第30話 俺、二柱目の六欲天と遭遇する

 夕方なので城に戻って一休みした。

 陣形技は、参加メンバーのMPを均等に消費するっぽい。

 強いけど連発はできないんだな。


「今日はお楽しみだったようね」


 つーんとした様子のラムハ。

 拗ねてる。

 かわいい。


「大変でしたよ……。何が起きているか最初は分からなくて、でも使いこなすとこれは強いかも知れません。オクノさんしだいですね」


 その辺の空気を読まないカリナが、陣形と陣形技の凄さを朗々と語るのだ。

 聴いているラムハとアミラが、複雑な表情になっていく。


「私たちだってやりたいのに……」


「よし、二日目もくじ引きしよ?」


 そのやり方はいかんと言うのに。

 ほら、またルリアとカリナが勝ち……おや!?

 今度はアミラが勝った!


「やったーっ!!」


 アミラが全力で拳を天に突き上げる。

 今度は力なくカリナがベッドに倒れ込んだ。


 運の良さの差が1くらいだから、乱数で結果が変動するのかも知れないな。

 ルリアみたいに異常数値の運の良さでもない限り。


 ということで、明日のメンバーはルリアとアミラになった。

 二回連続で落選したラムハは、燃え尽きて真っ白になっている。


 陣形、五人制限なのは色々大変だなあ。





 その夜のこと。

 イクサと同じ男部屋で、ともに爆睡している俺たちだったが、突然の轟音に目を覚ました。


「何だ何だ!?」


 飛び起きて、窓から身を乗り出してみる。

 暗くてよく見えない。

 この世界、夜は本当に真っ暗だからなあ。

 街灯とか無いし。


「なんだー?」


 なので何が起こったのか全く分からん!


「城壁が破壊されたのだろう。敵が入ってくるぞ」


 イクサが既に、戦うための衣装に着替えている。


「暗闇の中での戦いになる。仲間たちに火を用意できるものはいるか?」


「火……。ラムハは闇の炎だから真逆だな……」


 まあなんとかなるだろう、という気分で、俺もさっさと着替えて外に出る。

 すると、ラムハが待ち構えていた。


「行くんでしょう? 私も行くわ」


 なんと寝間着である。


「ラムハ、もうちょっと戦うための服を着たほうが」


「着てたら間に合わないでしょう! あとの三人が準備している間に飛び出してきたんだから!」


 彼女は彼女で大変焦っているようだ。

 仕方ない。

 こういう状況で、防御力が弱い仲間を守るために陣形がある。


 陣形は最大五人、最少で二人で使える。

 この三人なら問題ないだろう。


「よーし、じゃあ行くぞ! あ、ラムハ。俺の上着を着ておくように……。風邪とか引くでしょそれじゃー」


「ありがとっ!」


 ラムハは笑顔になって、いそいそと俺の服に袖を通す。

 ということで、急いで三人で外に出るのだ。

 すると、すぐ近くで何か巨大なものが蠢いているのが分かった。


 小山みたいなやつが、地面に生えた草を貪り食っている。


「もしや六欲天さん?」


 俺が声を掛けると、小山みたいなものがピタリと動きを止めた。

 その場に、後から後から、辺境伯領の兵士や騎士たちが集まってくる。


 巨大なものが蠢き、恐らくはこちらへ方向を変えた。

 だんだん闇に目が慣れてきて、そいつの姿が見えるようになってくる。


 城壁があったところは、でかい穴が空き星空が見えた。

 そして、その星空を半分隠すくらい大きな半円形のものが、目の前にいる。


『人間と交わす言葉など無い』


 金属を軋ませるような声が、それだけ言った。


 そうだよなー。

 普通、超越的な存在とか、人間みたいな小さいものを相手になんかしないよな。

 ウーボイドがちょっと変わってただけなのでは。


 なので、気にしてもらえるような話をしてみることにする。


「俺はウーボイドをやっつけたんだけど」


 すると、六欲天ダグダムドはびくりと反応した。

 全身を覆う甲冑みたいな甲羅が擦れあい、地鳴りのような音がする。


『ウーボイドが死んだことは知っていた。お前が?』


 闇の中で、ギラリと輝く巨大な二つの球が出現した。

 ダグダムドの目だろう。


『嘘をつくな。人間には無理だ』


「それは嘘でも構わないんで、あのね、あんたが森や作物を食べるからみんな困ってるんだ。やめてくれない?」


 俺はダグダムドに伝えながら、横のイクサに注意を払う。

 こいつ、勝手に戦いを始めそうだからな。


『それは無理だ。メイオーの再来に備えねばならない』


「メイオーって邪神だろ? 一度はあんたらと、英雄コールに倒されたって言うじゃん。本当に蘇るの?」


『モンスターはメイオーに作られた。モンスターは皆、メイオーが復活することを知って活性化している』


 感覚で分かるってやつか。

 しかしこのダグダムド、人間と交わす言葉は無いとか言いながら、色々教えてくれるじゃないか。

 理知的な感じだし、うちのクラスの連中よりもよほど話が通じるぞ。


「オクノ、やらないのか」


「俺ら三人じゃきついだろ。ウーボイドの時も攻めきれなかった。連携なら六人だし、陣形なら五人いた方がいい」


 イクサにそう言い含めて、ちょっと時間を稼ぐことにする。

 この状況なら、イーヒン辺境伯もすぐにやって来るだろう。

 これで四人……四人?

 一人足りなくない?


 うちの女子たちが準備が終わって出てくるのを待つか?


「じゃあさ、もっと他所で飯を食ってくれない? 人間も迷惑してるし、あんまりあんたが無茶やるなら俺たちも戦わなくちゃいけない。俺たちは強いよー」


『ふん』


 ダグダムドから、こちらを嘲るような気配が伝わってくる。

 だよなー。

 俺があいつの立場だったとして、米粒みたいな奴に脅されて、はいそうですかって言うことを聞くわけがない。


『わしに言うことを聞かせたいならば力を見せろ』


 あれ?

 なんかチャンスを与える的な感じだ。

 こいつ、ウーボイドみたいなクソ野郎では無いのでは……?


 一応、六欲天ってコールとともにメイオーを討ち、人間を救った存在ではあるもんな。


 ダグダムドの体が、ふわりと浮かび上がったように感じた。

 いや、地面に這いつくばっていたものが、無数の足を立てて身を起こしたのだ。


 騎士たちが持ってきた松明に照らされて、巨体がよく見える。

 確かに、それは超巨大なダンゴムシだった。


「遅くなった! これで四人か。あと一人はどうするのだ?」


 イーヒンがやって来た。

 四人入れば、一応陣形はいけるな。

 あと一人、一人……。


「あわわ」


 あっ、松明を持っていた騎士の一人と目が合ったぞ。

 こいつでいいや。


「イーヒンさん、じゃあこいつでどうかしら」


「なにっ。その男は騎士アベレッジ。何でもできるが、何一つ秀でたものがない男……いや、構成員として陣形を任せるならば適材か……」


「は? 僕ですか?」


「よし、頼むぞアベレッジ! お前をパーティに加える!!」


「はい!? はいーっ!?」


 ということで、通りかかりの騎士をパーティに加え、俺たちは五人となった。

 戦闘態勢になったダグダムドに目にものを見せてやるぞ!



名前:アベレッジ

レベル:33

職業:騎士


力   :66

身の守り:55

素早さ :66

賢さ  :55

運の良さ:66


HP333

MP111


剣22レベル

光の呪法11レベル


★呪法

・レイ・ブライトヒール


 見事にゾロ目ばっかりの能力だなこいつ……!


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