第31話 俺、六欲天に力を見せる
「六欲天に力を見せれば退いてくれる、だと!?」
辺境伯は驚いたようだった。
そりゃそうだ。俺だって驚く。
ダグダムドは、かなり物分りがいい六欲天だったのだ。
「だよな、ダグダムド」
『力無き者の言葉に耳を傾ける価値はない』
「逆を言うと、力があれば話を聞くってことだよな」
『うむ』
律儀に返事をしてくれる。
こいつは、自分と同格かそれに近いか、示してみせろと言っているのだ。
「驚いた。六欲天と交渉しようなどという発想がそもそも我々にはない。彼らは災厄そのものだからね。だが、オクノ、君がやれるというならば任せよう。私から学んだ陣形を活かしてみせよ」
「おう! イクサ、手を貸してくれ」
「無論だ。どの陣形で行く?」
「ラムハが寝間着なんで、玄武陣!!」
「……ごめんなさい」
ラムハが消え入りそうな声で謝った。
アベレッジはそんなラムハを見て、「可愛いですなあ」とデレデレしてる。大丈夫かこの人。
ということで玄武陣。
俺とイクサのツートップで前衛を支え、イーヒンとアベレッジが中衛。後衛にラムハ。
後衛へのダメージを最小限にする陣形だ。
『陣形! まだ使えるものが残っていたか! うおおん!』
ダグダムドはまるで発電機みたいな唸り声をあげると、上から覆いかぶさるように襲いかかってきた。
小山が雪崩落ちてくるようなスケールだ。
だが、こいつが俺たちの頭上で速度を落とす。
玄武陣の効果だ。
「ブロッキング!」
「ディフレクト!」
俺とイクサの防御技が、六欲天のプレスを跳ね除けた。
「あの巨体を人間の力で!?」
アベレッジが驚く。
後ろから見ると、ダグダムドがのしかかりを跳ね返されたように見えたようだ。
『こしゃくな、があーっ!!』
六欲天の口から、土砂のブレスが襲いかかる。
「闇の障壁!!」
これは、ラムハが展開した呪法の壁で防ぎ切る。
本来、彼女の呪法にはこれほどの威力はない。全て陣形で強化されているからできることなのだ。
圧倒的防御力!
鉄壁なり、玄武陣!
だけど弱点はあるもので。
「飛翔斬!」
イクサとイーヒンの師弟コンビが放った飛ぶ斬撃は、ダグダムドの甲羅に当たったがダメージを与えられていない。
「攻撃力が落ちるみたいだな。つまり、持久戦向きってことか」
「うぬー!」
俺の感想を聞いて、イクサが悔しげな顔をした。
攻めたがりだもんなー。
でも、今守りを薄くするとラムハが危ないので、ここは持久戦でじりじり行こう。
それに、俺にいい考えがある。
この防御力を持った陣形と、防御を無視する効果を持った連携。
同時に使ったりできないものか?
「みんな、陣形を維持しながら……歩くぞ!!」
「玄武陣で歩く!?」
俺の提案に、イーヒンから驚きの声が上がった。
防御主体の陣形だから、基本的に待ちの一手というのがセオリーらしい。
だけど、この状況は攻めないとなかなか変わらないからな。
あとは、準備が終わったうちの女子たちが出てきたところを、戦いに巻き込まれるのは避けたい。
「戦場を移動させた方が被害とか少なくなるだろ?」
「確かに! 私には無かった発想だ。君が騎士の生まれであれば、私の養子にしていたところだよ」
イーヒンが嬉しそうだ。
辺境伯の息子ってのは権力はありそうだけど、この間の会議を見るに色々しきたりとか人間関係でがんじがらめっぽいなあ。
俺は人付き合いはとても苦手なので、もし騎士の生まれでも遠慮したい……!
と、いうことで!
「移動ー!」
じりじりっと、陣形を維持しながら城壁の方に移動していく俺たちなのだ。
正面をダグダムドに向けながら、城壁へとカニ歩きで寄っていく。
『ほう』
六欲天もこの意図は理解したらしい。
そして乗ってくる。
『わし相手に人間の巣を守ろうというのか。なるほどなあ』
巨大ダンゴムシな六欲天は、どこか愉快そうに言いながら俺たちにのしかかってくる。
無数の足で、かきむしってくる作戦だ。
何気にこれはきついぞ!
一発を防ぐならディフレクトやブロッキングでいい。
ブレスなどは闇の障壁で防げる。
だが、こういう長く続きそうな連続攻撃はどう防ぐ!?
