第42話 俺、戦場から撤退する

 シーマが爆発した隙である。


「撤収ー!!」


 俺は掛け声をあげた。

 思考より反射速度が勝るイクサがすぐさま反応し、ルリアとアミラの肩を叩いた後に高速で後退していく。

 我に返ったルリアとアミラも後退。


「ラムハ、乗ってく?」


 背中を指し示すと、彼女は笑って頷いた。


「今回もお願いね」


 ということで、ラムハをおぶって途中でカリナと日向を回収。

 一斉に戦場から退去する俺なのだ。

 この後、戦争がどうなるかは俺の知ったことではない。


 俺の仕事は呪法師シーマを倒すことだし、それは果たしたのだ。

 このまま戦場でぐずぐず残り、王国の兵士として活躍……なんてのは全然望んでないぞ。


 何分か走ると、戦場の外れにある繁みに到着した。

 ここで休憩。


「はい、みんなお疲れさまでしたー!」


「お疲れ様」


「おつかれー!」


「お疲れ様ね」


「お疲れさまです!」


「うむ」


「えっ、えっ、えっ!?」


 ラムハ、ルリア、アミラ、カリナ、イクサが応じて、日向が戸惑っている。


「あの、あのぉー、多摩川くん」


「なんですかね」


「私、普通にこれから王国に合流して私が保護されるんだと思ってたんだけど……」


「そうしたら王国にいいように使われそうじゃん。目的は果たしたから撤収。これ大事ね」


「そ……そういうものなの……?」


 状況がよくわかって無さそうな日向。

 よーし、説明してやるか。


「まずね、俺もそうだけどシーマに召喚された異世界の戦士は信用されてないっぽいの。むしろ敵?」


「敵……! 私たち、邪神メイオーと戦ったら元の世界に返してもらえるんじゃ……」


「そのシーマが邪神メイオーの神官だったでしょ。だからそれは嘘だね。戻す手段もあるかどうか分からない。まあ倒しちゃったけどね!」


「も、戻れない……!?」


 日向が泣きそうになる。


「あーっ、オクノくんが女の子泣かせてるー! いけないんだー!」


「なにいーっ。俺は嘘はつかないことにしてるのだ」


「その辺り、オクノさんはフェアですよね。ヒナタマキさんと言いましたか」


 俺に代わってカリナが説明してくれる。


「うん。あなたは……」


「わたしはカリナ。遊牧民で、オクノさんの妻です」


「違う」


「違うよ!」


「違うわよねえ」


 他の女子たちからすかさずツッコミが入ったぞ。


「う……。視線が痛い……。いいでしょう、今のところは妻候補です。いいですかヒナタマキさん。あなたがたが来た世界がどうかは分かりませんが、こちらはいつも戦争をしたり、モンスターの襲撃に怯えたりして暮らしているのです。どこに行っても戦いはなくなりません。だから、強い力を持っている人は常に頼られます。王国のような大きいところなら、あなたを利用しようとする者も出てくるでしょう。権力争いの道具にされることもあるでしょう。暗殺されるかも知れません」


「多摩川くんの妻……? 暗殺……?」


 日向、そこ二つをごっちゃにしちゃいけない。


「そんな面倒なことになると分かりきっている王国に、あなたは行きたいのですか? わたしはいやです。むしろ王国は滅ぼしたい。遊牧民のために」


 カリナの本音が出た。

 その辺り、日向は聞き流してから頭を抱える。


「ううーっ。どうしたらいいんだろう……。私、どうしよう……。クラスには戻れないよ。だってあそこ、五花くんがみんなをおかしくしちゃってるんだもの。もうみんなとも話が通じないし……」


「やはり!! 諸悪の根源はあいつだったかー」


 俺は納得した。

 こっちの世界に転移してきてから、いきなり処刑の裁判とかおかしいと思ったのだ。

 ああ、いや、もともとクラスの連中とは反りが合わなかったが。


「多摩川くん、五花くんとまた戦うの……? 同じクラスメイトなのに」


「そこは別にどうでもよくて、敵に回ったらまたぶっ飛ばす。今一番大事なのは、次はどこに行くかだな」


「えっ」


 日向が目を丸くした。


「クラスメイトと戦わなきゃいけないのかとか、どうやって元の世界に戻ろうとか、考えるのはいいけど悩んでるのは無駄だろ? だってここに答えはないじゃん。だったらとにかく動くしかないだろー。俺も元の世界に戻って、うちの親に元気でやってますって伝えなければならん……」


