第41話 俺、決着をつける

 人目も何もあったものじゃない。

 帝国軍のど真ん中で、呪法師シーマが正体を現してしまった!


 なんと、邪神教団の幹部どころではなく、邪神の眷属みたいなやつだったのだ。


「いや、神官だって言ってたから一応幹部なのか。最初から敵のボスクラスが近くにいたとはなあ……。お約束といえばお約束だけど」


 俺はつい感心してしまった。

 そしてこの隙を衝いて五花が全力疾走で逃げ出している。


「あっ! おいこら待て!」


「覚えていろ多摩川!! この恨みは忘れないからなあっ!! 僕の野望の邪魔をしやがってええええ!!」


 なんという捨て台詞だ。

 でも、俺も陣形を覚えてなかったら危なかったな。

 正直追撃したいところだけど……。


『よそ見をしている暇はあるまい? わしは実に愚かじゃった。お前が逃げた時、無力な男になぞ何もできぬと思っていた。じゃが、お前のステータスを見た時に判断しておくべきだったのじゃ! あそこで殺しておくべきだったと……!!』


 シーマが空に掲げた手に、明らかに禍々しい色の光の玉が生まれる。

 紫色の刺々しい感じだ。


『イビル・ボール……!』


 玉が、ぽいっと地面に投げ捨てられた。

 兵士たちのど真ん中だ。

 それが炸裂すると、地面が爆ぜた。


「ウグワーッ!!」


 悲鳴を上げて兵士たちが吹き飛んでいく。


「玄武陣! 防御、防御ー! カリナはうちのクラスの子を下がらせてー」


「はいっ! あなた、後ろに逃げて下さい!」


「う、うん!! まさかシーマさんが化け物だったなんて……!」


 日向マキは青い顔をして逃げていく。

 そして陣形に加わっていないカリナは、玄武陣の後ろに置くことで守るのだ。


「ブロッキング!」


 隣のイクサは自分でなんとかするだろうから、俺はとりあえず相手の呪法を防ぐことに注力する。

 ディフレクトやパリィでは、呪法に対抗できない。

 こういうときもやっぱりブロッキングなのだ。


 衝撃が止むと、辺りの見晴らしが良くなっていた。

 帝国兵がまとめてなぎ倒されたのだな。


 もう、戦場は戦うどころではない。

 しんと静まり返って、誰もが俺たちとシーマがいるところに注目している。


「見られてるけどいいの?」


『あれを平然と耐えきるか……! 呆れたタフネスなのじゃ。ふん、雑兵どもに幾ら見られたとて構わぬ。皆頭の中をいじれば良い。勇者の力を使えば、人を操るなど造作も無いことゆえな。だが、問題はお前たちのような人の枠を飛び出てしまった者よ! 英雄コールのように、人では成し得ぬ所業を成し得てしまう、お前たちがもっとも危険なのじゃ!』


