっという間にまとめ、海賊王国とでも言えるような国をアドバード海に作り上げてしまいました。都市国家群は、これといつも戦っていますよ」
「ははあ、こっちでも戦争が起こっていたのか」
「積極的に関わらなければ問題ないと思うけどね。私たちの力なら、海賊船の一隻くらいは相手にならないでしょう?」
そこはラムハの言うとおりだ。
だけど、これはどうも気になるな。
そのシン・コイワーというやつは、なんか単純に野心に駆られて海賊をまとめたのか?
結果として王国と帝国は戦うことになったし、帝国の中ではさらに戦争を煽っていた呪法師シーマがいた。
うーむ。
うーむ……。
シーマが邪神の手下で、邪神は戦いの神で、人間が争うほど復活しやすいとかだとすると。
このシン・コイワーか、そいつの近くにいるやつもシーマと同じような邪神の神官だったりするのでは?
「何やら、陰謀のにおいがするのだ」
「あら。オクノはアドバード海のいざこざに首を突っ込むつもり? 宝探しはいいのかしら」
「それはそれでやる。でも、そのついでに悪そうなのをぶっ飛ばしてもいいだろ」
「あなたは私たちのリーダーだわ。そのあなたが決めたことなら、私は従う」
おお、なんかラムハの声が優しいぞ。
顔が見えないのが残念だ。
やがて、砂漠は夜になった。
夜の砂漠は冷え込むので、日差しを遮ってくれていた布の覆いが今度は毛布代わりになる。
とても合理的だ。
テントを張って、岩陰で休むのだ。
「オクノくん! マキ! 外! 出てきてー!」
ルリアの歓声が聞こえた。
呼ばれて出てみると、彼女が空を見上げている。
そこにあるのは、とんでもなく輝く星空だった。
遮るものも、地上の光も何もない。
砂漠の空はとても広い。
その全てが星だった。
雲ひとつ無い。
「すげえー」
「すごい……。私、この世界に来てから、こんな風にちゃんと星空を見ることなんか無かった……」
「イシーマ砂漠には雲がかからないんです。稀に雨が降るときを除いて、ですけどね。だから、満天の星空はここの名物ですよ。まあ、体が冷えますからほどほどにして戻ってきて下さい」
「おーう」
イーサワに適当に答えて、俺はルリアと日向と、ぼーっと星空を見上げるのだった。
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