「オクノにも親がいたのね」


「ラムハが失敬なことを言ってくる……!」


 このやり取りを見て、ルリアとアミラとカリナが笑った。

 イクサは多分、よく分かってない。


 だが、日向はちょっとリラックスしたようだった。


「そっか……。そうだよね。一人で悩んでても仕方ないもんね。多摩川くん、元の世界では変な人だし気持ち悪いと思ってたけど、ちゃんとしてるんだなあ」


「今ひどいこと言わなかった?」


「お願い、多摩川くん。私も連れて行って。私、頼れるのがあなたしかいないし、一人だとうじうじ悩んじゃうし……」


「いいよ」


「えっ!? いいの!?」


「ただし、パーティは最大六人までだから、戦闘のたびにメンバーを入れ替えて戦わなきゃいけないな。この辺のパーティ構成も考えねば……!」


 新しい問題が生まれてしまった。

 七人いて、パーティは六人までで、陣形は五人まで。

 ええい、なんで微妙に足らないのだ。


「オクノ。パーティを戦闘時、二つに分けるのも手だ。言わば、俺たちは傭兵団のようなものになるな。団長はお前が務めるが、部隊はその都度部隊長を任命してそいつに任せればいい」


「イクサが頭のいいことを言う……!」


「辺境伯の受け売りだ。部隊を分けることは良くあるからな。それに、俺はお前のもとに、まだまだこの世界にいる強者たちが集まってきそうな気がしているんだ」


「それはイクサの感想?」


「俺の直感さ。善悪の判断はつかんが、だいたい外れたことはない」


 なるほど。

 これ以上にメンバーが増える……。

 確かにそうなると、傭兵団だな。


「それじゃあ、次に行くところだけど」


 俺が次なる議題を立ち上げようとしたら、戦場が騒がしくなって来た。

 みんな、シーマが倒された後の茫然自失状態から回復したらしい。

 どうも、戦争どころではなくなっているようだ。


「捜索隊が来るかも知れないな。みんな、移動再開! ええと、どこに行こう。詳しい人?」


「あちこち旅をして来たから知っているわ」


 ラムハが挙手した。


「はい、ラムハさん」


「では、オクノ団長から今後の方針を任されたので、私からこれからの行き先を話すわね。ここから北に向かってまっすぐ行くと、だんだん暑くなってくるの。気候も変わってくるわ。そして、大海アドバードが広がっている」


 海に向かうということか。

 というか、北に行くと暑くなるって……。


「この世界、南半球の世界なのね」


 日向がいいことを言った。

 そう、それ。

 俺たちは、ちょっと寒冷なところをぐるぐる巡って旅をしてたみたいだ。


「北は帝国も王国もなくなるわ。途中でカリナが暮らしていた遊牧民の土地もあるから、そこに寄るのも良いかも知れないわね。そうなったら、遊牧民に手出ししようとしている王国は敵になるかしら。そこから、狩りの女神キシアが支配するという大森林。大地の女神イシーマの神殿があるというイシーマ砂漠……。多分、シーマはこのイシーマから名前を取ったのね」


 ちょこちょこ豆知識が挟まれる。

 どこまで旅してたんだラムハ。


「アドバード海の向こうには、かつて海賊王が宝を隠したと言われる島々があるわ。そこは無数の島が連なっていて、海のフロンティアとも呼ばれているの。チャンスはあるけど危険な場所。六欲天の一柱も住んでいるわね。とりあえずの目的地は、この宝探しなんてどう?」


「宝探し! いいね!」


 次なる方針は決定だ。

 この世界には幾らでもイベントが待ち構えてそうだし、行く先々で面白いことがあるに違いない。

 ひとまずはあちこち寄り道しながら海を目指してみようか。

 最終目的は宝探し。

 それで行こう。


 かくして、戦場をかき回すだけかき回した俺たちは振り返ること無く、新たな旅路につくのだった。



 第一部:始動編  →  第二部:彷徨編


─────────

お読みいただきありがとうございます!

本作のモットーは、ノーストレス、サクサク爽快ゲーム風ファンタジーであります。

こんなちょっと暗くなってる世の中だからこそ、この作品の中だけでも明るくやってまいりますよ!


面白い!

サクサクサクッ!

ウグワー!

など感じていただけましたら、下の方の★か、ビューワーアプリなら下の方の矢印を展開し、ちょこちょこっと評価いただけますと作者が大喜びします!


ちなみに、こちらは筆者の書籍化作。

最も初めに「ウグワーッ」が登場する、コメディ作品であります。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894765084

いきなり大魔導! ~地主の息子で天才魔導師! だが魔法は目とか尻から出る~


こちらは新作!

最新、最強のウグワーッ!!を見届けろ……!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054898096185

聖女の腕力は最強です!~転生聖女による、異世界・世紀末救世主伝説~


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る