「ははあ、もしかして俺やクラスの連中が召喚されたのは、そういうのに対抗するため?」


『察しが早い……。お前、バカでもないようじゃな。思えば、わしが召喚した中でもっとも優秀なのがお前じゃったな……!』


「そりゃどうも。カリナ、あれ撃ち落として」


「はい! バードハンティング!」


 放たれた矢が唸りを上げる。

 飛んでる敵に特別よく効く技だ。


『わしに矢を放つだと? こんなもの……ぬおーっ!?』


 シーマはバリアみたいなのを張ってこれを防ごうとしたが、カリナの矢はドリルのように回転しだし、このバリアに深々と突き刺さる。

 なおもぐりぐりと進んでくる。


『こ、これは……!』


「飛んでる奴特効の技だぞ! カリナ、もう一発!」


「はい! バードハンティング!」


『ぬおーっ!!』


 シーマが悲鳴を上げた。

 そして、慌てた様子で地面に降りてくる。

 よーしよし、技が届くぞ。


『お前ら……イクサとそこの変なの以外も要注意じゃったか……!!』


「そうだぞ。はい、陣形変更! 攻め攻めでいきまーす!」


 俺は仲間たちに指示をする。


「アミラ中心、他四人で集中攻撃! 朱雀陣!」


 陣形が変わる。

 中心とした一人を除く、四人の攻撃力をあげる陣形だ。


「闇の魔槍!」


 ラムハが呪法を放った。

 漆黒の槍が飛び出して、シーマを襲う。

 これはギリギリ、バリアで防いだシーマ。驚きに目を見開いた。


『バカな、そちら側の人間が闇の呪法を使えるはずがない……! そ、その指輪は……! まさか、まさかお前は……あなた様は……!』


「あいつ、なんかフラグみたいなこと口にして怯んだぞ。連携で押しつぶしてやれ!」


「オクノくんが言うことは意味わからないけど、何をすればいいかは分かったよ! えーい、エイミング!」


 ルリアが突き進み、槍を放つ。

 これもバリアで防ごうとするシーマだが、エイミングはルリアが使用した時に限りチート技になる。

 絶対命中だからバリアは効かないよ!


『ぐえー! イビルバリアを避けてきたじゃと!? イビルガード!』


 防御無視だからガードも効かないよ!


『ぐえー! なんじゃこれーっ!!』


 そして、ルリアがピカーンと光った。

 彼女から光の線が伸びる。


「力の水をオクノくんへ!」


 水の呪法が俺にかかる。


「十六夜!!」


 アミラから伸びた光の線を受けて、イクサが大技を放つ。

 連携の効果で、十六夜の隙はなくなっているのだ。

 そして俺。


「スライディングキック!」


 ずざーっと地面を滑りながら、十六夜でダメージを受けたシーマの足を刈り取る。


『フェニックスドライブ・エイム力十六キック』


 エイム力が十六!!

 もう少しで十六文になるところだったな。


『ぬわーっ! おのれ、おのれーっ!!』


 地面をごろごろと転がるシーマだ。

 おお、陣形での四連携を受けても倒れない!

 こいつは本当に強いぞ。


『わしが地に手をつくなぞ、何百年ぶりか……! 危険過ぎる、お前ら……!! イビルストーム……!』


 シーマが再び呪法を使った。

 広範囲のやつっぽくて実にやばそう。

 紫色に輝く嵐が起こり、戦場を飲み込んでいく。


「ウグワー!」


「ウグワー!」


 帝国兵たちも飲み込まれて、結構な数が巻き上げられていく。

 大惨事だ。

 これは、陣形に入ってないカリナがやばい。


「俺が受け止めねばなるまいっ! こういう時は来るもんだろ……!」


 ピコーン!

『ワイドカバー』


「来たーっ! おりゃーっ!」


 俺は両手を広げて、嵐の前に立ちふさがる。 

 仲間たちを攻撃するはずだった紫の嵐は、俺だけに集中攻撃だ。

 いたた!


「癒やしの水!」


 後ろでアミラが回復の呪法を使ってくれる。

 ありがたや。

 だが、この仲間全員をカバーする技、結構な技Pを使ってしまうようだ。


 閃いた瞬間は消費無しで使えるが、シーマはなんと、この嵐を連発してきた。

 俺は連続でワイドカバーを使い、これを受け止めることになる。


 ステータス的にはこう。


名前:多摩川 奥野


技P  :23/706

術P  :308/308

HP:241/733


アイテムボックス →

※カールの剣

※祭具・ローリィポーリィ


✩体術         →

・ジャイアントスイング・ドロップキック・フライングメイヤー

・バックスピンキック・ドラゴンスクリュー・シャイニングウィザード

・フライングクロスチョップ・サンダーファイヤーパワーボム・エアプレーンスピン

・ブロッキング・ラリアット・ブレーンバスター

・エルボードロップ・アクティブ土下座・スライディングキック

・ナイアガラドライバー・パリィ・ワイドカバー


★幻の呪法

◯幻炎術◯幻獣術◯雷幻術

◯幻影魅了術◯幻氷術◯水幻術

★陣形・陣形技      →

・青龍陣/ドラゴンファング

・白虎陣/タイガークロウ

・朱雀陣/フェニックスドライブ

・玄武陣/タートルクラッシュ


 今までに無いくらいのピンチなのでは?