「こう防ぐのだよ! オクノ、イクサ、見ているがいい! 流星剣!」
イーヒンが剣を掲げる。
切っ先に光が宿り、それがどんどんと膨れ上がり……。
頭上にのしかかるダグダムド目掛けて、そこから無数の光が飛び立った。
地上から空に上っていく流星だ。
それが、一つ一つ剣の形になって、六欲天の巨体に叩きつけられる。
『ムグワーッ!!』
堪らず、六欲天が体を起こした。
「攻めの技も、使い所を変えれば守りの技となる! 技を使える選ばれし者ならば、己の手札を見極めよ! 必ずや事態を突破する鍵がある!」
イーヒン辺境伯、めちゃめちゃ師匠キャラっぽいぞ!!
俺は誰かにこうやって物を習った経験が無いので、新鮮だ。
何気に感動を覚える。
「おっしゃ!! よく分かったぞ!」
「俺も理解した! つまり、攻撃の技を攻撃だからと、自分で縛ることはないのだな!」
イクサも分かったらしい。
やはりイーヒンは優秀な指導者なのだ。技名をかっこいい漢字にして読めなくしちゃう以外は。
『小癪な人間め! ではわしの本気をどうさばく? ぐおおおーっ!!』
ダグダムドの巨体が跳ね上がった。
それが空中で、ばかでかい球体に変形する。
なるほど、ダンゴムシだ!
重さ何千トンとかありそうなそいつが、俺たち目掛けてスピンしながら落下してきた。
うおーっ!? あのサイズの落下はもう、範囲攻撃だろ!
「迎撃! 陣形技タートルクラッシュ!」
俺が宣言すると、陣形が光り輝いたように思った。
俺とイクサの二人が跳躍し、
「フライングクロスチョップ!」
俺の一撃がダグダムドに炸裂。
すると、俺からイクサへと光の線が伸びた。
「裂空斬!!」
そして光はラムハへ。
「闇の炎!!」
『タートルクラッシュ・フライング空炎』
フライングなのか空なのかどっちなんだよ!
だが、陣形によって強化されたっぽい連携が、落下してきたダグダムドを迎え撃つ。
以前の三連携ではウーボイドを倒せなかったが……これなら!
『ウグワーッ!!』
連携を浴びて、六欲天の巨体が空中でバウンドした。
そいつは城壁の外へと放り出されて、轟音とともに墜落する。
地面が揺れる揺れる。なかなかの地震だ。
辺境伯領で、幾つかの建物が崩れたようだ。ダグダムドが直接攻撃した時以上の被害かも。
だが、当の六欲天は……。
城壁の外に生まれたクレーターの中、腹を見せて仰向けに伸びていた。
『ヌワーッ』
すぐに気がついたようで、わしゃわしゃと空を掻く足。
あれ?
ひっくり返ると起き上がれない?
『ヌワーッ』
わしゃわしゃ。
「もしや助けが必要?」
『うむ……頼む』
お願いしてきた。
お願いされると弱いなあ。
「イーヒン、助けるけどよろしい?」
「君の好きなようにせよ。六欲天からは、既に敵意を感じない」
辺境伯も剣を納めた。
「やれやれ、口ほどにもないやつですね」
アベレッジが肩をすくめる。
お前、数合わせだったけど本当に数合わせだったなあ……。
ちなみにそんなアベレッジの頭に、ダグダムドが飛ばした石ころが降ってきて、ごちんと音を立てた。
ぶっ倒れて目を回すアベレッジ。
「さて……じゃあ起こすか!」
俺は六欲天へと駆け寄った。
「エアプレーンスピン!」
技の効果で、重さとかを無視!
ダンゴムシの巨体を持ち上げると、俺はそいつを振り回して、森の方向に投げ飛ばした。
宙に舞ったダグダムドは、足をわしゃわしゃと動かして姿勢を制御する。
そして、再び轟音を上げて着地した。
『助かった』
心底ほっとしたような声が聞こえる。
そして、ダンゴムシが寄ってきた。
『お前を英雄コールの再来と認めよう』
「えっ、そういう話だっけ!?」
『これを持っていけ。わしからの信頼の証だ』
ダグダムドの触覚が、俺に向けて何かを放り投げる。
それは、ピカピカに磨かれた泥団子のようなものだった。
手にした瞬間、俺の所持品として登録される。
『祭具・ローリィポーリィ』
なんだこれ?
首をかしげる俺に、ダグダムドが言葉を掛けてくる。
『お前の名前を教えろ』
「オクノだ!」
『オクノよ。必要になった時、祭具に向かってわしを呼ぶがいい。三度まで助けてやろう。だが最後の一度は、勝負の時まで取っておけ。邪神メイオーは人間の力だけで倒せるものではない』
「おう!」
『ではな。約束通り、山奥で力を蓄えることにする』
そう言って、ダグダムドは去っていった。
律儀な奴だった……!
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