 というか技Pが枯渇する事態なんか今まで無かったのだ。


 まずいな、と思いながら、俺が注目したのはアイテム欄だった。


「よし、ダグダムド! 君に決めた!」


 俺は祭具ローリィポーリィを取り出して地面に投げつけた。

 一見してつやつやの泥団子といったこれが、地面に触れると同時に膨れ上がる。


『呼び出しに応じたぞ。これが一回目だ』


 巨大なダンゴムシの姿をした六欲天が現れる。


『なんじゃと!? 六欲天を味方につけていたとな!? 英雄コールの再来はお前の方じゃったのかーっ!!』


『ほう、メイオーの使い魔が暗躍していたとはな。これは良き戦場だ』


 ダグダムドは巨体で紫の嵐を防ぎ、砂のブレスを吐きかけた。

 六欲天とシーマが激突する。


「よっしゃ、助かった! だが、技Pが減った状態は変わらない……あっ」


 気づくと、陣形が解除されてしまっていた。 

 これ、一定の技Pが無いと維持できないのか?

 これはまずい。

 ダグダムドがいつまで召喚してられるのか不明だからだ。

 あいつが消えたら、シーマの攻撃がこっちに来るぞ。

 その前になんとかしなくては。


「呪法……は俺の場合補助みたいなものだし。呪法技……? いや、技Pがないな」


 俺はうんうん唸った。

 その背中を、四つの手がばちーんと叩く。


「あいた!?」


「オクノくんらしくないよ! いつも考えるより先に動いてるじゃん!」


「君が誰よりも先を歩いてくれたから、お姉さんは安心してついていけるのよ!」


「オクノさんの動物的直感に基づいた指示はなかなか的確です。勘で行くべきです!」


 最後にラムハが、囁く。


「悩むこと? 選択肢があったら、常に困難な方を取るのがあなたでしょ。信じてるから」


 ここで選択肢。


・ダグダムドに任せて、一旦撤退しよう。技Pを回復させてから再戦すべきだ。

・チャーンス!! 技Pとかどうにかなるだろ! ってことで突撃!!


「チャーンス!! 技Pとかどうにかなるだろ! ってことで突撃!!」


 俺は走り出した。


「うむ、異存はない!」


 イクサも駆け出す。

 女子たちもあとに続く。


「幻獣術! 出てこい、オルトロス!」


 三度目の出番となる、双頭の魔犬オルトロスの幻を生み出す。

 俺は連携する気満々だ。

 技がないなら、まあ呪法でもいいだろ!

 行くぞこの野郎!


『かかってくる気か! ええい、のけ、六欲天!! わしの邪魔をするなあっ!!』


 シーマが叫ぶ。 

 奴はもう、目と鼻の先だ。

 よーし、ではここで攻撃を……。


 ピコーン!

『カムイ』


 なんか出た!

 だが、技は発動しない。

 俺のスタータスの中で、カムイ以外の技全てが点滅している。

 使えるのか?

 ……というか、これはもしや、組み合わせて使う……?


「ぶっつけ本番だ! オルトロス!」


 俺の指示を受けて、オルトロスが走った。

 その横を、カリナのバードハンティングが駆け抜けていく。


 光の線が、カリナからオルトロスへ。

 オルトロスが突進し、シーマにぶち当たる。


 光の線が、オルトロスからルリアへ。

 ルリアのスウィングがシーマを打ち据えて動きを止める。


 光の線が、ルリアからアミラへ。

 ウォーターガンがシーマのバリアを打ち破る。


 光の線が、アミラからラムハへ。

 ラムハが放った闇の槍が、シーマを貫く。


 光の線が、ラムハからイクサへ。

 十六夜の斬撃がシーマに深々と食い込み。


 光の線が、イクサからダグダムドへ。

 ダグダムドへ!?

 お前も参加するの!?

 六欲天の砂のブレスが、シーマを打ち倒し……。


 最後に、光の線が俺に届く。


「行くぞ! シャイニング・カムイ・ウィザード!」


 俺の中で、HPがごっそり削れるイメージがあった。 

 そして肉体が加速する。

 俺の体は飛び上がり、凄まじい威力でシーマに衝突した。


『バードルトロイングーター槍六ダムドカムイウィザード』


 今までにない威力、そして今までにない長さの名前になった技が、連携の締めのブーストを受けて、邪悪な呪法師を打ち貫く。


『こ、こ、これはぁーっ!! これほどの攻撃、まさか、人間が……!? ああ、駄目だ! 肉体を保てぬ! わしが滅びてしまう! うおおおおっ、メイオー様ああああああっ!! 申し訳ございませぬうううううう!!』


 絶叫を上げながら、シーマが吹き飛んだ。

 そして空まで打ち上げられて、そこで大爆発を起こす。

 よしっ!!

 勝ったっ!!

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